冬の訪れを囀る子
秋風が連れてきた雨雲が
雷鳴を響かせながら
大地を冷やす雨を降らせたのは昨夜のこと
夜明け前には仕事を終えて
西の空へと消えたはずなのに
空には今も透き通った湖を思わせるような
一面の青が広がっている
湖の上には
置いていかれたのか
小さな白い雲がゆらゆらと搖れている
空に浮かぶ湖の水を吸い込んで
また雨を降らせるつもりかしら
それとも青の水に溶けて消えてくのかしら
地に目をやると
こちらもたくさんの薄い雲が浮かんでいた
草葉が呼吸をする度に
息が冷えて小さな氷の粒に変わった雲たち
冬を前にまだ命が繋がっている証
この子達が地に還れば
明け方に浮かぶ雲の海もなくなって
代わりに別の白に覆われる
命が眠りにつく季節
その訪れを告げる使者が
この地に来るのは今しばらく先
そんなことを考えていた矢先
足元から何かの囁きが聞こえた
足元で風に揺れる草葉をめくると
葉の裏側には小さな氷の精が隠れていた
目が合うと
いたずらを見つけられたみたいに
きゃあと楽しそうに声を上げ
走り去っていく
地面を覆う白い雲で気づかなかったが
良く見れば他にも葉には
霜となった氷の精がついていた
陽射しと共に温もりが射し込んでくると
氷の精たちは誰からともなく
草葉の影を離れて
自分たちの住処に帰っていく
この冬は少しはにぎやかになるかしら
氷の精たちを見送りながら
いつも物静かな冬の彼女の事を思い出す
眠る命を見守りながらでも
少しでも楽しい時間を過ごせたら良いのに
氷の精たちの訪れで
秋が深く深く沈んでいく感じがした