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ヴァニラな雪女 8

「何ですかこれは?」

 ほの花さんちのこたつの上に広げた腹巻三枚。うち一枚は三毛猫柄。後は無地。


 ネットで腹巻を検索したら、切り売りしているお店を見つけた。

 最初は無地にしようと店を訪れたところ切り売り以外の商品もあり、その中にあった、ほの花さんが気に入りそうな三毛猫柄に一目惚れ。

 そして切り売りで無地の物も購入。

 一枚はほの花さんの洗い替え用で、もう一枚は細かく切って縫い合わせればミニほの花さんズ用の腹巻きになる。

 これからそれを作ろうとしているところだ。


 僕は意外に手先は器用だ。ミニほの花さんを一人呼んで、紐で胴回りを測る。みゅ? と首を傾げるミニほの花さんズとほの花さん。

「これはほの花さんと、ミニほの花さんたちの腹巻ですよ。お腹が冷えないように買ってきました」

 無地の腹巻きを同じ大きさに十枚切り、それを輪っかに縫い合わせていく僕。

「ほの花さんたちは寝ている間にお腹を出して寝ているんですよ。それが心配で……」

 ストレートな僕の言葉に、みんな呆然としている。


 年頃の女の子にはオブラートに包んで伝えるべきだったと思ってはいるが……僕はそういうのが下手くそだし、申し訳ないけどストレートに伝えるしかない。

 チラッととほの花さんの表情を見ると、赤くなったり青くなったり……。

「女性に冷えは大敵ですからね」


 五枚目の腹巻きを縫い終えたところで、ほの花さんが口を開く。

「どこまで見ました?」

 どこまでって……

「おへそまで……」

 ヒィー! と叫びほの花さんがいきなり立ち上がり自分の部屋に駆け込んだ。

 よほど恥ずかしかったのだろう。ミニほの花さんズも顔を赤くして、ポン! と消えてしまった。


 こうなるであろうことは予測していた。

 僕はやっぱりなと溜息を吐くと、語彙力皆無の自分に呆れながら残りの腹巻きの製作に取り掛かった。


「ほの花さん……」

 コンコンと部屋の扉を叩くと返事がない。

「ほの花さんの大好物、僕お手製のぷるんぷるんなパンケーキができましたよ」

 腹巻きを縫い終えた後、ほの花さんを部屋から誘い出すために作った、ふわふわすぎてぷるんぷるんなパンケーキ。


 ガチャ……ドアの隙間からほの花さんが僕を見ている。アイスブルーの瞳が少し濡れている。

「ほの花さん、さっきはごめんね」

 配慮が足りなかったことは自覚している。でも、腹巻きをつけてもらうにはストレートに伝えないといけないと思ったから……。

「私こそごめんなさい……恥ずかしくって……」

 ドアを全開にして出てきたほの花さんに、紅茶も入れましたからと誘うと僕の後を着いてきた。


 こたつの上に並べたほの花さんとミニほの花さんズ用のケーキと紅茶。それを見てほの花さんがパンパンと手を叩くと、ミニほの花さんズがみゅ〜! と飛び出してきた。

「ミニほの花さんたち、さっきはごめんね」

 そう謝ると、恥ずかしそうにみゅ、みゅ、と近寄ってくるので順番に頭を撫でてあげる。最後に大きな頭がにゅっと出てきたので、クスッと笑いながら頭を撫でた。


「でも、そんなに寝相が悪かったなんて知りませんでした。朝起きたらきちんと布団に寝ているんですよ」

 ケーキを食べながら落ち込むほの花さんを、まぁまぁと慰める。

「腹巻きもあるし、もう大丈夫ですよ。それに恥ずかしいなら各自の部屋で寝ればいいことですし」

「それは絶対にイヤ!」

「みゅー!」

 ほの花さんたちからの全力拒否に慄いてしまう。

 寝相が悪くて恥ずかしいのではなかったのか⁉︎ やはり乙女心はわからない。


 ケーキを食べずに紅茶だけ飲んでいる僕に、ほの花さんが一口どうぞとフォークを差し出してきた。それをそのままパクリと食べると、またケーキにフォークを刺してムシャムシャと食べている。お兄さんがいるからか、こういった行動も全く気にしない。


「せっかく今宮さんがお泊まりに来てるのに別々に寝るなんて有り得ないです」

 ねー? とほの花さんがミニほの花さんズに同意を求めるとみゅみゅと頷いている。

「おへそまで見られてしまっては腹を括るしかありません」

 いやいや、なにか間違えてないか? そもそも僕を泊めてる時点で間違えてる……あっ、でもそこを気づかれたら困るのは僕だ。

 すると……あっ! そうだ! とほの花さんが閃いたらしい。

「私、凄く良い案を思いつきました!」




「ほの花さん……これは良い案なんでしょうか……?」

 ほの花さんのいい案とは……それは僕の布団で一緒に寝ることだった。

 その夜、腹巻オッケーです! そう言って、僕の部屋に入ってきたほの花さんたち。

 ミニほの花さんは上のパジャマをピラリと捲ると、サイズはピッタリだよと教えてくれる。うんうん、これでお腹は守られた。


 ほの花さんはいそいそと僕の隣に布団を引いているのだが……すぐ隣に引いている。き、昨日はもっと離れてただろう⁉︎

「一応隣に布団は引きますけど、一緒のお布団で寝ます」

 はぁ⁉︎ なんで⁉︎

「一緒に寝れば寝相が悪いのも治るかなって……」

 いやいや治らないって。

「ほら私たち、同じ匙で食べ物を分け合う仲じゃないですか」

 お願いだから、その食べ物で愛情表現するのやめてくれないか……可愛いけど、その表現では僕達の仲がどのレベルなのかがわからない。


「じゃあ、失礼しますね」

 いそいそと僕が寝ている隣に入ってくるほの花さん。そして、ミニほの花さんズも定位置についた。

 真っ暗な部屋、隣からほの花さんの気配と温もりがダイレクトに伝わってくる。

「おやすみなさい」

 寝れる訳がない……布団の端っこに寝ているが、少し動いただけでほの花さんに触れてしまいそうだ。


 すると、急にガバッ! とほの花さんが体を起こした。

「やっぱり無理です! 寝れません!」

 部屋が暗いから表情がイマイチわからない。

「私、雪女だから……暑いの無理……」

 すぐ隣の布団に潜り込み身を沈めてしまった。


「ほの花さん、大丈夫ですか?」

 そう声をかけると、ハイ……と小声で返事をしてくれる。

「お水持って来ましょうか?」

 お願いしますと言われたので、台所へ行きコップにお水を入れてきた。

「ありがとうございます。心臓がドキドキしちゃって……」

 雪女なのに暑さに強いと思っていたけど……。

「やっぱり同じ匙で食べ物を分け合う仲でも、一緒に寝るとドキドキしますね。こんなこと初めてだからかな……」

 恥ずかしいとハニカムほの花さんに、心臓を狙撃された。


 この雪女は一体僕をどうしたいんだ……?


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