第八話 入学
朝になり、部屋に眩しい光が差し込む。気持ちの良い目覚めの後、学ランを着て、いかにも学生の装いだ。寮を出て学校に向かって歩き出す。学校自体は今までもよく見ていたのだが、今日はやけに輝いてみえた。心無しか、ジェフト達を歓迎しているようだ。
「いよいよだな」
エントランスに入ると全4クラスのクラス分けの紙が貼り出されている。
(俺は3組か)
残念ながら、ホルミス達は別のクラスのようだ。
指定された3階の教室に入ると、まだあまり人は居なかった。頭文字のJから席は教室のど真ん中になり、外を眺めて時間を潰すこともできない。一人寂しく始まるのを待っていると───
「あれ、君は」
白い髪をしている落ち着いた人と、オレンジ色の髪をしている快活そうな人が現れた。この前吹雪を当てられたときを思い出させるような落ち着いた声で話しかける。
「こんちは、この前はごめんね。名前なんていうの?」
「俺はジェフトっていうんだ。よろしく」
「よろしく。僕がカズで……」
「俺がアオイだ!これからよろしくな。先生も来たみたいだし、詳しい話はまた後でな」
教室にはいつの間にか多くの生徒が集まっており、教師が話し出そうとしていた。髭を生やしていかにも怖そうだ。
「これから体育館で集会を行う。10分後までに来るように。遅刻は許さんぞ」
『はい!』
荷物を整え、教室を出ようとしたその時、ドタバタと忙しく教室に入ってきた生徒がいた。
「あと2分ある!初日から遅刻してらんないから、危なかったぜ」
落ち着きのない様子の彼は唐突にジェフトに話しかける。
「俺たちはこれから何するんだって?」
「体育館に行くんだよ」
「そうか、サンキュ!てか一緒に行こうぜ!」
初対面なのになかなか押しの強い人である。名前はリュックというらしい。
「へ〜、ジェフトは寮で暮らしてるんだな。いいなあ、楽しそう」
「はは、そんなことないよ。なかなか騒がしくて」
「お、ここが体育館か。遅れないように早く行こうぜ」
いよいよ入学式が始まり校長先生らしき人が話し始めた。
「えー、本校では愛校心を育み、意欲的に魔法を学ぼうとする生徒を育成することを目標に掲げています
───であるからして……」
すると後ろから教師の怒鳴り声が聞こえてきた。
「おいリュック!入学式で寝るとは何事だ!!」
(あいつ何やってんだ……)
教室に戻った後───
「今日はこれで解散とする。明日提出のプリントも配ったから忘れないようにな」
さっさと帰ることにしたジェフトは寮に戻ると、一枚の紙が届いていることに気がついた。
『重要』
今月分からの寮費と食費は自己負担
となります。今月末の納入をお願い
します。もし3ヶ月間無かった場合
は他の住居を探して貰うことになり
ます。
─寮長
これはまずい。ジェフトはすっかり忘れていた。金はほとんど持っていない。
その時ドアが開く音がした。
「ジェフト君、困っているようだね」
「その声は……アンドレさん」
「久しぶり。合格おめでとう。それと今金銭面に困っているだろう。だが大丈夫だ!学校の端に魔法協会という場所がある。そこには毎日様々な依頼が集まっている。それをこなしていけば報酬で寮費や学費を賄えるってことだ!」
「なるほど、そんな手が!……そういえば入学してから部屋の場所移ったのになんで分かったんですか?」
「俺も帰るところでちょうど君を見つけたんだ。合格したんだと思ったら嬉しくなって着いてきちゃった」
「……やめた方がいいですよ!?」
「ではそろそろさらばしよう」
「ありがとうございました!」
(アンドレさんは何だかんだ頼れるな)
次の日、学校に行くとリュックが話しかけてきた。
「おはようジェフト。コース選択はどうした?」
「ん?何の話だ?」
「おいおい、昨日帰りに言われただろう。四元素のコース選択についてのプリント貰ったはずだぞ」
(そういえば昨日ヴァンが悩んでたような……あ)
そのプリントは確かに机の中に入っていた。
「どうすっかな。急に言われても……」
昨日からである。
そこにアオイとカズも現れた。
「とりあえず、自分の得意なやつにすれば間違いないぞ」
「僕たちは空気にしたよ」
「じゃあ俺は火になるのか」
リュックも賛同する。
「俺も火にしようかと思ってたんだよね!一緒に頑張ろうぜ!」
「皆さんおはようございます。」
教師が教室に入ってきて、生徒たちは急いで席に座り出した。
「今日提出の物があるよな、忘れないように。それと今日は自己紹介をして親睦を深めてもらう。俺の名前はアレックス、アレクと呼んでくれ」
前から順番に行っていく。
「俺ジェフトって言います!夢は世界を旅する冒険家です。よろしくお願いします!」
ジェフトは隣の席の女子に話しかけられた。
「ジェフト君、冒険家が夢なんだって?楽しそうだね
」
「うへへ、ありがとうございます」
ジェフトは女子への耐性が0であった。
「誰も行ったことのない場所っていうがまだあったらわくわくするよね。まあ今じゃ難しいけど」
そうはにかみながら言った。
「海や山の向こうなら、未開の地になるんじゃないか?」
山や海の向こうに関する本はたしか一切なかった。理由は分からないが誰も目指さなかったのだろう。しかし、意外な返答だった。
「あの向こうに?でも何もないでしょ」
(え?)
「何でそう思うんだ?向こうにも世界が広がってるだろう」
「何でって、そういうもんだからよ。面白いこと言うね。あ、次私だ。なんて言おうかな……」
そのまま会話を終えるしかなかった。
他の人にも同じようなことを聞いてみたが、そんなのありえないと口を揃えジェフトは笑われてしまった。
それでもジェフトはあの老人の言っていたことが頭から離れない。最後に言っていた魔法学校と政府の陰謀、それは本当のことなのかもしれない。そう信じずにはいられなかったのだ。