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人生3度目、一族の存亡をかけてがんばります!

精霊の末裔である「精霊族」。

私たちが住む国・心彩(シンツァイ)は、霊山の麓という自然豊かな場所にある。


周辺国とはあまり国交を持たず、独自の暮らしや文化を守り抜いて来たこの国は、戦や天災に縁がなく、長らく平和な日々が続いていた。


ところが今、かつてない危機が訪れている。


「──っ!また……、また死に戻った……!!」


柔らかな寝具に包まれて穏やかに眠っていた私は、まるで襲撃にでも遭ったかのように飛び起きた。


上半身を起こして周囲を見渡せば、ここがいつも使っている自身の寝台だ。


「はぁ……はぁ……」


右手で胸を押さえ、荒い呼吸を整えようとする。

手のひらには速い鼓動が伝わってきて、苦しいけれど「私は生きている」と実感できた。


「落ち着くの、落ち着くのよ。また戻ってきただけ、大丈夫」


手の震えは、次第に収まってくる。

こめかみや頬を伝う汗には気づいているが、それを拭う気力はまだない。


ふと視界に入ってきたのは、肩にさらりと流れる赤い髪。指を通せば、なめらかで心地いい。


(3年前の長さだ……)


ついさっきまで、21歳の私は病に倒れ苦しんでいた。

栄養が行き届かずにぼろぼろになった髪は短く切りそろえ、こんな風に指で触れてみることもしばらくぶりだ。


長い髪を見れば、私はまたもしても3年前に戻ってきたのだと実感する。

頬に触れればふっくらと柔らかく、病で痩せこけた肌とはまるで違う。


「今日からまた、18歳が始まるのね」


窓に目をやると、穏やかな光が淡く満ちている。今日は三度目の18歳の誕生日。私はやり直し地点へと戻ってきていた。


平穏な日常。

何も知らなかった一度目の人生は、ただの幸せな誕生日だった。


皆が私の誕生日を祝ってくれて、大好きな人たちの笑顔を見ながら祝いの歌を聞いて……。

まさかここからたった3年で、精霊族のほとんどが命を落とすことになるなんて思いもしなかった。


二度目の人生は「あと3年で国が亡ぶ。自分も死ぬ」と思ったら、恐怖で寝所から出られなかった。誕生日の祝宴は取りやめとなり、心配する宮女や宰相らの訪問もすべて断り、10日間も寝所でふさぎ込んで過ごした。


ただし、恐れていても未来は変わらない。

皆を救いたい一心で、一族のためにがんばった。


その甲斐なく、こうして三度目の人生をやり直すことになっているのだが────


「行かなきゃ。時間がない」


寝台から降りて、身支度を手軽に整える。

姫とはいえ、精霊族は近隣国の街くらいの規模しかない国で、宮女がたくさんいるわけではない。日常の身支度は、自分自身でするのが当然だ。


濡らした布で顔を乱暴に拭い、水色の衣を手早く身に着け、腰には紫色の紐を巻き、やや硬めに縛る。


着替えが済んだところで、これから会いに行こうと思っていた人物があちらからやってきた。


「姫様、(カイ)です。入っても?」


黒い扉越しにそう尋ねられ、私はすぐに返事をする。


「ええ、大丈夫よ。ちょうどよかった。今から(カイ)のところへ行こうと思っていたの」


スッと扉を開き中へ入ってきたのは、肩ほどまで青い髪を伸ばした見目麗しい男性。

宰相の座に就いている(カイ)だ。


「おはよう、今回も早いのね」


「今回も?」


「あ、えっとこっちの話よ。気にしないで」


(カイ)はまだ知らない。

私が今、この時点で人生三度目のことを。


彼はきょとんとした顔をして、くすりと笑った。


「初老なんで、朝は早いのですよ」


見た目は、他国人なら20代半ば。でも、彼はすでに120歳である。

平均寿命が200年の精霊族では、年齢にかかわらず見た目が若々しいのは普通のことだ。


(カイ)は、私の祖父の親友だった男で、私のことをいつまでも幼い子どものように思っていた。


部屋に入ってきた彼は、その手に大きなぬいぐるみを持っている。


「本日は誠におめでとうございます」


「ありがとう。あ、カエルのこれ……」


いくら何でも18歳の姫に、カエルのぬいぐるみを贈るなんて。しかも、絶妙にかわいくない。


「特別製の生地を使い、作らせました」


「わざわざ作らせたんだ……」


満足げな(カイ)

この空気で、断ることはできなかった。


「う、うれしい。ありがとう、飾っておくわ」


飾るというか、窓辺に置いておくというか。

一度目の人生も二度目の人生も、(カイ)からの贈り物はこれだった。今はまだやり直しスタート地点。どうしてもこれだけは変えられない。


「あっ、今はこれどころじゃないの。(カイ)に聞いてもらいたいことがあって」


「何でしょう?」


ぬいぐるみに気を取られている場合じゃない。

3年後には一族は全滅、その未来を変えなければいけないのだから。


私はぬいぐるみを机に置き、(カイ)を見つめて言った。


「国の行く末にかかわることよ。今すぐ相談したいの」


「国?それはまた、おおげさな」


「いいえ、行く末というか絶望しかないんだけれど聞いてほしい」


「前振りが怖すぎます、姫様」


まじめな顔で訴えるけれど、(カイ)は「この平和な精霊族の国が?」と信じられない様子だった。


この反応は予想済み。だって普通は信じられないわよね。

二度目の人生でも、誰かに信じてもらえるとは思えなくて、しばらく一人でがんばった。相談するのが遅れて、その結果また全滅したんだ……。


だから今度は、何としても死に戻ったこの日のうちに話を聞いてもらう!


あと三年で、この国は亡ぶ。精霊族は全滅する。

私は、どうしても未来を変えたい。


「お願い、話を聞いて」


本気を感じ取った(カイ)は、わかりましたと微笑む。


「精霊殿(でん)にて話をいたしましょう」



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