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第5話 レーゼちゃんのお色直し大作戦

 『神の子』と呼ばれる少女は、僕が声をかけると敵意を帯びた目を向けてきた。



 この僕に、そんな目を向けるなんて……!


 本来ならすぐにでも制裁を加えるべきなのだが、相手は子供だ。

 しかも卑怯者のグレン達のこと……ありもしない僕の悪評を刷り込んでいるに違いない。


 一旦怒りを飲み込み、何人もの女性を虜にしてきた極上の笑みを彼女に向ける。



「……可哀想に……君は奴らに騙されているんだ」



 そう、責任は彼らにある。

 ここは、寛大な心で諭してやるべきだろう。



「彼らはね、悪人なんだ。卑怯な手段を使って、僕のものだった栄誉を盗んでいったんだよ」



 そんなに僕の名声が妬ましかったのか。怒りを通り越して、いっそ哀れにすら思う。



「あんな嘘つき達の言葉は忘れてしまうんだ。僕は勿論、卑怯な嘘なんかつかない。君の誤解も全て解いてあげよう。さあ、彼らにどんな嘘を吹き込まれたんだい?」



 そう言うと、彼女は表情を変えずに言った。





「お姫さまにフられた人」


「ぐっ……!?」



 ちっ、アリアの話か……まったく、奴等らしい姑息なやりくち口だ。



「呆れてものも言えないな……! 自分達に都合のいい部分だけを(あげつら)い、そんな低俗な表現で僕を貶めるなんて」



「仕返しに、お姫さまの国、見捨てた」


「如何にも奴等らしい理解だ! この僕が『仕返し』なんて低次元なことをする筈がないだろう?

 いいかい? 奴らは愚かにも、この僕が差し伸べた手を振り払ったんだ! 原因は全てランドハウゼン皇国にある!」



「それで、グレンたちが助けたから怒ってる。仕返し、できなかったから」


「仕返しではないと言ったろうっ!? 奴等が自らの過ちを理解し誠心誠意謝罪すれば、僕は助けてやるつもりだったんだっ! それをグレン達が……!」



「わざとお姫さまをピンチにして、ヒーローになりたかった」


「なっ……!? 僕がそんな姑息な真似をすると思っているのかっ!? 僕は……僕はセイン・バークレイだぞっ!? 光の勇者だぞっ!?」



「ピンチになるのを待ってたら、グレンがヒーローになっちゃった」


「奴を持ち上げるなっ! 奴は卑怯者の盗人だっ!」



「妬んでる?」


「黙れぇぇぇっっ!!!」




 気付いたら右手を振り抜いていた。

 少女が床を転がっていく。



「『誰が』……『誰を』……妬んでるって……?」


「うぅっ……ぐっ……」



 うずくまって呻き声をあげる姿を見ても、溜飲は下がらない。

 何が『神の子』だ……ただの頭の悪い小娘じゃないか……!



「僕はっ、この世で最も優れた人間っ! 『光の勇者』セイン・バークレイだっ!! その僕が『妬む』っ!? 誰よりも優れているこの僕がっ!? そんなことある筈がないだろぉぉぉっっ!!!」



 こんな侮辱は絶対に許さない。

 ガラ空きの腹を、内臓が破裂するまで蹴り飛ばして――






「勇者様」




 耳障りな声が、僕の意識を引き戻した。汚らしい中年の声だ。

 顔を向けると、そこには黒装束に、歪な紋様の描かれた白面の男が立っていた。



「エルカサド……何の様だ……!」



 これから、この無礼な子供に思い知らせてやろうというところだったのに。

 苛立ちののまま睨みつけるが、コイツは全く動じる気配がない。


 それがまた、僕を余計に苛立たせる。





 エルカサド。



 教会暗部の長にして、勇者を――当然、僕以外の有象無象だが――上回ると言われる『七徳(しちとく)の聖人』の1人。

 そう言えば、教皇から神の子の護衛として直々に送り込まれていたのだった。




「『神の子』をあまり傷つけられると困りますな。この後の『儀式』に差し支えますゆえ」


「これは『躾』だ……! あまりに礼儀を知らなかったんで、憐れに思ったこの僕が直々に教えてあげてるんだ。わかったら下がれ。これは命令だ」



『これ以上邪魔をするなら容赦しない』


 そんな意思も込め、全力で威圧してやった。





「神の子が語らうのは邪神のみ。人の躾は必要ありますまい」



 だが、奴は声色一つ変えずに食い下がってくる。


 ふざけるなよ……!

 お前は、僕の威に恐れ慄き、逃げ出すんだよ!



「いい加減にしろエルカサド……これ以上僕を怒らせるな……!!」


「私は教皇猊下から、神の子を無事に連れ帰るよう命を受けております」


「老いぼれの都合など知ったことかっ! そんなモノが、僕の意向より優先されるとでも言うつもりかっ!?」



「そう申しております、勇者様」



「なっ!!? 貴様……薄汚い鼠の分際でぇぇぇぇぇっ!!」



 許さない……!!


