【衰微のソノリティ】残滓の味噌汁
呼び鈴を押した。数年前にリフォームされた実家はズボラな僕を拒むような綺麗さだ。6年の年月が経っても変わらない呼び鈴の音だけが静かに僕を迎えた。家を出て初めて使う合鍵を使い、家に入る。その瞬間、僕の鼻腔を幼少期の記憶が刺激した。あれほど言われていた手洗い、うがいを無視し、台所へ直行する。そこには冷えた味噌汁があった。鍋から取り出し、おわんへ。震える手により注がれた味噌汁は少しこぼれ、冷たさが手に伝わった。我慢しきれず、立ったまま、味噌汁を一口のむ。とても食べれた味ではない。1週間前に作られた味噌汁を眺めてると味噌汁のように冷たくなった母が思い浮かぶ。
残った味噌汁をゴミ箱に移した。母の存在とともに。