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第7話 再会の時

 大扉を蹴破り現れたグレンに、セインの全身が沸き立った。


 渦巻く憎悪。湧き上がる優越感。あの日、グレンを叩きのめした手足の生々しい感触。

 その全てがない混ぜになり、セインの顔が嗜虐的に歪む。




 ――どうやって嬲ってやろう?



 積もり積もった恨みを十分に晴らすには、ただ叩きのめすだけでは到底足りない。


 やはり先ずは言葉だ。


 嘲り、蔑み、貶め、辱める。



 そうだな、随分急いできた様だし、取り敢えずその努力を嘲笑ってやろう――





「やぁグレン。みっともなく焦ってがぁぁぁぁぁぁっっっ!!?!?」






 だが、セインの思惑は早々に崩れることになった。



 『会話をする気などない』とでも言うつもりか。

 グレンは部屋に乗り込むなり、無言のままセインに飛びかかってきた。


 いや、寧ろ階段の前にセインがいたから、跳ね飛ばそうとした感じだ。


 不意打ちと想定外の勢いに押され、セインが大きく後退する。



「このっ! 貴様、ぐっ! 話を、くそっ!」



 繰り出される無数の銀光は、光の勇者であるセインを持ってしても手に余る凄まじさだ。

 不意打ちで調子が崩されていることもあり、何発かは体を掠めている。

 アダマンタイトの重甲冑を超えるはずの聖鎧に、幾つもの傷が刻まれていた。



「こいつ! まともにやっても、ちぃっ! 勝てないからって、がはっ!?」



 その言葉も届いてないのだろう。

 セインが何を言おうと、グレンはお構いなしに剣を叩き込む。



「卑怯者っ! がっ! 正々堂々とっ! 戦えっ!」



 が、何があったのだろうか。

 そんなグレンの目がセインを捉え、驚愕に見開かれた。















「あ、お前セインか?」





「き……さ……まぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっ!!!!」




 ◆◆




 突然だが、俺とセインの話を聞いてくれ。



 俺はセインを、どうしようもないクズだと思っている。


 家を追い出される前、無駄に痛めつけられた恨みもある。

 その前も屋敷の人間に取り入って、俺を孤立させたりなんかもしていた。



 が、追い出されたことそのものに関しては、実はもう恨んではいないんだ。



 こいつも動きはしたんだろうが、実際にやったのは父上殿だ。


 それにあれがなければ、俺はみんなと出会うことはなかった。



 レイ先生、ハンナ、姉さん達、孤児院やギルド、街のみんな……。



 もし俺が、この記憶を持ったまま生まれ変わったとして、何かの間違いで安穏と屋敷にいられることにでもなったら、土下座し、セインの靴を舐めることになろうとも、勘当を願うだろう。



 今回だってそうだ。


 教会がクラリスを狙っているなら、セインがいなくてもこの件は起きた。

 寧ろセインが私怨で動いたおかげで、俺達は苦もなくここに辿り着くことができたんだ。


 アルテラを痛めつけたのは許せない。

 だがもし他の、嗜虐心やすけべ心を出さない奴が相手だったら、リリエラ共々殺されていた可能性だってある。



 セイン・バークレイは、感情面では決して受け入れることができない男だ。

 だが冷静に結果だけを見れば、コイツがいたせいで被った実害は殆どない……寧ろ俺の人生にとって有益ですらある男だった。



 そのせいだろう……俺はセインに対して、大して執着していない自覚がある。


 ……実際、自分で思っているより気にしていなかったらしい。




 つまり、何が言いたいかと言うと。











 ――さっきから至近距離で打ち合ってるコイツが、セインだと気付くのに1分近くかかったけど、俺悪くないよね?






「き……さ……まぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっ!!!!」




 ちっ、ダメか。

 相変わらずケツの穴の小さい野郎だ。



 だが考えてもみてくれ。

 俺はこの金ピカ聖鎧状態は初見だし、顔付きや声だって多少変わってる。

 これをすぐに気付けって言うのは、無理があると思うんだ。



 うん、やっぱり俺は悪くねぇ。



 俺は悪くねぇっ!




