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婿様と仲良くなりたい

太古の昔、人々は精霊や聖獣と触れ合うことができ、とてもよい関係を築いていたそうだ。

ところが、精霊や聖獣を利用してこの地を治めようとする者が現れ、精霊神様は純真な者たちだけを連れて秘境へと籠り、聖獣は散り散りになってしまった。


「精霊神様はこの地を守ってくださっているけれど、聖獣様たちはどこにいらっしゃるのかしら」


祈りを捧げる精霊殿で、大きな壁画を眺めながら呟く。

青い龍に黒い龍、白い虎に赤い鳥、かつての精霊姫たちは会ったことがあるらしいが、私はこれまで一度も聖獣様に会えていない。


泰仁(タレン)の第一皇子は、龍の加護があるのよね」


過去二度の時間軸で、(シャン)様を処刑した第一皇子・(ガオ)。黒い髪に金色の瞳を持つ、黒龍の加護を宿す皇子だと評判だ。


その性格は苛烈で好戦的。逆らうものには容赦しないと恐れられている。


皇帝となり、しかも強い加護があるのにどうして弟たちを殺さなければいけないほどに疑心暗鬼になったのだろう?

龍の加護がある人が、反逆者を恐れる必要なんてある?


「母親が違うといっても兄弟なのに」


争いのない心彩(シンツァイ)で生まれ育った私には、第一皇子の気持ちはまったく想像もできなかった。


(シャン)様はもう起きてるかな?」


今朝の祈りは終わった。

しばらく天候不順や災害の予感はない。

精霊姫の力は必要ないだろう。


(シャン)様は、昨夜は部屋でお食事をとり、そのまま休まれたと聞く。

天陽(ティエンヤン)には隣室を用意したので、何かあればすぐに話ができる環境だ。


これから朝餉に誘ったら、(シャン)様は来てくれるだろうか?

どきどきしながら精霊殿を出ると、菖蒲の花を運んでいる女官に会った。


「姫様、おはようございます」


「おはよう、花琳(ファリン)


花琳(ファリン)は二十歳で、女官の中では最年少だ。

加護の力で、傷を癒すことができる。いつも穏やかな笑顔でみんなを和ませてくれていた。


「さきほど婿様をお見掛けしましたよ」


「え?」


「子どもらに連れられて、川の方へ」


「あら」


しまった。先を越された。

子どもたちはきっと婿様に興味津々で、早朝から訪ねてきたのだろう。


花琳(ファリン)は焦る私に、くすりと笑って言った。


「嫌そうなお顔はなさっていませんでしたよ?」


「そうなの?ならよかった。あ、朝餉を外に持ってきてもらっていいかしら?」


「はい、かしこまりました」


私は急いで川の方へと向かった。

後宮の塀を出ると、建物の裏手には色とりどりの花々が咲き乱れていて、小路を抜ければ小川がある。


こどもたちはよくそこで魚を捕っているから、(シャン)様のことも連れて行ったのだろう。


予想通り、三人の男児と(シャン)様、天陽(ティエンヤン)の姿がそこにあった。


「婿様、全然捕れてない!」

「なんで?」

「魚嫌い?」


不思議そうな子どもたち。

彼らと一緒に小川に入っている(シャン)様は苦笑いだ。


あ、笑えるんだ。

笑顔っていう笑顔じゃないけれど、初めて見る顔に驚いた。


そしてちょっと寂しい。

私なんてまだ「取引国の姫」という対応しかされてないのに、子どもたちは(シャン)様と普通に接することができている。


「ほら、婿様。こうやって風で水を浮かせて、魚を包み込んで捕るんだよ」


七歳の(シー)が、手のひらから風を出し、器用に魚を捕ってみせる。

風の加護を持つ男児にとっては、魚捕りは簡単なのだ。彼らはまだ、皆が加護を使えて当たり前だと思っている。


「俺はそういうのはできないんだ」


「そうなの?じゃあ網を持ってきたらよかったなぁ」


「ここの者も網を使うやつがいるのか?」


「うん。二歳だとまだ上手にできないから」


「……二歳」


(シャン)様は呆れ交じりに笑った。天陽(ティエンヤン)はほかの子に手を引かれ、エビを素手で掴まされている。

泰仁(タレン)ではこんな風に川に入ることはなかったはずなのに、二人は嫌な顔一つせず、子どもらの相手をしていた。


さすがに、小さな子たちには警戒心は抱いていないみたい。

私はなんとなく話しかけるのをためらい、彼らの様子をしばらく眺めていた。


でも私の遠慮など、子どもたちがかまうわけもなく……。

あっけなく見つかって声をかけられた。


「姫様ぁ!おはようございます!」


ぶんぶんと手を振る(シー)たち。

私は笑顔で手を振り返す。


(シャン)様は私に気づくと、また昨日と同じく表情をなくしてこちらを見た。


「おはようございます。こちらで朝餉をご一緒してもよろしいですか?」


念のため確認を取ると、「あぁ」というそっけない返事がもらえた。

よし。嫌がっていないならそれでいい。


すぐにやってきた女官たちが、木の根元に厚手の敷物を広げ、私たちはそこで朝餉をいただくことにした。




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