婿様との出会い(ただし覚えているのは私だけ)
見上げれば、澄みきった青。曇天続きだった大国・泰仁の地に久しぶりに青空が広がったというのに、首都の広場では反逆者たちの処刑が行われるそうだ。
「心如様、あちらです」
薄布を頭からかぶり、ここでは人目につく赤髪と碧の瞳を隠しながら旅をしてひと月。
わけあって人生やり直し中の私は、生まれ育った国を初めて出てきた。
「噂の名医に会いたいだけなのに、まさか処刑の日と予定がかぶるとは」
宰相の凱が嘆く。
彼もまた、ここでは目立つ銀髪を隠すために薄布をかぶり、私の手を引いて広場の人混みを抜けていく。
私たちの目的は、泰仁にいる名医に会うこと。
この先、約一年後に始まる悲劇を止めるために医師の力を借りたいのだ。
「首都にも寂れた場所はあるのね」
自然豊かでゆったりとした、祖国の心彩とは何もかも違う。
ここは大国の首都だというのに、少し路地裏へと入れば貧しさにあえぐ人たちが暮らす閉鎖的な地区がある。
目当ての医者は、そんな場所に住んでいる風変わりな男だそうだ。
凱の背中にかばわれながら、人波をかき分けて進んでいく。
処刑を見物したいなんて、どうかしてると思った。
遠くからでも見えるように、わざわざ木材を組んで作られた大きな処刑台。
そこには、捕らえられた一人の青年がまっすぐに前を見据えて立っていて、その清廉な雰囲気は反逆者のそれではない。
「あの人が何をしたっていうの?」
精霊族、心彩の姫とはいえ、他国の政治に口を挟むことはできない。
でも、捕らえられている青年は反逆者のように殺伐とした雰囲気はまったくないように見えた。
「兄皇子を妖術で殺めようとしたと……」
「妖術?」
処刑する理由にしては弱いような気がする。
けれど、兄皇子は疑心暗鬼になっていると聞くし、不思議ではないか……。
「彼は第五皇子、しかも後ろ盾もありません。ここでは兄弟で殺し合うのも珍しくない」
凱は私より「世間」というものを知っているから、淡々とそう言った。そして、私に見るなと言うように強く手を引いて歩みを早める。
反逆者として処刑される皇子様は、これから殺されるというのに怯えている様子はない。美しい黒髪がときおり風に流され、精霊族の私から見ても精霊の血筋を引いているのではと思うくらいに美しかった。
なんの悲哀もない、どうでもいいというような彼の顔つきがまた物悲しく、私は見ていられずに顔をそむけた。
「姫様、お気持ちはわかりますが他国のことでお心を痛めていては、この先……」
「わかってる。今は精霊族を救うことだけ考えなきゃ」
私は、この先訪れる悲劇を知っている。
謎の病が広がり、一族が全滅するまであと一年しかないのだ。
何のために二度目の人生を生きているのか?
もう少しも立ち止まっている時間はない。
ようやく人波を抜け、裏路地に入ったところでひときわ大きな歓声が上がる。
刑が執行されたのだとわかった。
私には彼を救うことも、盛り上げる民衆をいさめることもできなかった。
ただひたすら、奇跡の薬を求めて歩くしかできなかった。