第四話 謎の老人と炎
騒がしい夜は明け、朝を迎えたジェフトはエントランスに向かった。アンドレは入口から手を振っていた。
学校の近くの森にあるけもの道を通ると、少し開けた場所に出てきた。
「ここは秘密の練習場だ。俺も昔ここで師匠に修行してもらったんだぞ」
「アンドレさんにもそんな時期が……ところで俺は何をすれば?」
「最終的には魔法を使えるようになってもらう。魔法には大きく分けて『火、風 、水、土』の4つの種類がある。自分に合ったものを見つけてくれ!まずはそれぞれを実際に見てイメージするのがやりやすいだろう。学校内の図書館で魔法書をみるのも良いかもな。友と学ぶのも近道だろう!」
「なるほど……」
「本当はジェフト君に直接教えたいとこだったんだが、あいにく遠方での任務が入ってしまってね。だが、君ならきっと出来ると信じているぞ!」
アンドレはジェフトを鼓舞し、来た道を戻っていった。
早速ジェフトはアンドレの言った通りに木の摩擦で火を起こし、観察した。
しかし、その燃え盛る火が自分から湧き出るイメージは全く湧かなかった。
早くも行き詰まったジェフトは寝転んでいた。ふとジェフトは思い浮かべる。
(魔法学校に受かったとしても、その後はどうしよう。アンドレさんはやりたいことは学校に入ってから探せばいいと言っていた。でも…)
「あのぉ…」
白髪の老人が覗き込むように話しかけてきた。
「そこの火、借りてもいいかのぉ。さっき狩ってきた肉を焼きたくて」
「どうぞ……」
適当な返事をしながら老人の方を見るとそこには見たことの無いほど大きく、恐ろしい見た目をした鹿が倒れていた。
(え…?何だこの鹿!?前に見た化け物狼と同じ様なものか。それより、これをあのお爺さんが?嘘だろ!?ひょっとして凄く強いんじゃ……)
「これを見るのは初めてかの。こいつはここら辺に住んでる魔物でな。凶暴だから気をつけるんだぞ」
肉が焼け始めると良い匂いが漂った。
(ぐ〜) ジェフトの腹の音が鳴る。気づけばもう昼時であった。
「若いもんは腹が減るからの。ほら、分けてやるぞ。食べながら君の話でも聞かせてくれよ」
ジェフトは今までのことを話し、魔法の使い方について聞いた。
「まさか魔法が全く使えないとはな。まあコツを掴めばすぐじゃ、焦らなくていい。」
老人は近くの枝を使って地面に図を描き始めた。
「四元素については聞いただろう。あれはそれぞれの繋がりについて理解するといい。火を使いたいなら空気に熱を加え、乾かすのじゃ。まあ見てろ」
手のひらを上に向けると、そこはすぐに熱くなり赤い炎が出始め燃え盛った。
「こんなもんじゃないぞ。外から風を加えれば……」
炎は変形し小さな球のようになった。密度が高まり、より温度が高くなっているようだ。最後には土が集まり、火は消えた。
「魔法は複雑だがそこが面白い。あと1ヶ月と言ったかな。魔法は体内にあるエネルギーを使って起こすものだ。基礎体力もしっかりつけとくのが良い。そうだな、最低でも腕立て、腹筋、スクワット、砂浜ダッシュをそれぞれ100回、プランク10分、ここから山のふもとまで、往復約4kmを3往復、これらを全て1日3セットでやってもらう」
「そ、そんなに…?」
「ほほ、慣れてきたら増やしてけよ。それと君の将来だが、旅をしてみたいんだってな。儂も昔したことがあったが楽しかったぞ。今は色々と状況が変わってしまったがの」
「状況?」
「今はこの国から気軽に出れないんじゃ。数十年前からある法律のせいでな。」
「え、何ですかそれ!?」
「突如として作られた、他の国との交流を大幅に制限する法律――。あの頃は他国との交流のおかげで暮らしがどんどん良くなっていたかんじゃがのう。そろそろこの国も衰退するとワシは思うとる。今ではもうその事に疑問を持つものはワシぐらいじゃがな。」
「そんな事が……」
「少年よ、旅に出るならばまず魔法学校に入れ。そこに行けば必ずお前の夢への鍵が手に入るじゃろう。そこでこの現状を変えるんじゃ。まずは入学できるよう励むんじゃぞ!」
「はい!ありがとうございました!」
その日から俺の修行が始まった。
─1週間後─
ジェフトは炎を出す練習を続けていた。
自分の体内を巡るエネルギーを想像し、手に集めようとすると手が熱くなるのを感じた。だが、その次に何をしてよいか分からず、炎を出すところまではまだ遠かった。
(今日もダメだったな……)
暗い夜道を歩いて寮へと帰った。
すると……
「ジェフト!ちょっとこっち来てくれ!」
草むらの方から元気なヴァンの声が響き渡った。
「どうした?こんな時間に外に出て」
よく見ると大きめな猪が横たわっていた。見た目からして魔物ではないようだ。
「この猪、ダレルが獲ったんだ!凄い弓の使い手なんだぜ!」
「……まあな」
どこからかダレルの声が聞こえた。目を凝らすと暗闇に紛れたダレルが見えてきた。
(そういえば、2人はどんな魔法を使えるんだろう。後で聞いてみようかな)
「さっそく食べようぜ!まずは火をつけよう」
ヴァンは2本の木の棒を用意し、ものすごい速さで擦り合わせすぐに煙がでてきた。そこに木くずを集めて息を吹きかけたが、強すぎて小さな火は消えてしまった。
「……何をしているんだ」
ダレルがヴァンに火のつけ方を教えている中、ジェフトはその場で固まり、動かなかった。
(木くずは土、息は風……。アンドレ先輩が言っていたこと、今なら分かる!)
ジェフトは木に向かって右の手のひらを向け、今までで一番熱くした。
(足から地球の、『土』のエネルギーを!体の周りにある空気を呼び込んで『風』のエネルギーを起こせ!!)
「うおおおおぉ!!!」
しかし、その2つのエネルギーは熱を上回ってしまい、徐々に温度が下がってきた。
(熱が足りないのか?ならこれで!!)
前に突き出した右手の手首を左手で掴み、ジェフトの内から出る全ての熱を一点に放出した。
ボ ゥ !
暗闇に明かりを灯した炎は力強くジェフトの前で燃え盛った。