表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
94/149

第2話 迷子の妹のお迎えはお兄ちゃんの仕事

「邪神の大進攻か……そりゃピリピリもするわな」


「ここはまだ距離がある方なので、ピリピリで済んでいますが……グランディア平原に近い街では、避難が始まっているとのことです」



 到着まであと5日……退去はできるだろうが、逃げ切れるかは微妙なところだ。

 邪神はその食性から最優先で人間を襲うし、索敵範囲もかなり広い。




「で、その大進攻にクラリスが関わっている可能性がある……と」



「そこからは俺が話そう」


「その前に診察よ」


「おはよ」



 順番にライル、マリエル、レーゼだ。


 てか、診察?



「おっほん、主治医のマリエル・エストワールです。生きてここから出たいなら、絶対服従よ?」


「医者の台詞じゃねえ」



 しかもなんか、トゲトゲした棍棒担いでるし。アレか、コイツがヴォーパルバニーか。

 きっと逆らったら、俺が最初の犠牲者になるのだろう。



「診察しながらでいいだろう。説明を始めるぞ。と言っても、俺から伝えることは多くない……クラリスについてだ」




 ライルが口にしたその名に、場の空気が変わる。

 俺も……無意識に居住まいを正した。



「先ず、クラリスは生きている。どんな状態かはわからんがな。居場所も掴んだ」



 最初から飛ばしてくるな。ライルらしい、切れ味たっぷりの切り出しだ。



「……動揺はしていないな、宜しい。クラリスの居場所はグランディア平原だ。進攻中の邪神の群れの先頭付近……はっきり言うぞ。十中八九、女王の体内だ」


「「「っ!?」」」



 マリエル達が息を呑んだ。本当にはっきり言いやがる……。

 俺もサンダルフォンが平原で消えたって時点で予感はあったが、言葉にされるとくるものがあるな。


 そんな俺達に構わず、ライルは話を続ける。



「俺達のやることは決まっている。女王を倒し、腹を開いてクラリスを救出する。単純だろ?」


「簡単に言うわね……私も映像見たけど、人間が戦うようなものには見えなかったわよ……?」



 女王の映像なら、俺も以前に見たことがある。

 あれはもう山だ。


 統合軍参謀本部でも、『どうにかして、現存する魔王にぶつける』なんて世迷言が、平然と議論されたこともある程に。


 因みに、魔王は負ける想定。

 弱ったところを、俺とレーゼを中心に最前線組を投入するんだとか。



 それ程までに、邪神の女王は桁違いのなのだ。

 だからこそ統合軍、そしてギルドの一部勢力は、偶然邪神と一体化した少女を『兵器』にしようとした。


 聖導教会と手を組んでまでな。

 クラリスの『調整』に、教会が保有する勇者の洗礼(人体改造)装置がどうしても必要だったらしい。


 閣下がクラリスの詳細情報を持っていたのも、その一部勢力とやらを締め上げたからだ。



「どちらにしろ、次の戦いで女王は倒すしかない。それができなければイーヴリス大陸は壊滅。他の人域にまで被害が及ぶ可能性もある」



 小型だけでも200万を超える邪神の群と、正面からぶつかる力はイーヴリスにはない。

 人類が生き残るには、早急に女王を倒し、群れの弱体化と、撹拌弾での知覚阻害を有効化する必要がある。


 群の殆どが置き去りになり、女王が突出している今は、それができる千載一遇のチャンス。

 ここで仕留めきれなければ、あとは敗北が約束された泥沼の籠城戦になるだろう。



 そして、クラリス救出も絶望的になる。



「退路は無し……か、ますます単純でいいじゃねえか。次があると思うと、ここ一番の覚悟が鈍る」



 それに、クラリスがいつまでも保つとは限らない。

 一分一秒とは言わねえが、5日はギリギリかもしれないんだ。



「やってやるよ。一発勝負だ」



 そう返すと、ライルとアルテラが力強く笑う。


 マリエルはいつもの呆れ顔……いつもの、最後まで付き合ってくれる時の顔だ。


 レーゼは無表情だが、鼻をフンフン言わせている。やる気があって宜しい。


 相変わらず、頼もしい奴らだ。




「腹は括ったな、ガキ共」


「ふぁ!?」



 予想外の声に慌てて振り向く。

 やめろよ、せっかくカッコつけたのに、変な声出たじゃねえか。


 目を向けた先には、見慣れた太々しい笑みがあった。



「閣下!? なんで!?」



 グラムシュミットの本部にいる筈の我が上司、作戦参謀次官ギリアム・ケール・グランツマン准将閣下。



「私が連れてきました!」


「なんでっ!?」



 あと、何故かふんぞり変えるリリエラ。



「『みんなに伝えてくれ』って言われたんで!」



 伝えたら来ちゃったの!? あと『みんな』の範囲広すぎじゃね!?



「俺がいることに、何か文句でもあんのか?」


「お偉いがこんなとこフラフラしてたら、驚くでしょーが!」


「偉い奴は、『息子』の見舞いにも来ちゃいけねぇってのか? ははん……テメェ柄にもなく照れてやがんな? ほーら、パパでちゅよー」



「顔面凹ませてえ……! てか、まだ手続き終わってねえよっ!」



 この人こんなウザかったっけ!?


 これで父親は3人目だけど、『パパでちゅよー』は人生初だ。

 ……養子の件、早まったかな。



 げんなりする俺を他所に、パパンもとい閣下は、キリッと表情を改める。



「親子の語らいはこれぐらいだ……グレン・グリフィス・アルザード中尉!」


「はっ!」



「指令を伝える! 直ちに隊を率い、グランディア平原方面、女王討伐連合軍に合流せよ。尚、臨時の増員として、特務士官ルインレーゼ・ヴァレンタイン中尉を、貴官の隊に預ける」



 天空王討伐メンバーに、更にレーゼが加わる。

 それだけの戦力を、1部隊に集中させるということは即ち――



「女王に突っ込む中核戦力は、お前達ってことだ。やり方は任せる。全力でブチ殺してこい」



 俺が……俺達がクラリスのところに行くための『お膳立て』をしてくれたってことだ……相変わらず、この人は子供に甘い。



「………統合軍が積極的にクラリス救出に動くことはない。寧ろ今の状況を歓迎してさえいるだろう。俺にできるのも、配属をいじくるぐらいだ」


 閣下が少し視線を落とす。


 ……似合わない顔するんじゃねえよ。ちゃんと感謝してるから。


 生みの親のバークレイ候は兎も角、レイ先生に閣下……俺は父親に恵まれた。



「なぁ、『親父』」


「なんだ、『バカ息子』」


「俺さ……『妹』が欲しいんだ」



 そう言うと、閣下はやれやれと頭を振り、不敵な笑みを取り戻す。



「責任持って、お前が連れて来い。そしたら、兄妹揃って面倒見てやる」


「ああ、ありがとな」



 新しい『父親』への、最初のわがままだ。

 やる気になってるパパさんのためにも、何としてでも叶えてもらおう。




 なあ、クラリス。


 世の中、欲張りで我儘な大人がわんさといるだろ?

 6歳の幼女に、これ幸いと人類の命運を背負わせようとする奴らとかな。



 でもお前は、そんな奴らの言うことなんて聞かなくていい。



 人類なんて救わなくていい。



 どうしてもお前がやんなきゃ、ってんなら……そうゆうのは俺がやる。



 だから、お前は帰ってこい。

 『兄ちゃん』が迎えに行ってやるから。



 ――待ってろ、クラリス……!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