第零話 前編 アンドレ
親の行方も知らぬ孤児がいた。ごみをあさり、今日の食べ物を盗む、そんな生活に飽きてきたとき、彼に希望が訪れた。
「寒くはないかい、うちに来なさい。きっといい未来がある」
心優しい老人に引き取られ、小さな村に住むことになった。その家では老夫婦と自分と歳の変わらなそうな孤児がもう一人、暮らしていた。
「俺はアスター、お前名前はなんだ?」
間のぬけた顔で話しかけてくる。
「名前......、アンドレ...だったと思う」
「なんじゃそりゃ?まあよろしくな。ここでは俺が先輩だから、分からないことがあったらなんでも聞けよ!」
口調は雑だが悪いやつではなさそうだ。
元々同年代の友達が欲しかったアスターにとってこれ以上に嬉しいことはなかった。老夫婦の農業の手伝いの合間に彼はアンドレに色々な話をし、それをいつもアンドレは面白そうに聞くのだ。
自分の身長の倍はある熊を追い払った話、森の地面にとても大きな面積をもつ宝石を見た話。正直嘘っぽい話もあったが、真偽はどうでもよかった。
また、アスターは魔法の練習にも熱心に取り組んでいた。
「アスター、なんでいつも魔法の練習をしているんだ?」「俺の夢は魔法学校に入って最強の魔法使いになることだ!そして、魔物から人を守りたいんだ」
アスターは珍しく真面目な顔をしてみせた。
「でも俺達、名門の生まれではないし、そもそも魔法自体使う必要ないじゃないか。俺らは爺さんの農業継いで平和に暮らせばいいだろ」
「それじゃ駄目なんだ。この生活もいつ終わるかわからない。......俺の家族はあいつら魔物に殺された。だから俺が魔物を全員ぶっ倒さねえと気がすまないんだ。もう二度と俺みたいな思いをする奴がいないように」
「そうか、凄いな」
「え?」
「なにか目標があって、それに向かって努力できるのは凄いよ。俺にはそういうの、ないからさ」
「じゃあさ、お前も魔法使いになってみないか?俺と一緒に魔法学校入ろう!」
「ああ、俺も魔法、習得してみせる」
「明日から森で特訓な!」
その日からアスターの夢はアンドレの夢になった。
「お前、魔法使えないのか!?」
「ああ……てか使ったことないというか」
「なるほどな……。俺も火しか使えないが頑張って伝えてみるぞ」
「ありがとう、助かるよ」
しかし、魔法の習得はなかなか上手くいかなかった。
「だから、そこでぐっと溜めて、す〜っと爽やかに風を吹かす感じでやるんだって!」
「わかるか!擬音つかうな!」
アスターは教えるのが異様に下手であった。本人のイメージではこれで炎がでるのだが、どうにも伝わらない。
アンドレは少し休憩をとることにし、なんとなく森を歩くことにした。
(ダメだ。魔法というものがなんなのか、全く理解出来ない。理解出来ないものをやれと言われてもできない、よな。俺には向いてなかった、それだけか)
そんなことを考えていると森が開け、野原がみえてきた。
(こんなところに野原なんてあったんだな。――て、あれは!)
そこでは老人がとてつもない大きさの猪を抱えて食事の準備をしていた。
(な!あれは猪!?にしては大きすぎだろ。あれが魔物ってやつか?)
「そこで隠れてないで、でてきなさい」
(……!バレてる。どんな人間かわからないが正直にでるしかないか)
「そこの若いの、一緒に食おうや。この歳になると独りの食事は寂しくての」
「は、はあ」
(ひとまずは大丈夫そうか)
しばらくの沈黙のなか肉を焼いたのち、老人は焼けた肉を渡しながら口を開いた。
「なにか、悩み事でもあるのか?」
アンドレは魔法の習得ができないことについて、全て話した。
「なるほどな。どれ、ワシが一から教えてやろうか」
「本当ですか!?」
老人は地面に図をかいて四元素説について説明し、炎の出し方について教わった。また、基礎的な体力づくりをする為に筋トレも行った。
それから一週間ほど指導され、ついにその時がきた。
炎を出す直前、成功することを確信した。
目の前の木を燃やしながら揺れる炎に見惚れていた。
「アンドレ、今のはよかったぞ。なにより魔法に大切なイメージをしっかりと頭の中でつくれていた。お前は才能がある。開花するのが楽しみじゃの」
その後、老人は遠い国へ旅に出ると言いアンドレの前から去った。
その話をアスターにするとやはり羨ましがった。
(アスターと一緒に教えてもらえばよかったかな)
などと考えつつ、二人は魔法の修行に励むことにした。
アンドレはぐんぐんと魔法の能力を伸ばし、周囲から注目されるようになった。
アンドレはアスターにみせたい場所があると連れられ森の奥へと入った。
「こんな奥になんかあるのか?」
「ここら辺だったはずなんだが……、あった!」
その先にあったのは小さな湖であった。美しく透き通っており、それはまるで宝石のようだった。
「前に話したことあっただろ。地面にひろがる宝石、これのことだったんだ。いつかみせたいと思っててさ」
(まさか本当だったとは)
その水を飲んでみると、体力が復活し元気がみなぎってくるような気がした。
(でかい熊を追い払ったのも本当だったり?)
そう考えてみるアンドレだった。




