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ヴァニラな雪女 5

 ほの花さん宅へ行った日の翌日。

 明日の朝ごはんにでも食べてくださいともらったおかずの残りを頂こうと紙袋を開けたら……。


 ミニほの花さんが居た。

 ぐーぐーと気持ちよさそうに眠りこけている。

 何でまた……僕は昨日の記憶を遡る。


 キッチンカーへいつものようにお弁当を買いに行き、ミニほの花さんとほの花さんに頼まれて夕飯を作りに行ったんだよな。

 そうだ! ミニほの花さんは基本5人(いや5体か?)

 その中の一人がいやに甘えん坊で、僕の膝にずっと乗っていたっけ。

 その子かな……? 頬っぺたを突くとふにゃりと笑った。


 するとスマホが鳴る。表示を見なくてもわかる。きっと……

「今宮さん! 大変!」

 通話に出ると、やっぱりな……。

 仕込みをする時にミニほの花さんが一人足りないことに気づいたのだろう。

「ミニほの花さんですよね?」

 混乱しているほの花さんに言うと、なんでわかるんですか〜⁉︎ とパニックだ。

「昨日いただいた紙袋の中に居ますよ」

 クスクス笑いながら言うと、なんで〜⁉︎ と落胆している。

「今までこんなこと一度もなかったのに……どうしたのかしら?」


 僕達の会話にミニほの花さんが目を覚ましてしまった。

「みゅ〜」

 と伸びをして僕の顔を確認すると、えっへん! と胸を張った。してやったり顔である。

「今起きました。代わりますか?」

 そうほの花さんに聞くと是非と言われたので、ミニほの花さんに聞こえるようにスピーカーにしてあげる。

 何で勝手に居なくなったのか聴き出すほの花さんに、ミニほの花さんがみゅみゅ言っている。

 あぁ……こんな時にみゅ語がわかったら……。


「今宮さん、すみません。理由がわかりました」

 スピーカーから聞こえるほの花さんの声が少し震えている。

「なんで僕のところに来たかわかりましたか?」

 理由を知りたくて尋ねると、ほの花さんがダンマリを決め込んでいる。ほの花さん? と呼びかけると、

「今宮さんのことが好きで離れたくなかったそうです……」

 少し恥ずかしそうにボソッとそう答えた。


『実はほの花は気づいていないんですけど、ほの花とミニほの花達は感情が直結しているんですよ』


 人士さんの言葉が頭の中を過ぎる。

 ミニほの花さんを見ると、恥ずかしそうにみゅ〜と言っている。まさかな……でも、もしそうだとしたら……高鳴る僕の心臓。頭もちょっとクラクラする。


「今宮さん、今どこですか? 人間界?」

 僕は今、妖怪ノ国に戻ってきている。暫く人間界での仕事が続くため、荷造りに来たのだ。

 そのことを告げて、ミニほの花さんは今日中に連れて行くことを約束して通話を切ると、ミニほの花さんが僕の肩に乗って頬擦りしてきた。

 可愛いな……。


「今日一日よろしくお願いします。僕のパートナー」

 そう言うと、嬉しそうに肩から降りてペコリとおじきをした。

 これは、腹を括ってしまおう……。

 今日は僕が新たな一歩を踏み出す日になる。しかも、幸せになる一歩だ。

 ニヤける自分に気合を入れるために洗面所へ向かった。


 ミニほの花さんを連れ、妖怪ノ国での仕事を終わらし、人間界へ行く。

 妖怪ノ国での仕事の合間も、ミニほの花さんは僕にピッタリくっ付いて離れず、スーツのポケットに入っていた。小腹が空いた時に、どこから取り出したのか飴をくれたり、コーヒーを飲むときに砂糖やミルクを入れてくれたりと大活躍。

 ほの花さん宅に着いた時には夕方になり、チャイムを鳴らすとほの花さんと他のミニほの花さんズが凄い勢いで出迎えてくれた。


「ミニほの花ちゃん! 心配したのよ?」

 他のミニほの花さんズもみゅーみゅー言っている。

「今宮さん、ご迷惑かけてごめんなさい……」

 しゅんとしたほの花さんが僕を家に招き入れながらそう言った。

「いえいえ、ミニほの花さん大活躍でしたよ。僕の世話を甲斐甲斐しく焼いてくれて」

 そう言いながら、チラッとほの花さんを見ると、あからさまにぶすっとしたほの花さんが、

「もう……ミニほの花ちゃんばっかりずるいな……」

 本人は気づいていないようだが、そう口から漏れたのを僕は聞き逃さなかった。


「折り入ってほの花さんにお願いとお話があるのですが……」

 こたつに座って、ほの花さんに僕の本業の事を話した。

 今宮迅が偽名であることも。

 妖怪の中には真名を隠すために偽名を使う者が多くいるので名前に対してはそんなに驚いていなかったが、本業に関してはかなり驚いていた。


「今宮さんがそんなに大変な仕事をしている人だったなんて……そんな人にお兄ちゃんたら……」

 ほの花さんの顔が青くなる。

「そう言っても、仕事は似たようなものなんですよ? 人探しとかもするので気にしないでください」

 しゅんと顔を下に向けているほの花さんと、そんなほの花さんを心配そうに見つめるミニほの花さんズ。


「そこで、ほの花さんにお願いがあります。人間界で活動する時に、ここを拠点にさせてもらえませんか?」

 バッと顔を上げるほの花さん。

「ここは人里離れていて過ごしやすいから、妖怪ノ国への行き来も人目を気にしなくて済むんです。それに……ほの花さんやミニほの花さんとも生活ができると楽しいかなって……」

 ほの花さんが不思議そうな顔をする横でミニほの花さんズがみゅーみゅー言って踊っている。甘えん坊のミニほの花さんが僕に駆け寄ってきて抱きついてきた。


 本人は怪訝な表情だけど、ミニほの花さんのこの反応。本当は嬉しいのかな?

「し、仕方ないですね……今宮さんにはお世話になっていますし、時々仕事を手伝ってくれるならいいですよ……」

 赤い顔をしてモジモジしているほの花さん。

 本人の顔は赤いのに、ビューっと涼しい風が吹く。

 みゅー! みゅみゅ〜! 僕に飛びついてくるミニほの花さんズが愛おしい。


 食べ物に恋をした雪女のほの花さんが、僕に好意を持ち始めている。

 そして僕は……食いしん坊で商売上手の雪女に恋をしていることを認めざるを得ない。彼女を取り巻く全てが愛おしいから。


 みゅーみゅー言っている彼女の分身たち、それをニコニコ見ながらみかんを食べている雪女、こたつの中に居る三毛猫の猫又。雪女のお兄さん。

 僕も仲間に入れてもらおう。

「これからもよろしくお願いします」

 そう言うと、みかんを食べているほの花さんがはーいと軽いノリで言った。


 この雪女、かなり手強そうだ。


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