表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

5/28

加護の代償

新たな協力者は、占術士の一琳(イーリン)だ。

今は私の部屋に二人きり。私は机の上に置いた地図を見ながら、彼女が指示した場所に筆で丸を描いていく。


「姫様、薬草園はこのあたり、療養所はこちらの土地に作りましょう」


「わかったわ」


この国の占術士は、光の加護を持つ者が土地の吉凶を占ったり、ふさわしい時期や場所を占ったりするのが仕事である。


「風の精霊が多い土地なら、薬草がよく育ちます。光の精霊が多い土地なら、人々の心が穏やかになりますから療養所にぴったりですわ」


ふぅと一息ついた一琳(イーリン)は、さすがに疲れた様子だった。

加護を使うと、肉体的にも精神的にも疲れが伴う。


私は申し訳なくなり、謝罪を口にした。


「ごめんなさいね。急に呼びつけて色々と頼んで」


彼女には、「隣国から病が入って来るかもしれない」とだけ伝えてある。そのための施設を新たに作るのだと話すと、彼女は快く占ってくれた。


「姫様のためですもの、引き受けたからには残りの仕事も早々にいたしますわ」


「ありがとう。無理しないでね?寿命が縮まない程度でね?」


加護の力を使いすぎると、寿命が縮む。特に強い加護を持っている者は、自然とのバランスをとるためか、あまり乱発できないように代償が大きくなっているらしい。


「病のことで皆の命がかかっているとはいえ、特定の個人に負担を押し付けて犠牲にするつもりはないの」


「姫様こそ、あまりご無理はなさらないように。精霊姫は国の守護をお一人で引き受けていらっしゃるのですから」


一琳(イーリン)が心配するのは、精霊姫が生まれながらにして背負う役目を知っているからだ。

精霊神様の加護を受ける精霊姫は、自然や悪意から国を守護し、その祈りが不幸を遠ざける。


祈ることで大地を豊かにし、風や雨などに作用し、皆が幸せに暮らせるようになっている。


その対価は、自身の寿命。

200年ほど生きる精霊族でありながら、歴代の精霊姫は皆100年に満たない期間で人生を終えていた。


おそらく、私もそうなるだろう。

精霊族でありながら、他国の普通の人間と同じくらい早く死んでしまう。


「面倒なことは(カイ)に任せて、姫様は人生を謳歌してくださいね?」


「ふふっ、それもいいわね。あと何年かしたら、そうしてみようかしら?」


私は笑顔でそう答える。


今、(カイ)に全部を任せたら泰仁(タレン)が焼き払われちゃうかもしれないから、放任できないわ。


さすがにそれはマズイ。

笑顔で物騒なことを提案する(カイ)を思い出し、私は遠い目をした。


そろそろ休憩にしませんか、と宮女の一人が声をかけたことで、私たちは部屋を移動する。


するとそこに、泰仁(タレン)の調査から戻ってきた官吏と(カイ)が通りかかった。


「姫様、これから休憩ですか?」


「ええ、祈りの時間の前に、少しお茶を飲もうと思って」


「では、その後でよろしいのでお時間を頂戴します。ご報告がございますので」


「わかった。(チャン)も一緒に? 休んだ方がよいのではないかしら?」


泰仁(タレン)帰りの官吏・(チャン)を案じて、私はそう提案する。

でも彼は、笑みを浮かべて言った。


「お気遣いありがとうございます。宰相様からも休むようお言葉をいただいておりまして、そのようにいたします」


「うん、ゆっくり休んで。消化にいいものを食べてね」


私がそう言うと、一琳(イーリン)が「姫様ったら」と言って笑いを漏らす。

心配から出た言葉なのに、なぜ笑われるの?


きょとんとして見つめれば、彼女はふふっとまた笑って言った。


「つい先日生まれたばかりの姫様が、大人のようなことをおっしゃるからおかしくてつい」


「もう」


一琳(イーリン)も見た目は若々しいけれど、70歳を超えている。

私のことは、孫娘ががんばっているみたいな感覚で見ているのだろう。


「私だって立派な大人ですけれど?」


「「そうですね」」


(カイ)一琳(イーリン)が、口を揃える。

絶対にそう思っていない。


私は不満げに目をすがめながら、笑みを浮かべる皆を睨んでいた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