第23章 - 火影陣
黒炎帝君は七絶邪王剣を高く掲げ、血に濡れた黒炎が天空を覆った。
その声は魔神の審判のごとく轟く。
「陳 明君! 趙 可欣!
お前たちを敬おう――天命の武者よ。
だが、この俺を倒すだと? 百年早いわ!」
彼は大地を踏み鳴らし、阿蘇全山が震え、溶岩は瀑布のごとく噴き上がる。
「かかって来い!」――咆哮は空を裂いた。
七絶邪王剣が唸りを上げ、七つの黒炎の柱が牙のごとく飛び散る。
大地は裂け、雷の速さで襲いかかる炎。
陳 明君は退かず、両手を大地に叩きつけた。
土気が爆発し、巨壁の如き岩石がそびえ立つ。
炎柱はそれに激突し、赤き溶岩の破片が四散する。
その刹那、趙 可欣が舞い上がった。
衣は風に翻り、印を結んだ掌から氷気が奔る。
百の氷矢が火獄に降り注いだ。
「ドォン! ドォン! ドォン!」
火と氷が激突し、白と紅の閃光が火口を照らす。
煙と灰の中から現れた黒炎帝君は無傷。
炎鎧はさらに輝きを増し、剣は嵐を飲み込むかのように震えていた。
彼は狂笑し、稲妻のごとき速さで突進する。
剣を薙ぎ払い、脚で連撃を放ち、もう一方の手からは鉤爪のような黒炎を放つ。
明君は九銀霊刀で受け流し、可欣は氷盾を展開して防いだ。
火口の縁で三人の影が交錯する。
鋼と爆音と咆哮――死闘の序曲が鳴り響いた。
黒炎帝君が咆哮し、七絶邪王剣を振り下ろす。
「ドォオオオン!!!」
七枝の剣が分裂し、七つの黒炎刃となって飛翔する。
それは七頭の炎竜のごとく天空を裂いた。
一本は趙 可欣へ。
一本は陳 明君へ。
残る五本は後衛へ襲いかかる。
「気をつけろ!」――神崎 宏樹の叫び。
彼は二刀を交差させ受け止め、血が傷口から噴き出した。
神崎 蓮司は咆哮し、素手で黒炎刃を殴りつけた。
拳は裂け、血が飛び散るが、軌道を逸らすことに成功する。
綾女は歯を食いしばり、大太刀を振るう。
「ギィン!」――炎刃を弾き返すが、負傷の肩が裂け、血が奔った。
三人の小さな影は炎の豪雨に抗い、血と汗が赤い霧となった。
前方では、可欣が氷壁で二刃を封じ、掌で跳ね返す。
同時に明君は大地を隆起させ、巨石で一刃を受け止めた。
だが、五刃は狼の群れのように旋回し、熱を増し、圧力は空気を震わせた。
黒炎帝君は炎の中心に立ち、魔王の笑みを浮かべる。
「七絶火影陣――この輪から逃れられると思うな!」
その時、氷嵐を裂く鋭い音が降り注ぐ。
「ヒュオオオ――!」
空より落ちるのは、九銀霊刀に極限の氷気を込めた巨大な氷刃。
可欣と明君の合力が形を成した。
「ドォオオオン!!!」
黒炎帝君は驚愕し、全ての炎を剣に注ぎ防いだ。
衝撃は彼を揺さぶり、七枝の一本が砕け、炎の欠片が飛散する。
その隙を逃さず、神崎 宏樹が叫ぶ。
「綾女! 大太刀を足場に! 蓮司、扇で風を!」
綾女は大太刀を振り、宏樹を押し上げる。
蓮司は扇を広げ、旋風で宏樹を矢のように放った。
「ウオオオオ!」
宏樹は二刀を胸に突き立て、黒炎帝君に突撃した。
「ドォオオオオン!!!」
炎と岩が爆ぜ、両者は火口に呑まれた。
炎の中から現れたのは――燃え盛る火焰魔君。
髪は炎に染まり、眼は紅に輝き、声は魔獣の唸り。
「火焰魔君――ここに顕現せり!」
黒炎帝君は一瞬止まり、やがて狂笑する。
「フハハハ……結局は同じ火の魔。神崎の血とは、この邪炎に他ならぬ!
俺の火焰石も、お前との決戦を望んでいる!」
二体の魔が咆哮し、炎と炎が衝突する。
剣と剣が噛み合い、黒炎と紅炎が爆ぜ、阿蘇山は地獄と化した。
溶岩は柱となり、天を灼いた。
――これは生死の戦いではない。
火族の血脈を継ぐ者、誰が真の後継かを決める審判であった。
紅炎が優勢に傾くたびに、宏樹の剣は強さを増し、黒炎を押し返す。
「ドォン!」――黒炎帝の鎧が砕け、火花が散る。
だが彼も怯まず、七絶邪王剣を薙ぎ払い、宏樹の胸を灼く。
血と炎が舞う中、宏樹はなお立ち上がる。
「神崎の炎――邪炎に屈することはない!」
再び激突する二つの炎。
その光景は空を裂き、大地を砕き、審判の時を告げた。
だが突如、黒炎帝君の剣が宏樹を弾き飛ばし、刀を溶岩に落とす。
しかし宏樹は絶叫し、敵の腕を掴み返し、七枝剣を逆に捻り――黒炎帝君の腹を貫いた。
「グワァァァァッ!!!」
鮮血と黒炎が噴き出し、巨体は崩れ落ちる。
「終わった……ついに……」宏樹は息を吐き、魔炎の姿は解け、血に濡れた人の姿に戻った。
彼はよろめきながらも背を向け、仲間と共に山を下りた。
だが――阿蘇の溶岩の奥で、影が蠢く。
黒炎帝君は立ち上がり、七絶邪王剣を引き抜いた。
血は流れず、炎が迸り、傷は瞬時に閉じた。
「まだ……終わらぬ!!!」
轟音と共に彼は火口から飛翔し、炎の翼を背に纏って宙を駆ける。
山道を走る車は衝撃に揺れ、背後に巨影が降り立つ。
剣が振り下ろされ、車は真っ二つに裂け、炎に呑まれた。
爆炎の中、笑い声が木霊する。
「フハハハハ! 貴様ら――逃げ場はないぞ!」
可欣は咳き込みながら立ち上がり、炎に染まる空を睨む。
黒炎帝君は天に浮かび、黒き太陽のごとき剣を掲げ、最後の一撃を放とうとしていた。