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ヴァニラな雪女 3

「新メニュー開発ですか?」

 人間界での仕事の途中。

 今日もランチはほの花さんのお弁当。

 スイーツタイムか始まるまでのひと時をほの花さん、ミニほの花さんズと過ごしている。

 今日のスイーツはかためプリンにいつもの特製ジェラート。


「そうなんです。最近行き詰まってしまって……」

 ほの花さんがハァと重い溜息を吐く。

「今宮さん、今晩お時間ないですか? 一緒に考えてほしいんですけど……」

 新規のお客様の心をガチっと掴むようなスイーツを考えたいらしい。


 ジェラートの仕込みが終わり、ミニほの花さんズのご褒美タイム。わらわらと僕の膝に乗ってくる。

「もう、ミニほの花ちゃんたち……今宮さん大変だよ……?」

 確かに動けないから辛いけど、ミニほの花さんズの甘えっぷりが可愛いので全く苦ではない。

 ミニほの花さんズが僕に向かって、手を合わせてみゅーみゅー言っている。

 どうやらお願いと言っているらしい。


 今日は……と頭の中でスケジュールを思い返す。

「いつもより少し遅くなりますけど、それで良ければお邪魔しますよ」

 途端にほの花さんの顔がぱぁっと華やかになり、背景に小銭が……。

「ありがとうございます! 絶対、ぜぇぇぇぇっったい来てくださいね!」

 と言いながら僕の両手を握る力が強い。もうこのまま拘束されそうだ。

 膝の上ではミニほの花さんズが僕のお腹に抱きついてきた。そこから肩に登って来て頬擦りする子もいる。


『ほの花とミニほの花たちの感情は直結しているんですよ』

 ふと人士さんの言葉を思い出して、ほの花さんの方を見ると、

「むふふ。今宮さんのスイーツ……売上アップ……」

 と幸せそうにニヤニヤしている。

 相変わらず、背景は小銭。チャリンチャリンという音まで鮮明になってきた気がする。

 ほら……ミニほの花さんズも僕の料理目当てに違いない……。

 そう思いながらも、可愛いこの子たちが幸せならそれでもいいやと頬擦りした子の頬っぺたを突ついた。



 その日の夜。


 ほの花さんのお家に伺うと、

「おかえりなさーい!」

 と出迎えてくれる。


 訪問するようになってから三回目くらいからかな? この「おかえりなさい」で出迎えてくれるようになった。

「お疲れでしょ? ご飯にします? お風呂にします? それとも……」

 えっ⁉︎ これは……新婚ならではのお約束のやつだ! 初めて言われたけど、僕はこの後出る言葉が甘いものではないことを知っている。

 そもそも僕らはそんな関係ではないし。

 でも……もしかしたら……。


「それとも……新メニュー開発?」

 ニッコリ笑うほの花さん。

 ほらね……ガッカリしてないぞ……。

「ご飯でお願いします」

 そう言うと

「新規一名様入りまーす!」

 とほの花さんの掛け声に、

「みゅー!」

 と、ミニほの花さんズの声。


 ほの花さんは僕のアウターを受け取り、

「こちらへどうぞー!」

 と居酒屋の店員のように案内する。

 あっ、こちらの段差お気をつけくださいと普段言わない台詞まで飛び出した。


「今日はどうしたんですか?」

 と聞くと

「みんなで居酒屋さんごっこをしてるんです」

 とニコニコ。

 いつものこたつの部屋に行くと頭にハチマキを巻いたミニほの花さんズが勢揃いして、一斉に「みゅ〜!」と言った。

 いらっしゃいませと歓迎しているらしい。

 僕もだいぶ『みゅ語』いや『雪ん子語』がわかってきた。


「おじゃまします」

 と笑いながら座ると、おしぼりを出してくれたり、グラスにビールを注いでくれたりと至れり尽くせりだ。

「時々、こうして遊ぶんですよ」

 と僕の向かいに座るほの花さん。

 こたつの上には、お刺身、揚げ出し豆腐、焼鳥、山芋の鉄板焼き、もつ煮など居酒屋メニューが並ぶ。


 乾杯をして賑やかに食事をしながらビールを呑み終わると、ほの花さんがドリンクメニューを出してくれる。生搾りレモン酎ハイを頼むと、ミニほの花さんズがレモン絞りで果汁をギュウギュウと絞り出し、レモン酎ハイを作ってくれた。

「みゅみゅ!」

 へい! お待ち! というようなドヤ顔で渡してくるのが凄く可愛い。


「ところでほの花さん、お聞きしたいことがあるんですけど……」

 僕は前から気になっていたことを質問することにした。

 なんですか? とほの花さんが焼き鳥を頬張りながら返事をする。


「ほの花さんは、どうして食べ物に恋をしたんですか?」

 そう、雪女は普通は男性に恋をするのに……。

 ほの花さんは、あぁ……と懐かしそうに話し出す。


「私、小さい頃迷子になったことがあって……泣いていたらお兄ちゃんくらいの子供が来て、お菓子をくれて慰めてくれたんです」

 食べていたら直ぐにお兄ちゃんが来てくれたんですけど……笑いながら恥ずかしそうだ。

「その時にもらったお菓子がとてもおいしくて。それで」

 へへっと笑うほの花さん。

「人間界に行った兄弟のお土産だよって、分けてくれたんです。うちの兄妹みたいに年が離れていて、人間界に修学旅行に行ったんですって」

 妖怪ノ国の修学旅行は人間界に行く。

 なるほど、その時に買ったものか……。


「大きくなってから調べたら、そのお菓子、人間界で人気のお土産で。人間界にはたくさんの美味しい物が溢れてると知って! 私も成人したら人間界で働こう! と」

 串を持ちながら興奮して話している。


「そのお菓子をくれた子は?」

 その後も付き合いがあるのかが気になった。

「それが……それっきり。覚えているのは、うちみたいに仲良しのきょうだいってことと……名前がヤスってことだけ……」

 性別も覚えていないんです。

 ペロッと舌を出すほの花さん。


 僕はヤスという呼び名で親友の顔が頭をチラついたけど……なぜか直ぐに追い出した。


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