2.メリーオニヤンマゴーランド
蚊。
それは人類の敵である。
※私の偏見です。好きな人いらっしゃったらすいません。
今年、私は非常に蚊に悩まされた。
水気はないはずなのに、どこかでボウフラ湧いたのでは?と思うほど、私の部屋に蚊が大量発生したのだ。
二〇二四年、六月。
私は毎日のように蚊の襲撃を受けた。
耳元で不快な羽音を鳴らす。肌が出ている場所はとにかく刺す。
うるさい上に、刺された場所が痒くて眠れぬ夜が続く。
余談だが、足の裏を刺されるのが一番最悪だ。とんでもなく痒いのだ。
当然私は反撃した。毎日三匹は葬った。それでも毎日刺された。
そんなことが二週間ほど続いた。
私は地味なストレスと寝不足によりグロッキー状態に陥った。
このままでは生活に支障が出る。どうにかしなければ、とグロッキー筋肉シマエナガはカリカリ梅くらいの大きさしかない脳をフル稼働させる。
蚊取り線香なりベープなり焚けば良いのでは?とお思いでしょうか。
私もできるならそうしたかった。できなかった。
我が家にはアボカドという名前のフトアゴヒゲトカゲが住んでいる。
トカゲ、つまり爬虫類。
調べたところ、どうやらベープに含まれている成分は爬虫類にとっても良くないらしい、とのことだった。
私とアボカドの住む場所は部屋も階も違うが、それでもやはり避けたいと思った。
ではどうするか。
詰んだ状態だったが、ある日母がとあるものを自室に吊るすようになった。
とあるもの、とは、オニヤンマのフィギュアである。
オニヤンマのフィギュアは虫除けに効果があるとのことで、ホームセンターなどで売っている。
母も蚊が大嫌い、いや、大嫌いを越して、何かの仇のように思っていそうなほど、蚊に対して激情を抱いている。私が引くほどだ。
母は蚊除けになるかな、とオニヤンマのフィギュアを買ってきたのだ。
藁にもすがる思いで、私はオニヤンマのフィギュアを自室に吊るそうと決意した。
早速向かったのはホームセンター、ではなく、道具箱。
何年も前に買って取っておいた石粉粘土があったことを、私は思い出したのだ。
母にオニヤンマのフィギュアを借りて、私はウキウキと石粉粘土を小脇に抱え机に向かった。
つまり、私はオニヤンマのフィギュアを買うのではなく、作ることにしたのだ。
なぜ作ることを選択したのか、自分でも謎であるが、とりあえず私はオニヤンマのフィギュアを石粉粘土で自作することにしたのだ。
母のオニヤンマのフィギュアを見ながら針金と粘土で形を作る。
乾燥したら色を塗り(幸い、アナログ絵描きのため絵の具は豊富に持っていた)、最後に透明のクリアファイルを切って作った羽根を取り付ける。
童心に帰って私は夢中でオニヤンマを作った。
出来は上々。母にも良いね!と褒められた。
作ったオニヤンマは五匹。嵐だ。
一匹で済まさなかった理由は単純だ。粘土が大量に余ったからだ。
オニヤンマ五匹を、私は針金で作った輪に紐で括り付け、それを電気の紐に取り付ける。
あれに似ている。赤ちゃんのベッドの天井にある、おもちゃがぶら下がっててくるくる回る、あれ。
まあこちらは可愛いおもちゃではなくそこそこリアルなオニヤンマなのだが。
テンションが上がった私はララララブソングを流しながらオニヤンマをくるくると回して遊んだ。ちなみに筋肉シマエナガはそこそこいい年である。胃もたれと肩こりに悩むお年頃である。
赤ちゃんベッドにぶら下がるあれ、と表現したが、あながち間違いではない。布団を敷いて寝ると、真上にメリーオニヤンマゴーランドがくるのだ。しましま模様のオニヤンマのお腹が見える。自分で言うのもあれだが、オニヤンマの出来は良い。つまり、ちょっとグロい。
これを見上げながら寝るのか、という微妙な思いと、これで安眠できるのでは、という期待で情緒不安定になった。
さて、これで蚊の襲撃は減ったのかというと、恐らく減ってはいない。
メリーオニヤンマゴーランドを作ってから毎日三匹は葬るレベルの襲撃はなくなった。しかしそれはその後すぐに猛暑に襲われたからだろう。
何年も前に館林の人に言われたことがある。「館林は暑すぎて蚊が飛ばないんだよ」と。
二〇二四年の夏は狂ったように暑かった。真夏の時期は蚊に襲われなかった。これはきっと何年も前の館林の気温が、私の住む地域でも出るようになったからなのだと思う。
蚊が再び姿を現したのは少し涼しくなってから。九、十月頃。
ここ最近、また毎日蚊に襲撃されている。
毎日一匹葬っている。もう一週間くらいにはなるだろうか。
メリーオニヤンマゴーランドの効果はなかったのだろうか、と肩を落としたものの、私は未だにメリーオニヤンマゴーランドを飾っている。
蚊除け効果はなくとも、インテリアとして大変気に入っているのだ。
恐らく私は真冬になって蚊が姿を消しても飾り続けるだろう。
そして時々回してはララララブソングを口ずさむのだ。
だから今日も、メリーオニヤンマゴーランドは陽気に回る。おっと、蚊の気配だ。