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Một thế hệ quỷ: Trận chiến lửa  作者: Phép thuật màu xanh
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第1章 - ガイテイコ

挿絵(By みてみん)

朝のウルムチ

朝のウルムチには、まだ薄い霧が残っていた。静かな街角にある小さなカフェが早くも開店し、焙煎豆の香りがジャズの旋律と共に漂っている。


陳明軍は窓際の席にひとり腰をかけ、擦り切れた背表紙の本をめくっていた。質素な外見は、かつて砂漠を駆け巡り、「竹影剣主」と呼ばれた男であることを誰にも想像させなかった。


カフェの扉が開き、一人の日本人が入ってきた。髪はきちんと整えられ、細い眼鏡をかけ、チェック柄のシャツを首元まで留めた姿は、残業帰りの会社員と変わらぬように見える。だがその眼差しは鋭く、武人であればすぐに悟る気配を放っていた。


彼は迷うことなく席へ歩み寄り、礼儀正しく頭を下げた。


「失礼いたします。」

流暢な中国語で彼は名乗る。

「私は神崎宏樹、日本の古流剣術の後継者です。本日はただ……陳先生にお目にかかるために参りました。」


ウェイターが熱いコーヒーを置く。湯気が二人の間に立ちのぼる中、神崎宏樹はカップを軽く押し出し、誠実な声で続けた。


「タクラマカンでの戦いについて伺っております。どうか、私に数手ご教授願えませんでしょうか。勝敗のためでも名誉のためでもなく、私の剣道が次の段階へ進むために必要なのです。」


彼はさらに静かに言葉を重ねた。


「もし本日ご都合が悪ければ、私は待ちます。病であれば回復を待ちます。傷を負われているなら、癒えるまで待ちます。」


陳明軍はカップを持ち上げ、穏やかに微笑むも、その瞳は平然としていた。


「剣は本来、人命を守るためのもの。高低を競うためではありません。申し訳ないが、好奇心だけで戦うことはできません。まして、私の竹影剣はすでに龍脈に落ちて以来、縁を失っております。」


神崎は一瞬沈黙し、やがてゆっくりと頷いた。その目には一層の敬意が宿る。心伝の武器を失うことは、武人にとって魂の一部を失うに等しいのだ。


「武器は外の物にすぎません。陳先生さえ宜しければ、どのような剣でもご用意いたします――日本刀、大太刀、西洋の長剣、沖縄のトンファー、中国の宝刀までも。必要とあらば、ひとつずつお試しいただけます。私が欲するのは勝敗ではなく、陳先生の剣道そのものに触れることなのです。」


そして誠実に続ける。


「陳先生、どうかご理解ください。我らは昔の侍のように死闘を望んでいるのではありません。ただ勝敗を分ければ十分です。私は命を奪うために来たのではなく、自らの剣道に答えを見出すために来たのです。」


店内の空気が少し沈んだ。数人の客が視線を向ける。礼儀正しい日本人と、静かなベトナム人青年。その間に、まるで剣を突きつけ合うような緊張が漂っていた。


陳明軍はカップを置き、視線を逸らさずに答えた。


「よろしい。ただし今日ではない。風が静まり、人の少ない場所で……我らは一度剣を交えましょう。剣士が剣士に出会うのは、互いを倒すためではなく、二振りの剣を映し合うため。」


神崎の瞳が光り、ついに知己を得たように立ち上がり、深々と頭を下げた。


「その一言で、私は満ち足りました。必ず待ちます。陳先生、日本の剣道は常に中国に敬慕を抱いております。」


陳明軍は静かに頷いた。


「一か月後だ。私は鉄雄との戦いで龍気を傷め、今は調整が必要だ。その時まで、待ってほしい。」


神崎の顔に喜びが浮かぶ。彼は店を出る前に、再び深く頭を下げた。


「陳先生……あなたは世を救うために剣を振るわれた。その一方で、契丹の者たちのやり口は毒と卑劣な計略ばかり。東洋では、それを『剣を汚す者』と呼びます。侍は潔い一刀で死を選びますが、毒に頼ることは決してありません。聞くだけでも恥辱なのです。だからこそ、私はあなたを求めたのです。陳先生の剣道こそ、後世に照らす光。」


そう言い終えると、神崎は指を鳴らした。黒衣の弟子が入り、黒狼の紋を刻んだ名刺を差し出した。その下には新疆バインゴリンにある和食屋の住所が書かれていた。


「そこは私の一族が営む店です。奥に広い稽古場があり、黒狼流の武者たちが鍛錬してきた場所。もし先生が許してくださるなら、そこで試合をお願いしたい。準備のため、せめて一日前にはご連絡を。稽古場だけでなく、食事も用意してお迎えいたします。勝敗は一時にすぎません。剣を鞘に納めた後は、互いを敬う食卓であるべきです。」


そう告げ、彼は再び深く一礼し、店を後にした。


――


陳明軍は静かにカフェを出た。さきほどまでの静謐は一転、目の前には人民病院が広がっていた。救急車のサイレンが鳴り響き、赤いライトが瞬く。担架で運ばれる患者、消毒薬の匂い、駆け足の医師や看護師――すべてが白く輝く廊下に響いていた。


彼は白衣に着替え、手洗い場で殺菌水を流す。鏡に映る顔は静かだが、瞳は鋭く引き締まっていた。


手術衣に着替え、脳腫瘍患者が待つ手術室へ入る。電子音が一定のリズムを刻み、ライトが鋭く照らす。ここには龍気も剣もなく、ただひとつの命を救う責任だけがあった。


陳明軍は深く息を吸い、力強く言った。


「麻酔を始めろ。手術の準備を。」


看護師が声を張る。

「陳先生、麻酔担当の郭雪嫻が亡くなったため、本日は程嘉意が代わります。人員の変更は事前報告が必要です。」


一瞬、彼の心に痛みが走る。しかし陳明軍は表情を変えず、静かに頷いた。


「分かった。始めよう。」

「私が日本や中国、あるいは神話の伝統を持つ国々を題材として選ぶのは、そうした背景が自然に武功や魔法、超常的な気配をもつ人物像と調和するからです。


一方、私の祖国ベトナムは、古くから祖先や先祖を敬う信仰が中心で、体系的な神話や魔術的な伝承がほとんど存在しません。そのため、もしベトナムを舞台に無理に武侠や魔神の世界を描こうとすれば、どうしても不自然で説得力を欠いてしまいます。


さらに言えば、もし架空のベトナム人キャラクターがカタナや大刀を振るい、手裏剣を投げ、妖怪に化け、さらには香港映画のように“吐血”する…そんな場面を描いたら、とてもぎこちなく、文化的にも適さないでしょう。


だからこそ、私は日本や中国の神話的な要素を借りながら物語を展開しています。どうかこの選択をご理解いただければ幸いです。」

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