 コイツは僕をっ! この『光の勇者』セイン・バークレイを軽んじた!

 それは、この世に存在するどんな罪よりも重いんだ! コイツは……今ここで処刑する!



「その無礼、万死に値するっ! 跪いて首を差し出せっ!!」



 僕は聖剣を抜き放ち――






 ――ドゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォォォォォォォォンッッッ!!!!!




 直後、凄まじい轟音と揺れが、階下から響き渡った。




 ◆◆




 崩れる外壁、降り注ぐ瓦礫、立ち込める煙。



 我々グリフィス特務隊臨時分隊は、飛空挺での突撃をもって、アグリア修道院への侵入に成功した。


 壁に刺さった飛空挺はガコンっと大きく揺れ、そのまま地面へと落下していく。




 飛空挺って高いんだぜ?

 閣下……経費で落とすって言いましたよね?


 言質取ってますからね?



 真下から響く轟音を聴きながら、俺は未来のお父さんの奮闘に、強く強く期待した。




『来たよ』



 破壊音に釣られてか、バタバタと足音が集まってきた。

 こちらも迎え撃つべく、煙の中から姿を見せる。



 俺、ライル、そして『ソレ』が現れた瞬間、集まってきた神官戦士達がざわめき出す。




「何だあれは……!」


「魔導具……いや、呪具か……?」


「何と言う禍々しさだ……!」


「悍ましい……!」




 うん、わかるよ。凄くわかる。




 現れたのは、身長3m程のほっそりした人型。


 両手足の先端は剣になっており、動くたびにカシャン、カシャンと石床を鳴らす。


 全身は赤黒い血のようなもので汚れており、頭部に付いた単眼が、周囲を睥睨する。


 そんな不気味な人型が、カコカコと壊れた人形の様に、不規則に全身を動かすのだ。

 何か恐ろしいモノに取り憑かれた呪いの人形と言えば、9割は信じるだろう。





 これが、今回レーゼが持ち込んだ結婚式用小道具。


 披露宴お色直し第6案『人形使いと殺戮人形』だ。



 中には勿論、レーゼが入っている。

 信じられるか? コイツら、これを結婚披露宴でやろうとしてるんだぜ?


 因みにこのぎこちない動きは、実際に動きづらいのではなくレーゼのアドリブだ。


 彼女がレガルタまで来た理由は、他でもない。

 頑張って練習してきたこの動きを、ライルに披露するためだ。



 この娘を嫁にしようとしたライルを、俺は心の底から尊敬した。




「ば、抜剣っ!」



 隊長らしき男が青い顔で檄を飛ばすと、戦士達は怯えながらも、意を決して剣を抜く。




 ――パチンッ



 ライルの指が軽快な音をたて、人形がピタリと動きを止める。

 邪悪な人形使いの顔は、これでもかという程邪悪な笑みに染まっていた。


 でも横から見ると、ちょっと引き攣ってる。



 ライルにとって、これはリハーサルだ。

 オーディエンスの予想通りの反応に、思うところもあるのだろう。




 ――グリンッ!



「ひぃぃっ!?」



 だが、血塗れ殺戮人形レーゼちゃんは違う!

 もはや、身も心も人形になり切った彼女は、静止した人形の頭部を抉り込むように戦士達に向けた。

 不気味な単眼に見下ろされた戦士達は恐れ慄き、2歩、3歩と後ずさる。


 ライルはちょっと泣きそうだ!




「くっ……切り刻めぇぇっ!!」




 ヤケクソ気味な人形使いの叫びが、戦闘開始の合図となった。


 レーゼは一瞬で腹這いになり、人形を四足歩行に切り替える。

 その動きに、今までのぎこちなさはない。


 4本の足を蜘蛛のように動かし、恐ろしい速さで彼等へと襲いかかった。

 カタカタと、首を不気味に動かすことも忘れない。



 てか速っ! 怖っ! キモっ!




「うわぁぁぁぁぁっ!!?」


「ひぃぃぃぃぃぃぃっ!!?」


「来るなっ! 来るなぁぁぁぁっ!!」


「嫌だぁぁぁっ! 死にたくないぃぃぃぃっっ!!」


「助けてくれぇぇぇぇぇっ!!」




「ママぁぁぁぁぁぁぁっっ!!!」




 ついさっき覚悟を決めた筈の戦士達が、悲鳴をあげて逃げ惑う。

 レーゼはそんな彼等を追い詰め、全身を切り刻んだ。


 血飛沫が床や壁を濡らす。

 灯りに照らし出された赤黒い染みが、また恐怖を助長させた。




 阿鼻叫喚の地獄絵図。



 恐怖に逃げ惑う彼らに、未来の披露宴の招待客の姿が重なる。

 ライルが、力のない目を向けた。



「グレン……」


「なんだ」



「俺達は友達だよな……?」


 ※約:結婚式来るよな?




「……行けたら行くわ」


「グレェェェェェェェェェンっっ!!!」




 悲痛な叫びを上げるライルから逃げるように、俺も狂騒に飛び込んだ。

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