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ヴァニラな雪女 10(最終話)

 ヒューヒューと冷気が吹く中、顔が真っ赤なほの花さん。これは刺さったな……早く僕のことが好きだって気づけ!

「や、やだな……今宮さんはほぼ毎日食べてるじゃないですか……もう! 食いしん坊! やだ、やだ! もー! ジェラートが固まりすぎちゃう……」

 ミニほの花さんズが「みゅ! みゅー!(冷気を抑えて)」とほの花さんに注意している。


「もう! 今宮さんが変なこと言うから……」

 ようやく冷気が通常に戻り、ミニほの花さんズがまたジェラートを混ぜ始めた。

「変なことってなんですか……?」

 ここで決めないと、二度とチャンスが来ない気がする。この鈍感で食いしん坊な雪女。君が恋しているのは……食べ物と僕。僕にも恋をしていると早く気づいて。


「私たちが作るジェラートを毎日食べたいなんて……ぷ、プロポーズみたいな……? ほら、人間には『毎日君の味噌汁が飲みたい』ってプロポーズがあるって言うし……」

 自分のランチ用のおにぎりを食べながらボソボソ言っている。ちなみに昨夜僕が作った夕飯の筍ご飯のおにぎりだ。ああ美味しい、なんて美味しい! とほの花さんたちに大好評だった。


「昨夜、その筍ご飯を食べながら、こんな美味しいご飯を毎日食べられたら幸せってほの花さん言っていましたよね?」

 ほの花さんはうん、うんと首を縦に振る。


「今宮さんが、うちにお泊まりに来てくれるようになってから食べ物がますます好きになりました。今宮さんが作ってくれるご飯は美味しいし、二人で作るご飯も美味しい。ミニほの花ちゃんたちと作ったご飯を美味しいって言って食べてくれるのも嬉しいし……とっても幸せなんです」

 ふふふって笑顔のほの花さんと、みゅー! と両手バンザイのポーズで賛同しているミニほの花さんズ。


「それは僕も全く同じ気持ちですよ。どうですか? このままずっと一緒に住みませんか? 僕と君、可愛い雪ん子たちと猫又。さっきも言ったけど……君たちが作るジェラートを毎日食べたいんだ」

 目がまん丸のほの花さんと、みゅ〜! と言いながら僕に駆け寄ってくるミニほの花さんズ。

「もちろんプロポーズです。僕たち、もう一緒に居て幸せだってことがわかっているんだから、すぐに結婚でもいいでしょう?」

 ミニほの花さんズを頭や肩に乗せて、ほの花さんの手を取る。


「で、でも……。今宮さんお仕事は? 人間界に住んでも大丈夫なの?」

 涙目のほの花さんの目の淵に溜まっている涙を親指でなぞる。雪女の涙って冷たいんだな……。

「大丈夫! 僕は鴉天狗ですよ? 知ってるでしょ? 妖怪ノ国も人間界も瞬時に移動できるんです」

 ん? というようにほの花さんの眉間に皺が寄る。

「じゃあ、うちにお泊まりして仕事する必要もなかったじゃないですか!」

 そう、その通り。


「だって……僕のことが好きなくせにいつまでも気がつかない食いしん坊の雪女の胃袋を掴みたくて……」

 もーっ! とプンスコ怒り出すほの花さんと、ニヤニヤする僕。

「僕は食べ物の次でも構わないよ。でも、妖怪と人間の中では一番にしてください」

 再び顔を赤くする雪女に返事は? と急かす。


 ほの花さんは、両手をギュッと体の前で握ると、決心したように僕の目を真っ直ぐに見つめてくる。

「今宮さんの真名を教えてください」

 髪の毛の隙間から覗く真っ赤な耳の側で真名を伝える。


「雪女は一生を共にする相手を見つけると指輪を贈るんです」

 左手を出してと言われる。言われた通りにすると、ほの花さんが僕の左手薬指に触れた。

「雪女がここに指輪をはめたら、あなたは一生私しか愛せなくなるけどいい?」

 雪女の呪いか……上等だ。

「もちろんです。早く僕を君のものにして」

 アイスブルーの瞳を見つめながらお願いする。


「む、昔よりは呪いもキツくないの! あなたは鴉天狗だもの……もしかしたら呪いを解除できるかも……」

 その言葉にイラっとくる。やっと君を手に入れることができると思ったのに、呪いを解除? あり得ない!

「僕はほの花さんしか愛しませんし、愛せません! 早く僕を呪って!」

 僕の霊圧にヒィ! と声を上げると

「わ、わかりました!」

 とアタフタしながらほの花さんが目を閉じた。


「波島由弦さん、大好きです……」

 僕の薬指とほの花さんの薬指が同時に光り、透明な指輪がはめられた。

「この指輪は私たちにしか見えないんですよ。私、一生この呪いをかけることはないと思っていたのに……あなたに会う前も幸せだったけど、今はすっごく! すご〜く、幸せ!」

 僕に抱きついてくる食いしん坊な雪女と、ほの花さんの代わりにみゅみゅっとティータイムの開店準備を始めるミニほの花さんズ。


 ほの花さんを抱きしめ返し、左指にはまった指輪を見る。

「僕も幸せです。皆にも見える指輪は僕が贈りますね」

 この可愛い雪女は僕のものだという印を付けないと。

 ほの花さんを見ると目が合った。お互いの目が細められ、唇が重なる瞬間……

「みゅー! みゅみゅ!」

 開店の時間ですよー! とミニほの花さんズがポンと消えた。


「いっけない……今日は今宮さんが居るから多めに用意したんだった! 頑張って捌きましょう!」

 バッ! と体を離される。キスする直前でお預けをくらい不機嫌な僕に『?』って顔をしたが……チュ!

 唇に可愛いらしいキス。

 不意打ちのキスに直立不動の僕。

「赤い顔ではなくて、笑顔で接客をお願いしますね? 旦那様」

 イタズラっ子の顔をした雪女が、

「いらっしゃいませー!」

 キッチンカーの窓を開けた。




 それから数年後。

 キッチンカーが停まっている山奥の平家から赤ちゃんの泣き声が……。

「みゅ、みゅ、みゅー!」

 いない、いない、ばー! をしてあやしたり、ミルクを飲ませたりと赤ちゃんの世話をやくミニほの花さんズと、横に添い寝して寝かしつけをする猫又。ほとんど毎日姪っ子の顔を見に現れる雪女のお兄さん。


 相変わらず食いしん坊な雪女に、そんな雪女が大好きな鴉天狗。みんなでいつまでも幸せに暮しましたとさ。



挿絵(By みてみん)

イラスト:つえもと様(2023/11/10追加)

 これにて終幕。ありがとうございました。

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