第6章 - 姉妹のような対決
趙可欣は言葉を失い、助けを求めるように陳明軍を見やった。
だが彼はただ肩をすくめ、にこやかに微笑むだけ――まるで「次は君の番だ、ハン妹」と言わんばかりに。
趙可欣は立ち上がり、衣の裾を正し、落ち着いた眼差しで率直に告げた。
「お嬢さん、はっきり申します。私の本当の武器はカランビット――湾曲した刃で、一撃で命を奪えるものです。そして飛刀は、放てば敵は死ぬか重傷。いずれも友好的な試合には不向きです。」
ヒロキは頷き、薄く笑った。
「趙嬢の言うとおりだ。では木製の武器を用いよう。」
すぐに門弟が運んできたのは――
巨大で重々しい木製の大太刀、まるで丸太を割ったような代物。そして短刀を模した木製の暗器数本、清らかな竹の盆に整然と並べられている。
趙可欣は思わず頭を振り、嘆息した。
「まったく……さっきまで刺身を食べていたのに、今は木の棒で叩き合うのね。」
対照的に、アヤメの目は星のように輝き、手を大太刀に置いたその姿は、まるで正月に贈り物をもらった子供のように無邪気であった。
趙可欣が半ば呆れ顔で木製の武器を見ていると、アヤメは不意に首をかしげ、輝く瞳で近づいてきた。
小さな声、しかし隠しきれぬ茶目っ気があった。
「お姉さま……一度だけ、戦わせてください。」
その甘い「お姉さま」の一言に、趙可欣は驚き、言葉を詰まらせる。断ろうと思っていた決意も、そのうるんだ瞳に押され、口を開けぬまま。
遠くで、ヒロキは正座しながら酒を口に含み、唇に浮かぶ笑みで静かに眺めていた。妹が子供のように「稽古」を求める姿を、わざと黙認しているのだ。
趙可欣は大きく息を吐き、心中で嘆いた。
「しまった……この子、しぶとい上に可愛げまである。断れば無情だと思われるわ。」
深呼吸を一つしてから、彼女はきっぱりと言った。
「いいでしょう。ただし条件を先に申します。あくまで一戦のみ、象徴的な試合です。私は、客人が主家と手を交えるのを好みませんから。」
彼女は手を上げ、二種類の木製武器を指し示す。
「規則はこうです。アヤメの大太刀が私の首に触れれば、あなたの勝ち。逆に、私の木製の短刀が急所に届けば、試合はそこで終わり。互いに手加減を忘れぬこと。」
アヤメは即座に大きく頷き、瞳をきらきらさせ、無邪気に答えた。
一方、ヒロキは笑みを浮かべ、酒盃を卓に軽く置いた。
「良い。武人は礼を重んじる。一戦あれば、高下は自ずと分かる。」
趙可欣は心中で祈った。
「どうか本当に、一戦だけで済みますように……。」
試合の前、家人たちが道場に入り、再び整え始めた。
盆栽を運び入れ、小さな桜を飾り、鯉の池の周りに石を並べる。道場は瞬く間に小さな日本庭園となり、完璧な美しさを演出した。
陳明軍は腕を組んで眺め、心の中でつぶやく。
「この侍……本当に唯一無二だな。」
ヒロキは帯を整え、淡々と説明した。
「本日の試合はすべて記録用に撮影している。ゆえに一つひとつの所作も美しくなければならない。武人の礼は、未来に残る映像の中でも損なわれてはならない。」
二人の女性は道場の中央に進み出た。
畳は輝き、盆栽と桜が彩りを添え、木の香りが満ちている。
趙可欣は礼をし、静かな眼差しを光らせた。身にはぴたりとした戦闘衣――布は体の曲線を際立たせ、女性らしさと武人の強さを同時に示す。腰の飛刀は木製に替えられ、灯りに艶やかに光る。
対するアヤメも深々と礼をした。両手に持つのは人より長い大太刀。彼女はそれを水平には構えず、斜めに床へ下ろし、畳に重々しく響かせる。
その姿は威厳に満ち、同時に「準備はできている」という無言の挑戦でもあった。
――試合開始。
趙可欣は鋭く踏み込み、短刀を下から喉へと突き上げる。
アヤメは大太刀を振るわず、左肘で相手の手首を弾いた。軌道は逸れ、刃は肩衣をかすめただけだった。
短刀二本が連続で回転し、嵐のように襲いかかる。だがアヤメは落ち着き、円を描くように退きつつ、視線を外さない。時に腰をひねって避け、時に肘で相手の腕を押さえ、殺気を和らげる。
畳に足音が鳴り響き、二人の影が絡み合う。氷の女王と呼ばれる趙可欣と、侍の規律で育った少女――その対照的な気迫が一つのリズムを生んだ。
沈黙の中、ヒロキは低く呟いた。
「そうだ。これこそ真の試合だ。ただ武器を競うのではなく、心を映し合うものだ。」
突如、アヤメは大太刀を支点にし、体を宙へと跳ね上げた。小さな両脚が鞭のように胸へ叩きつけられる。趙可欣は驚き、両腕を交差させて受け止めたが、体は揺さぶられた。
猫のように着地したアヤメは、大太刀を再び構え、頭上から振り下ろす。風を切る音は雷鳴のようで、畳が震えた。
連撃は止まらず、重く速い打撃が続く。
趙可欣も怯まず、短刀を振り、次々と斬り上げる。だがアヤメは身を翻し、武器を逆手に持ち替え、流れるように攻撃を繋げた。
「ガツン!」木が肩をかすめ、趙可欣は思わず息を呑んだ。
――この娘、ただの無邪気な少女ではない。実戦の勘を備えている。
さらに背後に回り込んだアヤメは、袴を翻しながら踵を突き出す。反射的に両腕を交差させて受けたが、衝撃で体が弾かれ、畳を滑った。
すぐに立ち上がった趙可欣は、反動を利用して二本の短刀を同時に投げた。稲妻のように走る二条の影――一つは胸、一つは肩を狙う。
アヤメは驚きつつも冷静だった。大太刀を弧を描いて振り、二本の刃を弾き落とす。カン、カン、と音を立て、畳に転がった。
趙可欣の目に驚きと喜びが交じった光が宿る。
「この子……本当に侮れない。」
彼女は着地し、軽く膝をついて胸に手を当て、わざと弱々しく咳をした。
「もう……いいわ、明軍……疲れちゃった……。」
その声音は甘く、道場の空気を一瞬止めた。
アヤメは大きな目をさらに丸くし、武人がそんな風に降参するとは夢にも思わなかった。だがすぐに理解し、同情の色を浮かべた。
彼女は大太刀を下げ、深く礼をした。
「お姉さま、ご指導ありがとうございました。」
――静けさの中に、甘く温かな余韻が残った。
一方は戯けたように疲れを装う女傑、もう一方は礼を尽くす少女。だが二人の間には、不思議な微笑みが確かに交わされていた。