4.YO!SAY!落語!
「落語を見に行きませんか?」
そう誘ってきたのは同じ職場で働くちょっと年下の女の子だった。
落語。私には未知の世界だった。
私は今まで落語をしっかりと聞いたことがなかった。カラフルな着物を着た落語家さんたちが日曜日に大喜利をやっていることくらいしか知らない。
このお誘い、どうするか。正直、行くかどうか迷った。私には未知の世界すぎたのだ。
「興味なければ全然、断ってください」
少し遅れて、女の子はそう言った。気遣いができる、良い子だ。
私は少しだけ考え、答えた。
「あー、行きたいです」
こうして私は人生で初めて落語を見に行くことになったのだ。
女の子から話を聞くと、上司から落語のチケットを二枚もらったということだった。地元に落語家さんが来て寄席をやるのだという。
私は全く知らなかった。寄席をする落語家さんを見ると、私でも知ってる落語家さんがいた。驚いた。来てくれるのか、こんな田舎県に、などと失礼なことを考えた。
そしてチケットを渡した上司は女の子に、もし誰かと見に行くのなら若い女性と行くように、と言ったのだという。若い、という点はクリアしていない気がするが、白羽の矢が当たったのが私だったのだ。
私は事前に落語を見に行く時のドレスコードを調べた。服装で失礼があってはいけないと思ったのだ。ネットで調べたところ、落語を見に行くのにドレスコードはないとのことだった。なるほど、普段着でいいのか。私は本当に普段着で行くことにした。
まだ暑さが残る季節。その時期の私の普段着は柄シャツだ。ド派手な柄シャツだ。そこにアクセサリーをつける。指輪三個、数珠状のブレスレット二つ。イヤーカフ二つ。ド派手なわんぱくあんちゃんだ。
ちなみに以前その服装で友人と遊んだ時、友人の彼氏と間違われたことがある。この筋肉シマエナガ、戸籍上は女である。だがしかし、男性に間違われることがしょっちゅうある。不快に思ったことはない。むしろ嬉しい。
少々話がそれたが、そんな普段着すぎる普段着で私は落語を見に行くことにした。わんぱくである。
待ち合わせ場所で女の子と合流した。女の子はフォーマルなワンピースを着ていた。
フォーマルワンピースと、わんぱく柄シャツあんちゃん。アンバランスすぎる。
そんなこんなで、私たちは寄席が行われる会場へ入った。
会場は広いホール。客は千人ほどだろうか。周りを見回すと年齢層は高めで、恐らく五十代以上くらいの方が多い。私が非常に若く感じる。そろそろ生クリームと揚げ物が入らなくなってくるお年頃だが、私がヤングとは。
さて。いざ寄席が始まると、私はずっと笑っていた。久しぶりにこんなに長い時間笑ったなと思うくらい笑いっぱなしだった。私は夢中になって落語を聞き、そして笑った。
あっという間に時間が過ぎた。
寄席が終わって帰っている時、すごく面白かったと伝えると、誘ってくれた女の子は安心した、と言った。もしつまらなかったらどうしよう、と心配していたらしい。私は誘ってくれたことを感謝した。また機会があれば見に行きたい、そう思った。
落語、いいぞ。
ちなみになぜ私が落語に誘われたのか、それを知る機会があった。
女の子は最初、落語に興味がありそうな人を探していたという。そこで私の同期が「筋肉シマエナガとか落語好きそうじゃないですか?」と言ったらしい。
面白い偏見だなあとは思ったが、その偏見が私に新しく落語という世界へ連れて行ってくれたのだ。その同期にも感謝している。面白い偏見だなあとはいまだに思っているが。まるで私が面白い人なんじゃないかって錯覚してしまう。
どうも、面白い(笑)筋肉シマエナガです。