第13章 - 程家意
崑崙山の山腹、冷たい風が深い峡谷を吹き抜けていた。
ア・ロダイは断崖の上に立ち、刃のように鋭い眼光を暗い谷底へと投げかける。その傍らには二人の部下が松明を握り、揺れる炎が緊張に強張った顔を照らしていた。
「急いで立ち去るな」――ア・ロダイの声は石のように重く、言葉ごとに地面を打つようだった。
「奴がそう簡単に死ぬはずがない。よく覚えておけ――生きていれば人を見つけ、死んでいれば死体を見つけろ。」
二人の部下は身をかがめて応じ、斜面を分かれて下りながら、草むらや岩肌を一本一本探った。血に染まった白布の切れ端、赤黒くにじんだ手形が岩に残り、空気はますます不気味に重くなっていく。
ア・ロダイは腕を組み、口元に冷たい笑みを浮かべた。
「この高さから落ちたのだ。肉体が粉々でなくとも、背骨は折れているはず。だが念のためだ……必ず見つけ出す。奴が生き延びる道はないと、この目で確かめたい。」
暗黒の谷底からは風がうなりを上げて答えるように響いた。しかしその闇の中で、果たして陳明軍がまだ息をしているのか、それとも既に夜の闇に溶けたのか、誰にも分からなかった。
ア・ロダイと部下たちは一刻（約二時間）かけて探索したが、血の痕跡以外に死体は見つからなかった。苛立ちを滲ませ、ア・ロダイは低く唸った。
「妙だ……生きているはずはない。だが見逃すこともできん。引き上げろ。ただし周囲に野営しろ。奴が羽を生やしても逃さぬ。」
命を受けた手下たちは、崖の周囲に火を灯し、まるで巨大な網のように闇を覆った。
その頃、遠く離れた別の斜面で、李啓栄はすでに野営地を畳み、身を潜めていた。双眼鏡を握り、ア・ロダイの一挙手一投足を見つめる眼差しは、矢のように鋭く冷たい。
「奴はまだ立ち去らない……つまり明軍は死んでいないかもしれない。もし生きているなら、奴らが手を下す前に俺が辿り着かねば。」
希望は蜘蛛の糸のように細かったが、それでも彼を動かすには十分だった。
崑崙の断崖はすでに契丹の支配下にあり、李啓栄はヘリの着陸を諦め、五キロ離れた空き地を指定した。着地と同時に彼は軍用バギーに飛び乗り、エンジンの咆哮を響かせながら濃霧を突き抜けて走った。
「俺は奴らより早く現場に着かねばならない……」
心の奥で血が疼く。仲間たちはすでに皆、死んでいた。残されたのは自分ひとり。
無線からパイロットの声が飛び込む。
「指定地点に到着。しかしここは撃墜の危険あり。さらに遠い場所へ降下する。」
李啓栄は短く答え、ハンドルを切った。砂利を砕く音と共に車体は急旋回し――霧の中から、戦装束に身を包んだ一人の女の姿が現れた。
趙可欣。
言葉は要らなかった。二人の目が合い、ただ一つの目的を共有していることを理解した。可欣は車に飛び乗り、髪をなびかせながら前方を見据える。その瞳にあるのはただ一つ――陳明軍への想い。
車は崖の二キロ手前で停まる。二人は足音を殺し、岩壁に身を寄せて進む。下方には契丹の野営地、火の光と武器の音が絶え間なく響いていた。
崖沿いの細道は片側が絶壁、もう一方は奈落の闇。だが苔の緑や滴る水音が、そこにまだ「生命」が息づいていることを示していた。
李啓栄は囁いた。
「苔も草も水もある……ということは、ここに生がある。明軍は、まだ……」
趙可欣の心臓が跳ね上がる。言葉の続きはいらなかった。
「軍……あなたはまだ生きている。必ず。」
やがて二人は血の染みと白布の切れ端を見つける。可欣は震える指でそれを撫で、岩の苔に残る手形を見て、確信した。
「軍……私は分かる。あなたはまだ、ここにいる。」
李啓栄の眼差しは鋭く燃えた。
「希望がある限り、道はある。」
✧ ✧ ✧
その頃、ウルムチの自宅では、程家意が椅子に身を沈めていた。
机上の黄灯が彼の顔を照らし出す。その表情は半分が光に、半分が影に覆われ、まるで運命の岐路に立たされているかのようだった。
机の引き出しには、質素な箱に収められた結婚指輪。震える手でそれを撫でる。
スマートフォンの画面には、一枚の写真――富士山の前で微笑む郭雪嫻の姿。
「あと一か月で結婚だったのに……なぜ、なぜお前が……」
雪嫻はすでに亡い。趙可欣を救うために命を捧げたのだ。
「陳明軍……趙可欣……！」
喉が裂けるような憎悪の声を吐き、程家意は実験室へ籠った。
そこはもはや医師の部屋ではなく、紫の煙が漂う毒薬の工房だった。
しかし揺れる煙の中、ふと雪嫻の瞳が浮かぶ。かつては人を救う光だった瞳……
程家意は顔を背け、己を掻きむしる。
影は壁に伸び、歪み、果てのない闇夜の中で彼を絡め取っていった。
