第15章 - 火と氷の夜
ヘリコプターのローター音が夜空を切り裂いた。
遠くから赤い照明弾が次々と打ち上げられ、軍隊が迫ってくる。
李凱榮は山腹から座標を伝え続け、装甲車の車列が轟音を立てて斜面を駆け下り、契丹の陣地を包囲した。
下では契丹の兵が混乱に陥った。死を覚悟して突撃する者は、瞬時に閃光弾の雨に撃ち倒され、他の者は馬も陣も投げ捨てて四散した。怒号と銃声が入り乱れ、敗北の交響曲のように響き渡る。
岩陰では趙可嫻が地に座り込み、陳明軍を抱きしめていた。彼の肌は冷たく、唇は紫に染まっていた。彼女は目を閉じ、内功を凝らし、氷気をその身から送り出して彼の弱々しい経脈へと流し込む。陳明軍の呼吸はかすかに震え、心臓は細い糸のように弱くもなお打ち続けていた。
「もう少しだけ耐えて。あなたを一人で行かせたりはしない。」
声は掠れていたが、その響きは揺るぎなかった。
李凱榮は急ぎ膝をつき、厚手の外套を二人に掛けた。彼は手信号で特殊部隊に合図し、警戒の輪を固めさせる。数分後、ヘリコプターが断崖の縁に降下し、旋風が砂礫を巻き上げた。
趙可嫻と李凱榮は陳明軍を担ぎ、担架に乗せた。閃光の中、その蒼白な顔が映し出される――悲壮と壮烈が同居する光景だった。
ヘリは離陸し、死地を後にした。眼下では契丹の陣営が炎に包まれ、捕らえられる者、斃れる者、逃げ惑う者の姿が渦を巻いていた。
機内では趙可嫻が陳明軍の手を握り、絶えず氷気を送り続けた。李凱榮は窓外を見つめ、険しい顔で呟いた。
「この戦いは…まだ始まったばかりだ。」
――
ヘリは烏魯木斉人民医院の宿舎屋上に着陸した。
趙可嫻と李凱榮は陳明軍を抱え、夜更けの静まり返った廊下を抜けて、見慣れた宿舎の部屋へと運び込んだ。
扉を閉めるや否や、趙可嫻は布団を敷き、陳明軍を横たえた。血に染まった衣を脱がせ、震える手でその手首を握り、氷気を注ぎ込み続けた。
やがて激しいノックの音。
入ってきたのは唐浩謙、薬箱を抱えた険しい顔だった。
「趙さん、暫定解毒薬を調合しました。散龍丹を根絶することはできませんが、龍気の侵蝕を一時的に止められます。」
彼は素早く注射を準備し、透明な薬液を静脈に注入した。
しばらくして、陳明軍の呼吸は次第に落ち着き、唇にわずかな紅が戻った。
趙可嫻は涙を浮かべながら囁いた。
「お願い…せめて一度だけでも、目を開けて。あなたがまだここにいると分かるように…」
唐浩謙は静かに頷き、声を落とした。
「氷気を送り続けてください。あなたの力こそ、今の彼の鼓動を繋いでいるのです。」
――
その夜更け、人民医院の中毒集中治療室。
静かな廊下、黄白色の灯が床に滲む。
執務室では程嘉意が震える手で書類を揃えていた。
扉が開き、李凱榮と趙可嫻が踏み込む。
趙可嫻は薬瓶を机に置き、冷たい声を投げた。
「あなたは医者。これが何か、説明の必要はないはず。」
程嘉意の顔色が変わる。「違う…私は…」
言い終える前に李凱榮の拳が襟を掴み、鼻に一撃が入る。
「陳明軍が一体お前に何をした!」
血に染まり、狼狽える程嘉意。だが次の瞬間、目を真っ赤にして叫んだ。
「郭雪嫻! 俺の婚約者は…お前たちを救おうとして死んだんだ!」
空気が凍り付く。
趙可嫻はその場で拳を握りしめたが、脳裏には命を救ってくれた郭雪嫻の面影が閃き、静かに吐き捨てた。
「恩人を殴るわけにはいかない。」
兵士たちが駆け込み、程嘉意を拘束した。
彼は一瞥だけ趙可嫻を見て、黙って連行された。
――
ひと月後。
重傷から回復した陳明軍は病室で布に包まれた断片を広げ、三つの枝が欠けた七支刀を見つめていた。
「間違いない…これだ。」
趙可嫻は腕を組み、毅然と告げる。
「私たちの物ではない。必ず持ち主に返すべきだ。」
陳明軍は頷き、刃の裂け目を撫でた。
「神崎弘樹に返そう。争うためじゃない。終止符を打つために。」
――
数日後、南新疆の郊外にある月見屋。
陳明軍と趙可嫻は神崎弘樹の前に包みを置いた。
布を解くと、折れた七支刀の刃が現れた。
「これは本来、お前の物だ。」
神崎弘樹は深く頷き、喜びを隠せなかった。
だが彼は静かに言った。
「形だけ繋ぎ合わせても駄目だ。真に蘇らせるには、火焰石の炎を注がねばならない。だが俺一人では耐えられない…」
彼の言葉に、部屋の空気は張り詰めた。
――
夜。
二階の部屋で、銅盆に載せられた火焰石が真紅の光を放ち、灼熱の息を吐き出す。
神崎弘樹は正面に座し、背後で陳明軍が土気を流し込む。さらにその後ろで趙可嫻が冷気を注ぎ、炎の暴走を抑える。
火気が神崎弘樹の体内に流れ込むたびに汗が噴き出し、呼吸は乱れ、影は壁に歪みながら絡み合うように伸びた。
陳明軍が低く問う。
「耐えられるか?」
「大丈夫だ…止めるな、炎を全て流せ!」
趙可嫻は肩を掴み、鋭く叫んだ。
「心を乱すな。さもなくば、内側から焼き尽くされる!」
静まり返った部屋には、荒い息遣いと汗の滴る音、そして龍気が脈をうねる轟きだけが残っていた。
月見屋の夜は果てしなく続き、まるで三人にとっての生死を賭けた試練のようであった。