「僕はっ! 光の、がっ! 勇者っ、ぐふっ! セインっ、うぐぁっ! バークレイだぞっ、くぁっ! この僕に対してっ、ぎぃぃっ!?」



 知るかボケ。

 勇者様なら、もうちょいシャキッとした太刀筋でも見せてみろ。

 昨夜もお楽しみで、腰がやられてんじゃねえのか?



 てかな……。




「忙しいんだ後にしろおおおぉぉぉぉっっ!!!」


「ぐおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉっっっ!!?!?」



 邪魔なんだよ……!


 執着は無いにしても、そこそこ因縁はある奴だ。

 目の前にしたら、恨み言の1つも出てくるってもんだろう。


 煽り倒して、ボコボコにして、見下して、ボロ雑巾のように踏み躙る。

 そのくらい、ガキの頃にやられた事くらいやりかえしても、バチは当たるまい。








 ――どうでもいい……!!




 恨みも、仕返しも、知ったことか。


 そんなもん犬にでもくれてやる。




 とにかくクラリスを返しやがれ!!




 上段からの一撃を横に弾く。

 切り返して反撃。

 そこに、セインが何とか剣を戻してきた。


 中々しぶとい。だが三合も結べば十分だ。

 剣を振り抜けば、セインの聖剣は腕ごと跳ね上がる。


 セインの体が、完全に開いた。



「退けや腰振り勇者ぁっ!!」


「がふっっ!!!」



 ガラ空きの胴体に1発。

 俺と白虹(ビャッコウ)が一体となった一撃は、魔王の甲殻に匹敵すると言われる聖鎧をも切り裂く。


 黄金の鎧が肩から胸にかけて大きく裂け、裂け目から勢いよく血が迸った。



 直撃――だがセインの瞳は、未だ執念の火が燃えている。




「がぁぁぁぁぁぁっっ!!!」



 膝をつきながらも弾かれた腕を戻し、横薙ぎに斬撃を繰り出してくる。


 低い。

 剣では防ぎにくい位置だ。


 なら、その剣戟には応じない。



 膝を狙った一撃を飛び越え、そのまま顔面に回し蹴り。



「あぶっっ!!?」



 首から吹っ飛んでいくセイン。

 俺は着地と同時に駆け出し、トドメを刺すべくそれを追いかける。



 勇者殺しは、政治的に色々面倒なことになる。

 本来なら極力避けるべきなんだが……あれだ。

 グリフィス特務隊お馴染み、『第2形態警報』だ。


 しかも今回は、なんとレーゼから警告まで受けている。




『何もさせずに倒して』




 ……と。


 だから、ここで確実に仕留める。



 床を転がり蹲るセインが、こちらに顔を向けた。

 怒りに染まった、鬼の様な形相だ。



「ちぃっ!」



 思わず舌打ちが出る。

 油断も手加減もした覚えはない……だが、あと一歩遅かったらしい。



 俺を睨むその目は――金色の光を放っていた。





限界(アルティマライズ)突破(オーバーロード)ぉぉっっ!!!」





 セインを中心に空気が爆ぜる。

 魔力そのものが爆発したかの様な、金色の光が膨れ上がる。


 凄まじい力の奔流。

 ただそこにいるだけで、肉体が消し飛んでしまいそうだ。



 行くか? 退くか?



 ……行けっ!!




 一瞬の選択。決めたからには、ここで仕留める。

 暴風を掻き分け、その中心のセインに一閃を見舞う。



 呼吸、間合い、踏み込み、全てを必殺の域に練り上げた。




「………っ」




 だがその一撃は、より大きな力であっさりと抑え込まれた。

 迎え撃つセインの聖剣を、精々1cmほど押し込んだ程度。

 そこからはピクリとも動かない。



「ふんっ」


「ぐぉっ!!」



 セインが聖剣を無造作に振るい、俺は後方に大きく跳ね飛ばされる。

 太刀筋は全く変わっていない。

 なのに叩きつけられた力は、さっきまでの比ではない。



 全身を包むのは、生命波動にも似た金色の光。

 だが感じる力はより強く、荒々しい。



 頭の中に、レーゼから伝えられた言葉が甦る。



 悪いなクラリス……迎えに行くの、遅くなりそうだ。





『もしセインがこれを使えたら』








 ――グレンでも勝てない。

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