第十一話 学校
1ヶ月後、ようやく退院許可がでた。とはいえ安静は必須で任務も禁止になった。あの骸骨がどこから出てきたのかは不明で、協会も想定していなかったらしい。
(魔物ってのは動物が凶暴化して変貌した姿だったよな……)
寮の部屋に戻ると──
「ジェフト!戻ってきたか!」
ヴァンが熱い抱擁をする。
「痛い痛い!」
「はは、強すぎるよ。ジェフト君大丈夫?」
「……とにかく無事でよかった」
やはりこの部屋は安心感がある。
「ところでジェフト君、こんな紙が届いてたんだけど」
『1』
そう大きく書かれていた。
「1?なんの事だ……。送り主は大家さんか。あ!寮費出すの忘れてた!」
1ヶ月という意味であった。この文字が3まで増えた時を考えると恐ろしい。急いで納金しに行った。
さて、あまり通わないうちに行けなくなった学校がまた今日から始まることになったが教室に着いた時、1つ問題が発生する。
「え?委員長、ですか?」
「ああ、そうだ。休んでいる間に申し訳ないと思ったんだがな…。そこの彼が猛烈に推薦したもので……」
目線の先にはやはりリュックが居た。
「へへっ」
彼は何故か恥ずかしそうに頭を搔く。
「他にやりたい人も居ないみたいでな、どうだ。やり甲斐もあるし、悪くないと思うぞ」
「じゃあ…、やってみます」
「よおし、その意気だ。他のメンバーはもう決まってるからな、じゃあ各自授業に遅れないように」
(何で俺を委員長にするためだけにこんなに期間を遅らせたんだ……。そういえば俺の他の委員会は誰がいるんだろう)
「よお、久しぶり!」
そこにはアオイとカズの姿が。
「おぉ、お前ら」
「僕は書記に、兄ちゃんは議長になったんだ。副委員長は……」
「もちろん俺だ!!」
そう言いリュックが飛び出してきた。予想は着いていたがなんだかんだ心強い。
「まあサポートは任せとけよ。ちょっとトイレ行ってくるわ」
リュックが去った後、カズは話し始めた。
「リュックはさ、ジェフトが居ないときに驚くぐらいに君のことを推してたんだ。『帰ってくるまで俺が代わりに仕事するから』って言って、何でか知らないけどそれだけ信頼してるってことなんだよね」
「そうそう、『あいつほどリーダーに相応しいやつはいない』とか言ってたな!」
ジェフトは驚いた。
(リュックの奴そこまで……。俺はそういう役は向いてないと思うんだが、なんか嬉しいな)
「まあとにかく、その期待に応えなきゃな。応援してるぞ!って、もうこんな時間か。1時間目は座学だから教科書ださないと」
「じゃあまた後で」
(授業も久々だな。遅れを取り戻さないと!)
1時間後──
(まずい、全くわからない。受験の時に学んだのとは訳が違う。これはまずいぞ……)
「これから特殊能力判別テストを行う。すぐに荷物を持って付いてこい」
ジェフトは近くにいたリュックに話しかける。
「なあ、判別テストってなんだ?」
「なんだ、知らなかったのか。その名の通り自分の中に眠る特殊能力を知ることができるんだ。オミトーレの特殊技術で、 これ目的で入学する人も結構いるんだぜ」
「判別してどうするんだ?」
「確かに言われてすぐに目覚める訳じゃない。でも知ることができるのは結構でかいらしい。知ってるのと知らないのじゃ特殊能力に目覚め、成長するのが早くなるんだとさ。どうだ、我ながら知的な解説だろ」
「はは、ありがと。じゃあ、行ってくるね」
教師に導かれたのは小さな個室であった。ドアを開けるとそこには占い師の様な佇まいで、顔を半分隠した高齢の女性が小さな机の向こうに座っていた。机の上には水晶玉の様なものがある。部屋の中は暗く、蝋燭の明かりしかないが目を凝らすと星座のようなものが天井に描かれていた。
ジェフトは招き寄され、机の前に座る。近くで見ると大きな水晶玉の内側には雲のような模様がはいっていた。
「では目を瞑って、深呼吸をしてください」
言われた通りにすると、不思議な感覚につつまれた。まるで自分の心が空を閉じ込めた水晶玉に入り込んだような。
ジェフトの特殊能力が遂に判明する……と、思われたが───
「な、なんだこれは……、いやそんなはずは、だが何も見えぬ……」
何故か焦りだした老婆にジェフトは不安げに聞く。
「どうかしましたか?」
「……単刀直入に言おう。現状、君の特殊能力はわからない。こんなことは儂も初めてだっと思う、理由も分からぬ。だが、これから何かしらが発現する可能性もあるかもしれないの。力になれず申し訳ない」
ジェフトは一瞬驚いた顔をするも、直ぐに平静を取り戻した。
「いえいえ、今日はありがとうございました。では」
ジェフトはすぐに学校を出た。
(特殊能力が無いからなんだっていうんだ。俺にしか出来ないことがあるだろ)
自分の弱い心情を押し殺し、その日は寮に帰らずに山を走り続けた。走り続けて足が動かなくなったとき、その場に倒れ込んだ。辺りは暗くなっており、やっとジェフトに悩む時間を与えた。
(冷静になれば俺は何をしているんだ。悔しいのか?不貞腐れてんのかな……)
ふと空を見上げると、いつもと変わらない月が彼を照らした。夢を語ったあの時と変わらぬ月が。
(そうだよ、俺はこの世界を巡って、誰も知らない世界を記すんだ。そもそも、俺にぴったりな特殊能力なんてある気がしない!)
寮に戻る頃には妙に高いテンションになっていた。
帰った後に周りの特殊能力を聞いてみた。ホルミスは飴、ヴァンは身体強化系、ダレルは油関係らしい。検査といっても細かいところまではわからないようだ。
その日はさっさと寝ることにした。この世界の真実に近づければ、ということを考えながら。
次の日、いつも通り授業を受けるため校内を移動していた時、とある人物に話しかけられた。若く身長の大きな男で、彼からはどこか大きな知性を感じられる。
「僕のこと、知ってる?この学校の理事長やってる『ライト』っていうんだけど」
(理事長……というと、この学校のトップじゃないか)
ジェフトが返答をする隙を与えずに続ける。
「君さ、転生者でしょ」
!
不意に来たその衝撃的な言葉にジェフトは固まる。
(なんでこの人、その事を……、目的は一体何だ?何を考えて──)
「はは、何をそんなに考えているんだい。取って食うようなことはしないよ。同じ転生者同士仲良くしようじゃないの。じゃあまたね」
気さくに手を振りながら去っていった。
(今のはあの人も転生者ってことだよな。転生者は俺だけじゃない、他にもいるのかな。転生自体にはなんの意味が。それに理事長ってことはあの謎の老人が言ってた陰謀とも関係が…ってもう授業始まってんじゃん!)
急いで教室へと走るジェフトであった。
「さあ、君はいつまで『転生者』であれるかな」
『ライト』と名乗る男は不敵な笑みを浮かべながら呟いた。




