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第1話 ウチの息子を見くびるな

 邪神の群は、女王を中心に真っ直ぐ北東に進攻中。


 確認できただけで巨大種が16体、3m以上の大型が12万体前後、2mまでの小型種は凡そ200万体。

 このまま行けば、あと5日でグランディア平原方面最終防衛基地、通称『前線基地』に到達する見込み。


 ただし、女王の速度が速すぎるため、到達時点で群の8割以上は脱落すると予想される。

 これは、巨大種がいると隊列を組むという邪神の性質から逸脱した行動であり、各方面からの邪神の弱体化報告と合わせて、女王に何か異変があったことが予想される。


 尚、大進攻直前に、ガルデニアの大型飛空挺『サンダルフォン』がグランディア平原に向けて飛行していたが、その後消息を断っている。



 現在、迎撃のための戦力が前線基地に集結中。


 各方面前線部隊、各国からの援軍、ギルドの緊急招集による傭兵部隊と合わせて最大動員は30万を超えるが、

 最初の衝突に間に合うのは、前線基地の部隊5,000を合わせて10万程度になると予想。



 巨大種に対抗できる特級戦力も招集しているが、絶対数が少ないため十分な人数にはならないと思われる。



 中心となるのは『錬金術師』ライル・アウリード、『赤頭巾の剣聖』ルインレーゼ・ヴァレンタインを加えた、統合軍参謀本部直属グリフィス特務隊。





『――の、予定らしいが……隊長殿のご様子は?』


「絶賛昏睡中だ。外傷はお前んとこの撲殺兎(ぼくさつうさぎ)が直したが、目を覚まさねぇ。今は部隊の奴らが見てる」



 見た目は美幼女、中身は老婆、ギルド総代レベッカ・M・マルグリッド。


 ちょいワルおじさんの皮を被った親バカお父さん、統合軍作戦参謀次官ギリアム・ケール・グランツマン准将。


 通信機越しに、相変わらず胡散臭い空気を蔓延させている。




『どうするつもりだ?』



 この場合の『どうするつもりだ?』は、対策を聞いているわけではない。


 前世では全のために非常な決断をし尽くしてきたレベッカは、今生は人情家路線で行くと決めている。

 彼女は『グレンのケアをどうするつもりだ?』と聞いているのだ。



「どうもこうも無い。アイツは起きる。そしたら前線へブチ込む」


『ギリアム!』



 だからこそ、ギリアムのこの発言に、彼女は怒りを抑えない。



『お前……あの小僧に、どこまで背負わせるつもりだ』


「別に、何もかも背負わせるつもりはねぇよ。小娘一人……アイツに背負わせるのは、それだけだ」


『それが『重い』と言っているんだ』



「あのガキを舐めんなよ……!」



 だが、ギリアムはその怒りを正面から跳ね返す。



「俺は最初、アイツを唯の子供に戻すつもりだった。力だけは持って、悲劇の主人公面してるアイツに、『自分は唯のガキだ』って気付かせようとな。

 クラリスの面倒を見させたのもそのためだ。自分より小さいガキの面倒見てりゃ、日常に戻って来るんじゃないかってな……」



 『だが』とギリアムが笑う。その顔は嬉しそうで、でもどこか寂しそうでもある。



「悲劇を振り払ったアイツは、変な方向に突き抜けやがった。今や熱血ヒーロー様だ」



 そして、画面越しにレベッカを睨みつけ、今度はニヤリと不敵に笑う。



「アイツは唯のガキじゃねぇ。唯のガキにならないことを、自分で望んで選んだんだ。だったらアイツの望む限り、使い倒すだけだ。『妹』の迎えぐらい行かせるさ」



 『絶対にやってのける』――ギリアムの目はそう言っていた。




『なるほど、唯の親バカか』


「黙れババァ」




 ◆◆




『――――』



 聞こえねえ。



『――――』



 だから聞こえねえって。



『――――』




 クラリスが、口をモゴモゴと動かして何かを呟いている。


 だが、いつもに増して声が小さい。

 その言葉は、俺の耳に入る前に消えてしまう。



『――――』



 そんなに言いにくいことなのか?

 俺が耳を澄ますほど、クラリスは俯き、声が小さくなっていく。



 やがて、その姿が徐々に闇に溶けていく。



『――――……』



 どこに行くつもりだ。

 一人で真っ暗なとこ行ったら、危ねえだろうが。



『――――……』



 とにかく、先ずこっちに来い。動けねえなら、手を伸ばせ。



 クラリス!





