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やり直し精霊姫は加護なし皇子の寵妃を目指す 死にたくないので結婚します!  作者: 柊 一葉


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12/28

皇子様は警戒中②

「だが、もう一つ」


(シャン)様は、まっすぐに私を見つめる。

まるで見定められているようで、なんとなく気まずい。


「知っての通り、俺には加護がない」


「はい」


「なぜこのような出来損ないを婿に望んだのか、教えてもらいたい」


「出来損ないだなんて……」


どうしよう。

正直にお金目当てですって言ってみる?

いや、それはさすがに……!うまくいくものもいかなくなりそうだ。


でも事実として、お金の話がなければ縁談を受けようなんて思わなかった。

ああっ、本当のことを言いにくい。


泰仁(タレン)は大国、なれど俺は他国に放逐しても問題ないと思われるような皇子だ。泰仁(タレン)宮廷との繋がりにはなり得ない」


「えーっと……」


返答に詰まった私を見かねて、(カイ)が口を挟む。


(シャン)殿下。婚姻を持ち掛けてきたのは泰仁(タレン)です。こちらはそれを受けたまで。たまたま婿を探していた時期に、姫に似合う年頃のあなたとの縁談が寄こされた。それだけです」


「だが、そちらに利がなさすぎる。この国に若い男がいないわけではあるまい?よりによって異国から、加護なしを引き取るなど普通じゃない」


(シャン)様が疑問に思うのはもっともだった。


「あなた方は加護に執着しすぎる」


(カイ)がははっと笑って言った。


「うちでは加護があるのは特別なことではありません。なくても暮らしに不便はございませんし、加護持ちが婚姻の条件になることはないのです」


「?」


「いいですか?宰相である私も加護は持っておりますが、使うことはほぼありません。上に立つ者は、いわば頭脳労働を担う立場ですから」


加護に論点を移すことで、(カイ)は結婚相手に選んだ理由をはぐらかそうとしていた。

(シャン)様もそれには気づいていて、疑いの目を向けたまま話に付き合っている。


「使うことがないのと、元からないのとでは違う」


「ここでは似たようなものです」


「第一、俺にその頭脳労働ができると?加護もなく、使えるかどうかもわからぬ者をあえて婿にする理由としては、到底納得できるものではない」


「おや、逸れた話を元に戻せるのなら、才覚はおありだと思いますよ?」


にこりと微笑む(カイ)

(シャン)様は、胡散臭いものを見る目を向けていた。


「────俺を得て、何を望む?」


(シャン)様の纏う空気が、ぴりっと張り詰める。

彼は明らかに私たちを疑っていた。


「何、を?」


私は首を傾げる。

何を望むと言われても。明確にこれをして欲しいという希望はない。


「ここで私と共に暮らしていただきたいのですが……」


夫婦ってそういうものでしょう?


「次期女王の夫であるからには、精霊族の中に混ざってあれこれやることはあると思いますが、これと言って縛りはなくてですね?」


本音を言えば、(カイ)の補佐的な仕事ができるようになってくれればありがたい。

私は精霊姫として祈りを捧げて国を守る役目もあるし……。


でも、向き不向きがあるから絶対ではないのよね。


「好きなことをなさればよろしいかと。人生長いんですし」


「は?」


「慣れるまでは、心彩(シンツァイ)の国を見て回って、民と仲良くなってくださるとうれしいです。(シャン)様が皆に早くなじめるよう、私も一緒に行きますから!」


「……」


(シャン)様は、目を丸くしていた。

その後方に立つ天陽(ティエンヤン)も、明らかに困惑しているのが見て取れる。


「理解しがたい……」


「何がですか?」


何だろう、この会話がかみ合っているようでかみ合っていない感じ。

(シャン)様は、何をそこまで警戒しているの……?


彼自身が言っているように、(シャン)様には加護もなく泰仁(タレン)の後ろ盾もない。

そんな彼を利用するって、何をどう利用するのだろう?


悩んだ末、思い当たったことは……


「あの、私たち怪しいですか?」


精霊族=怪しい集団。

もしかしてそんなイメージがあるのでは?


「答えにくい質問だ」


「う~ん、妖術とか呪術とかの類は自然の(ことわり)に反するので使えませんし、精霊族はこれといって害ある一族ではありません」


「……」


怪しくないって、どうやって証明すれば?

悩む私の肩に、暇を持て余した精霊が一人ちょこんと乗ってきた。


「……」


「どうかなさいました?」


今、一瞬だけれど(シャン)様の視線が動いたような?

もしかしてこの子が見えてる?


加護がなければ精霊の姿は見えないはずで、(シャン)様や天陽(ティエンヤン)もそうだと思ったから、精霊のことを話すのはまた後日にしようと思ったんだけれど……。


(シャン)様?」


「何でもない。……少し考える時間をくれ」


「はい、わかりました」


お疲れなのか、右手で顔の半分を抑えた(シャン)様は、どこか苦しげだった。

何か困ってる?迷ってる?

そんな風に見える。


(シャン)様にとって、この結婚はそんなに意に沿わないものだったのか……。

予想はしていたものの、ちょっと落ち込む。


いや、でも今は(シャン)様のことを気遣わなければ。

遠くからたった二人で来てくださったんだから。


大丈夫か、と顔を覗き込もうとしたところで、(カイ)が私の背中にそっと手を添えて言った。


「姫様。話はここまでにいたしましょう。殿下には休息が必要かと思います」


私は(カイ)に従い、話を切り上げた。


(シャン)様には何か必要なものがあれば伝えてくださいと告げ、私たちは部屋を出ていく二人を見送る。


小さな精霊たちが三人、(シャン)様のことを心配そうに見つめながらその後を追って飛んでいった。

精霊にまったく気づきもしない様子の(シャン)様に、私は「やはりさっきのは思い違いだったようだ」と思った。




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― 新着の感想 ―
[一言] 「俺に何を望む?」 「子種です」 と言ってほしかった~! せめて宰相に 「婚姻の目的は子作りですよ」 くらいは言ってほしかったな。
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