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ヴァニラな雪女 9

 ある日の昼下がりのキッチンカー。

 今日は仕事が午前中で一段落したので、スイーツ販売のお手伝いに来た。


 14時に取り置きしてもらっていた弁当を食べながら、ほの花さんとミニほの花さんズがスイーツの準備をする様子を見守る。

 ほの花さんの絶妙な冷気で作り出す本日のジェラートはバニラ味だそうだ。それに、昨晩僕が生地をこねて形成したチュロスが本日のスイーツ。

 一応味見はしたけれど……コソコソ味見というか、盗み食いをしているほの花さんとミニほの花さんズの様子を見れば美味しくできたということだろう。

 大丈夫、その分もちゃんと計算して作ったから……いやしかし、よく食べるな。


「ほの花さんたち、食べ過ぎではありませんか? 販売分が少なくなりますよ?」

 クスクス笑いながらやんわりと咎めると、ほの花さんの肩がビクッと揺れた。

「ですよね……でも美味しくて。今宮さんもどうぞ」

 ほの花さんからバニラジェラートが添えられたチュロスを受け取ると、一口齧る。

「本当だ。ほの花さんのジェラートにチュロスが良く合いますね」

 でしょ? でしょ? とうんうん頷くほの花さん。

 ミニほの花さんズもみゅみゅと作業の手を止めて頷く。


「さあさあ! 今日は今宮さんが手伝ってくれるから数も多めだよ? 頑張ろうね! 完売したら……今宮さんが夜ご飯作ってくれるって!」

 嬉々としたほの花さんの言葉に、ミニほの花さんズがみゅみゅ〜!と拳を上げる。

 夕飯を作る約束なんてしていないが……ほの花さんたちの喜ぶ顔を見るためなら作ろう。

 そんな和やかで愛おしい時間に水をさすようにコンコンとキッチンカーの窓が叩かれた。


「あっ! ご予約のお客様!」

 ほの花さんが接客用の窓を開くと

「こんにちは、ほの花さん」

 この声は……ゴンザレス。

 僕の大嫌いなアイツと同じ職場のゴンザレスが、なんでこのキッチンカーに⁉︎

 ゴンザレスは鬼の妖怪だ。

 体が大きくて力が強い。まぁ、俊敏さと持久力は欠けるが……。


 ニコニコと笑顔のゴンザレス。

 しかも、お土産といって外国ブランドの女性に大人気なドーナツまで持参するなんて……。ほの花さんの好みを知っている。

 ミニほの花さんズもみゅ〜! と手を振り挨拶。ゴンザレスも和やかに手を振り返す。

 こいつ……もしかして……僕がキッチンカーの中からガンを飛ばしていると、やっと僕の方に気づき、ビクッと青ざめながら震えた。

「な、なんでここに……」

 君こそなんでここに? 聞き返そうとしたらほの花さんが間に入った。


「今宮さんとは同じ釜のご飯を食べる仲なんですよ。それで仕事のお手伝いもしてもらっているんです」

 おかずが入っているであろう袋をゴンザレスに渡して会計を始める。

「同じ釜のご飯を食べる仲ですか……それってどういう仲……?」

 ふふっとほの花さんは笑うと、つまりそういう仲ですよと返す。ハテナ顔のゴンザレスに同情せざるを得ない。


 僕にもまったくわからないが……

「そう、そういう仲だ。さっさと僕たちのキッチンカーを去れ」

 “僕たちの”を強めに牽制をすると、ほの花さんから

「めっ! ゴンザレスさんはお客様ですよ?」

 と叱られる。


「今宮さんがごめんなさい……お詫びにジェラートをどうぞ」

 カップにバニラジェラートを入れてサービスしている。目を輝かせて喜ぶゴンザレス。見た目からは想像できないが甘党らしい。

「ほの花さんのジェラートは美味しいから毎日食べたいくらいです」

「うん、うん。そうでしょ? そうでしょ?」

と頷きニコニコのほの花さん。

 僕としては馬鹿を言うな! とゴンザレスを威嚇したいくらいなのだが。


 そんな僕の苛立ちを知らないほの花さんは、

「これに今宮さんお手製のチュロスがセットだともっと最高ですよ?」

 と営業し、まんまと乗せられ買わされているゴンザレス。さすがはほの花さん。


 暫くほの花さんと会話をしていたが、ジェラートを食べ終えると僕の圧に屈してまた来ますと言い、帰っていった。

 もう二度と来るな。

 いや、来てもいいが売り上げに貢献したらすぐに帰れ。


「もう、今宮さんが怖いからゴンザレスさん帰っちゃったじゃないですか」

 お客様が減ったら今宮さんのせいですよ? プンプンと怒っているけど、そんな心配はいらない。ゴンザレスはそんなことでは来るのを止めないだろう。だが、一応すみませんと謝っておいた。


 しかし、ほの花さんのジェラートを毎日食べたいなんて……それは僕も同じ。さっぱりしていて食べ飽きない。

「ほの花さんたちが作るジェラートは本当に美味しいな。毎日食べたいです」

 カラン……キッチンカーの中で物が落ちる音がした。下を向いていた僕が顔を上げると……持っていたボールを落として赤い顔で僕を見ている。ボールの中身は空だったらしい。


「あれ? ほの花さんどうしたんですか? 顔が真っ赤ですけど……」

 そういえば少し冷えてきた。

「今宮さん、今の言葉をもう一回言ってください……」

「顔が真っ赤……「違う、その前」」

 真っ赤な頬っぺたを両手で挟んで震えている。ミニほの花さんズはみゅみゅみゅ? と心配そうにほの花さんを見ている。


 なんだ? なんなんだ? ジェラートの話か……? もしかして、食いしん坊の雪女の心に刺さったのか……? でもゴンザレスが言った時にはこんな反応していなかった。


『同じ釜のご飯を食べる仲』

『同じ匙で食べ物を分け合う仲』

 食いしん坊雪女の食べ物で表す愛情表現。


「ほの花さんたちが作るジェラートは本当に美味しいな。毎日食べたいです」


 ヒューヒューとキッチンカーの中で風が舞っている。


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