『……さよなら』




 ◆◆




「クラリスっっっ!!!!」



 伸ばした手が空を切る。

 心臓は早鐘のように鼓動を打ち鳴らし、跳ね上がる体温に、全身から汗が吹き出した。



「すぅーーーーーっ、はぁーーーーーっ」



 呼吸は、深い。



 ……みっちりしごかれたからな。

 息苦しいと、無意識に深い呼吸になるように。

 おかげでぐちゃぐちゃだった意識も、割とすぐに落ち着いてくる。



 クリアになった視界が映すのは、最近ご無沙汰だった真っ白なカーテン。

 白面に蹴落とされて、地面に激突した後の記憶はないが、どうやら俺は病院にいるらしい。




「ん……ごしゅりんさま……」



 そして、ベッドに突っ伏して眠るエロメイド1名。

 随分と心配をかけたようだ。



「んはぁ……だめれす……みんらがみれいましゅぅ……」


「起きろ」


「ほげらっ!?」



 割と本気めにデコピンをかます。

 アルテラは、愉快な悲鳴をあげて飛び起きた。



「ご主人様……? いつの間に服を……?」


「俺を露出プレイに巻き込むんじゃねぇっ!」



 想定以上にヤバい夢を見ていた様だ。

 ええい、残念そうにこっちを見るなっ!



「まあいい……アルテラ、ここは何処だ? 俺は、どんだけ寝こけてた?」


「ここはアグリア修道院から近い、ルミランという街です。ご主人様は搬送されてから2日半、昏睡状態でした。下の世話は、僭越ながら私が」



 最後の情報いらねえっ!

 てか、そうゆうのって、看護士さんとかがやってくれんじゃないの!?



「誠心誠意お願いして、お引き取りいただきました」


「力の入れどころがおかしいぃぃぃっ!!」



 日に日に、変な方向に成長していく駄メイドに悲観していると、部屋の扉が勢いよく開いた。



「とうっ!」



 何故か飛ぶ。何故か回る。そしてずざーっと着地。



「グレン様! おはようございます!」


「おう、元気そうだなリリエラ」



 病院ではお静かに。一応、俺、療養中だからな?



「元気なら一つ仕事を頼む。主治医とみんなに、俺が起きたことを伝えてくれ」


「がってん!」



 滞在時間20秒強。

 嵐の女リリエラは、来た時の勢いのまま退室していった。


 何だったんだアイツは?



「医師の判断を伺うのですね」


「なんだ、以外か?」


「はい。ご主人様は、無理にでもベッドを飛び出すタイプかと思っておりました」



 コイツ……あぁそうさ、俺は確かにそうゆうタイプだ。

 必要とあらば、医者ぶん殴って飛び出すのが、グレンさんってもんよ。



 なんだけど……。



「それは最終手段だ。一分一秒を争うとかじゃなきゃ、極力医者には従うさ」



 医者が止めるのも聞かずに飛び出した奴が、傷跡バックリ開いた遺体になって帰ってくるとかは、よくある話。

 医者の言うことを無視すれば、碌な結果にならないってのが、統合軍最前線組の共通認識だ。

 俺だって、そんな教訓の一部にはなりたくない。



「でだ、アルテラ。とりあえず、今どうなってる? クラリスのこともだが……何というか、空気がピリっとしてる気がするんだが」


「あ……はい、確かにご主人様がお休みの間に、切迫した事態が発生しました……ですが……」


「ん?」



「……いえ、クラリスのこと……失礼ですが、もっと取り乱されるかと思っていました」


「あぁ、なるほど……」



 コイツにも随分心配かけたようだ。でもまあ、大丈夫だ。



「生きてるさ。少なくとも、まだ手遅れじゃない」



 最後に『さよなら』なんて言いやがったけどな、あの夢の中で、アイツはずっと言ってたんだ。




 ――『たすけて』って。




「だから、気にせず全部聞かせろ。『神の子』なんてぶっ飛んだ属性持ちだ……どうせその切迫した事態とやらにも、一枚噛んでんだろ?」



 そう言ってやると、アルテラは驚いた顔をして、すぐにふっと柔らかく笑った。



「はい。では、お話しします」



 そして、中々に凄まじい『現状』を語り出した。

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