第21章 - 血と炎の中
大広間に響き渡る轟音は、地下の炎さえも震わせた。
綾女(あやめ/綾女)はすぐさま大太刀を掲げ、その長い刃を佐藤(さとる/佐藤)の顔へと突きつけた。
彼女の瞳が鋼のように閃き、声は鉄の響きの如く鳴り渡る。
「裏切り者…貴様はここで死ね!」
佐藤は顔を伏せ、綾女を直視できず、両手を体側に強く押しつけ、木の葉のように震えていた。
忠誠の仮面の下から、卑しい虫の本性が露わになっていた。
一方、陶天俊(とう・てんしゅん/陶 天俊)は後方へ深く腰を下ろし、炎の玉座に君臨する王のごとく鎮座していた。
彼は覆面を外し、無造作に投げ捨てた。
露わになった顔は真っ赤に焼けた鉄のようで、血管が裂け、裂け目から炎光が滲み出る。
それは人間の容貌ではなく、炎気と怨念に蝕まれた怪異の相貌であった。
直後、宋芳麗(そう・ほうれい/宋 芳麗)と二人の剣客が黒き矛のごとく突進する。
彼らの一太刀一太刀は冷酷な命令のように鋭く、容赦なかった。
綾女は大太刀を振り抜き、雷鳴のような金属音が轟く。
敵の剣が肩を貫こうとした刹那、彼女は身を翻し、反撃の一閃で相手の袖を裂き、鮮血が散った。
さらに一撃、彼女の斬撃は襲い来る剣士を押し返した。
その時、神崎宏樹(かんざき・ひろき/神崎 宏樹)が迷わず飛び込み、綾女を庇いながら二人の剣客を牽制する。
彼の目は石のように冷たく、動きは鋭かった。だが頭上では、蓮司(れんじ/神崎 蓮司)と母・神崎が炎穴の上に縛られている――不用意な一撃は彼らを地獄へ落としかねなかった。
佐藤は後退し、汗に濡れた背を震わせる。目に一瞬、後悔の光が宿る――それは恐怖の幻影か。だが彼の影は依然、陶天俊の側にあった。
陶天俊は冷笑し、掌に黒炎を灯す。その漆黒の炎は一瞬で空気を焦がし、大広間を息苦しい牢獄へと変えた。
剣戟の渦中で綾女は異様な熱気を感じ取り、宏樹は悟った。――これはただの決闘ではない。地獄の幕が上がるのだ、と。
鮮血が床を染め、二人の剣客が倒れる。宋芳麗も宏樹の蹴撃に吹き飛ばされ、炎の王座前に転がった。
陶天俊は低く命じる。
「もうよい。下がれ。」
宋芳麗と佐藤は悔しげに頭を垂れ、奥へ退いた。
静寂が訪れ、炎の轟きのみが残る。陶天俊が重い足音を響かせ、武堂の中央へ進み出た。
鎧が鳴り響き、片手で刀を抜くと、その刃は瞬時に炎を纏い、紅黒の火槍と化した。
「今日こそ…父に代わり、この弟妹どもに“教育”してやる!」
怒号とともに柱が震え、宏樹は突進した。炎と鋼が交錯し、剣戟は閃光と爆炎を撒き散らした。
その間、綾女は梁へ跳び、鎖を断ち切る。母と蓮司を救い出すが、蓮司は血に染まりながらも猛獣のごとく陶天俊へ突進する。
「政虎ォォ! 死ねぇぇぇ!」
――だが陶天俊は冷笑し、炎刀で彼を弾き飛ばす。
戦いは混沌を極め、そしてついに――母・神崎が我が身を挺し、宏樹を庇って陶天俊の刃を胸に受けた。
「政虎…恨みなら、この身が受けよう。お前は…家族の血だ…」
血と涙の中で、宏樹・綾女・蓮司は絶叫する。
陶天俊の肩も震え、嗚咽が洩れたが、すぐに狂気の笑いへと変わった。
「ハハハ…知らぬのか? 母は言った――『お前は神崎の名を捨て、陶を名乗れ』と。私は最初から、外道の子なのだ!」
綾女は冷然と告げた。
「哀れを装うな、政虎。お前は被害者ではない。欲望に呑まれた魔だ。」
蓮司も叫ぶ。
「父が黒炎石を託したのは、お前だけが抑えられると信じたからだ! それを裏切り、歪め、魔に堕ちたのはお前自身だ!」
血と炎の中、神崎一族の地獄がついに開かれた。