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やり直し精霊姫は加護なし皇子の寵妃を目指す 死にたくないので結婚します!  作者: 柊 一葉


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19/28

私の大切な婿様

(シャン)様が心彩(シンツァイ)へやってきて早十日。

彼が心を開いてくれる気配はまだない。

でも、時間が解決してくれることもあるというし、信頼してもらおうと焦るのはやめた。


晴れ渡る空を見上げれば、今日も一日いい天気になりそう。

朝の祈りを終えた私は、部屋で朝餉をとって薬草園へ向かおうとする。


「あれは?」


途中、中庭からカンカンと高い音が聞こえてきて、誰かが棍棒でも使って打ち合っているのかと思い、様子を見に寄り道した。

すると、そこには(シャン)様と天陽(ティエンヤン)を二人同時に相手する(カイ)がいた。


(カイ)が持っているのは刃をつぶした訓練用の槍で、対する二人は両刃の剣で戦っている。


子どもたちが遊んでいるのか、と思っていた私はその様子を見て息を呑む。


「お二人ともなかなか筋がいいですね!久しぶりに体を動かしたいと思っていたので、お付き合いいただきありがたいです」


「くっ……!」

「はぁ……はぁ……」


笑顔で槍を振るう(カイ)

(シャン)様はそれを睨み、天陽(ティエンヤン)は荒い呼吸を繰り返すだけだ。


花琳(ファリン)も心配そうに見つめる。


天陽(ティエンヤン)様は『武芸はあまり…』とおっしゃっていましたのに。おじい様ったら無茶をさせて」


(カイ)はどうしてこんなことを?」


天陽(ティエンヤン)様はしばらくすると片膝をつき、剣を地面に突き立てて動けなくなってしまった。

(シャン)様は何度も向かっていくけれど、(カイ)に一撃を入れることは叶わない。


(カイ)はにこにこと笑いながら、槍で攻撃を防ぎ続ける。


「あぁ、今のは惜しかったです」

「……くっ!」

「予想よりお強くて驚きました。しかし」


(シャン)様の突きをひらりと躱した(カイ)は、槍の柄で(シャン)様の右ひざを軽く突いた。

(シャン)様は体勢を崩し、そこにわき腹にも一撃をもらい横に吹き飛んだ。


「相手の懐に飛び込むということは、危険が伴います。私が槍を下げるまで待つべきでした」


さほど力を入れていなかったのは見てわかったけれど、私は心配で思わず駆け寄る。


(シャン)様!!」

「…………」


少し顔を歪め、悔しそうにする(シャン)様。

大事な婿様になんてことをするのだ、と私は非難の目を(カイ)に向ける。


「朝から何をしているのですか!?」


精霊族と他国の人は体の強さが違うのだ。

訓練するにしても、いきなり打ち合うのはやりすぎだと思う。


怒る私を見て、(カイ)は悪びれもなく笑顔で答える。


「お二人とも快く相手してくださいました。加減はしております、怪我はないでしょう?」


「そういう問題じゃありません」


私だけでなく、花琳(ファリン)も冷たい目で(カイ)を見ていた。

しかし、(カイ)はそれには構わず、槍を片手に何やら思案するそぶりを見せる。


「お二人とも、動きが独特ですね……。宮廷の作法的な剣技ではないとお見受けしました。一体どちらで習われたのです?」


問いかけに、(シャン)様はぽつりと呟くように答える。


泰仁(タレン)首都にいる武侠連中だ。皇子として剣術を習ったことはない」

「武侠?」


聞きなれない言葉に、私は首を傾げる。


「国の目が行き届かない、妓楼街や貧民街を仕切る男たちだ。うちの国にはそういう者たちがいる」


妓楼街とは何だろう。

疑問から疑問が生まれたものの、とにかく「公の組織ではない強い人たちに教わった」ということは伝わった。


(カイ)は「なるほど」と納得していた。


(シャン)様も天陽(ティエンヤン)もその方たちに……って天陽(ティエンヤン)!?」


天陽(ティエンヤン)は、気づいたらうつ伏せで倒れていた。花琳(ファリン)が手を貸すと、疲労困憊といった様子で起き上がる。


「すみません、お恥ずかしい姿を……」


「すぐに休んでください!本当に怪我はないのですか?花琳(ファリン)、手当てをお願い」


花琳(ファリン)はかしこまりました、と言い、天陽(ティエンヤン)に肩を貸して後宮へと戻っていく。


(カイ)は楽しげな顔で、「これから鍛え甲斐がありますなぁ」と言いながら宮廷へと戻っていった。

その後ろ姿はまったく疲労を感じさせず、本当に軽い運動をしたといった様子だった。


「加護を使わず、汗一つかかず終わらせた。宰相はバケモノか?」


(シャン)様は本当に悔しそうで、今度こそは……と拳を握り締める。すぐに立ち上がらないところを見ると、見た目以上に疲労が溜まっているのかもしれない。


(カイ)は別格です。私の祖父や父も、(カイ)には昔から一目置いていましたから」


それに、経験が違う。120歳の経験はなかなか追いつけない。


「宰相は姫の……」

「はい?」

「いや、何でもない」


(シャン)様は、何か言いかけてやめた。

私は続きを尋ねるよりも、(シャン)様に本当に怪我がないか気になって、まじまじと見つめて確認する。


「あぁっ、すり傷があるじゃないですか! (カイ)ったら『怪我はない』なんてよく言えたものですね」


じっくり見れば、腕や頬にすり傷があった。

痛そうで、見ている私の方が顔を歪ませる。


「私の婿様になんてことを……!」


怒る私を見て、(シャン)様は少し驚いた目をした。

でもすぐに目を逸らし、淡々と話す。


「これくらい平気だ。打たれたわりに痛みもない」

「本当ですか?」


当てられた腹は大丈夫だろうか?

確認したかったけれど、視線をわき腹に下げたところで「見せないからな?」と先に言われてしまった。


小さな精霊たちも、心配したのか周囲に集まってきている。

それを見ると、精霊たちは(シャン)様のことを受け入れているんだなと感じ、嬉しくなった。


しばらく黙っていた(シャン)様は、地面に手をついて立ち上がる。私もそれを追いかけて立ち上がり、裾についた草や土を静かに払った。


「さぁ、一緒に戻って手当てしましょう」

「必要ないが?」

「いけません。御身を大切になさってください」


少し強めにそう言えば、(シャン)様は仕方ないといった風に息をつく。どうやら私の気の済むようにさせてくれるらしい。

無言で歩き始めた(シャン)様を追い、私は隣を歩いていった。


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― 新着の感想 ―
[一言] お久しぶりです。更新嬉しいです。 かなり長く作者様の更新を見ていないと、いましがた活動報告を確認してまいりました。 大変なことだったのですね。 更新してくださったということは少しは快方に向…
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