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第14話 第二形態でデカくなってもそこまで強くならない不思議な法則

「レッとウ、しゅゾク」


「ガイちゅウ、くジョ」


「オナカ、すイタ」


「ワレらハ、ハテなイ、タビヲ」


「こコヲ、ワレらのホシニ」


「ゲンせイ、シュ、マッサつ」


「すべテ、まっサツ」


「死」「死」「死」「死」



 8本の触手が、口々に言葉を垂れ流す。


 ノイズが酷く、内容も支離滅裂だが、間違いなく人語だ。

 恐らく、あの職員の知識を共有したんだろう。


 俺達は今、初めて、邪神本来の言葉を聞いている。




 にしても……『ガイちゅウ』。

 害虫ね。





「害虫はテメェらじゃボケえええぇぇぇぇっっ!!!」



 上段から切りつけた1本が、紫の血を撒き散らしのたうち回る。

 害虫に害虫扱いされて、拙者、ガチギレでござるよ。

 煽り耐性? 知らん。

 目の前にいるんだから殴ればいい。



 真面目な話、戦闘中はあまり怒りを抑えないようにしている。

 怒りも原動力の1つ。



 以前の俺は、使い方を間違えていた。

 腹の底に溜めて、ドロドロの憎悪にしてしまっていた。


 怒りは真っ赤に燃やし、速やかに爆発させるものだ。

 それは心に熱を与え、命の力となる。


 今の俺は、その力を御し、刃とする術を知っている。




 で、触手が変異してからの戦況だが……正直あまり芳しくない。



 繰り出す攻撃は、全て重い。

 巨大化した腕どころか、触手の一撃ですら床を叩き割る。


 マリエルの剛脚すら耐えた、ギルドの屋上の床をだ。

 腕の一撃は、もう俺でも正面からは受けられない。


 そして、奴の傷の治りも急激に早くなった。

 いま俺が切った傷も、もう殆ど塞がっている。

 この早さは巨大種以上。


 切断した4本が戻ったのは、変異に付随するものだと思いたかったが、この分だと、また切ってもすぐに生えてくるだろう。



 こうなるともう、あとは核を潰すしかない。


 さっきコイツが自分で1個食ったから、残りは6個。

 それを1つ残らず、しかも8本の触手と、4本の腕を掻い潜ってだ。


 それでも2つぐらいなら、マリエルの回復ありきでゴリ押しできるんだがな。



 瓦礫に埋もれた壁組には、もう期待できない。

 防御陣形が完成していて死者はゼロだったが、壁になった重戦士達の多くは深傷を負って戦線離脱。


 今は無事だった軽戦士達が、代わりに術師組を守っているのだが、残念ながら盾としては心許ない。

 攻撃が行く度に術師ごと吹き飛ばされ、援護射撃の密度は薄くなっている。


 もう彼等では、逃亡を抑えることはできないだろう。


 変異後の奴から逃げる気配がないのが、せめてもの救いか。

 どうも今の奴は、何としても俺達を皆殺しにしたいらしい。



「オナかッ! すイたっ!」


「ゼいジャクなッ、れットウしゅッ!」


「エサっ! エサっ! エサっ!」


「ヤットッ! タドりついタッ!」


「サムいっ! さムイほシノうミッ!」



 何が気に食わないのか、延々と呻き続けながら、触手も腕もメチャクチャに振り回してくる。

 その攻撃は苛烈だが……付け入る隙がないわけじゃない。



「1回突っ込むぞ! 援護よろしく!」


「オーケー!」


「任せろ!」



 ゾンビ顔の時は、左右に振る、波状攻撃、フェイント、死角狙い等々、触手攻撃は絡め手尽くしだった。

 だがこの状態になってからは、とにかく力任せだ。


 全力で振り抜くから隙が大きい――だから、こんなことだってできる。



「オオぉうオあアァアアァ」



 言ってるそばから繰り出された、巨大化させた腕の全力攻撃。

 これに体ごと飛び込む。


 直撃寸前で跳び上がり、床に叩きつけられ伸び切った腕に着地。

 そのまま3歩走ると、また別の腕が飛んできた。


 右斜め前に跳んで、今度はそちらに飛び移る。

 次は2歩走って、左から来る腕だ。



 一発一発戻しが遅いから、腕から腕に飛び移れるんだ。


 問題は、奇襲みたいなもんだから、何度もできるわけじゃないってことか。

 言ってることはよく分からんが、言葉を使うということは、知能は高い筈。

 2度目は、多分対応される。



 だがゾンビの時は、核を潰すと全体的に能力が落ちていた。

 手があるなら、早めに減らしておくべきだ。



「がっ! ちっ……ぐっ! ってえなぁっ!」



 尚、このやり方だと、触手の攻撃は完全には躱せない。

 こっちも全力ぶん回しなんだが、単純に数が多い。


 が、それも俺を止めるまでには至らない。



 ライルが強烈な水流を放ち、半分は軌道を逸らしているからだ。

 曰く、『重さを出すだけなら、水が最適』らしい。



 そして多少のダメージなら、即座にマリエルが治してくれる。

 これが我らグリフィス特務隊の、思考と技術を尽くした超高度な戦術。



 『力押し』だ。



 ……ウチの子達はみんな優秀なんだけど、根が脳筋なんだよ。



 本来はここにアルテラが入って、迎撃、回復を補間しながら牽制までするんだが、今はチビ共のお守りをしている。

 その分、ちょっとばかり時間はかかったが――入ったぞ、懐……!




「こ、こ、だぁぁぁっ!!」




 狙いは左肩。内側寄りの核。

 そこに、銀光を纏わせたアルマデウスを思い切り突き刺した。

 相棒代理の刃先がズブリと肉に食い込み、奴の体がビクンと震える――が、浅い。


 その刃は強固な肉の壁に阻まれ、核の表面を突くに留まった。

 やはり、アルマデウスではここが限界か。



 動きを取り戻した2本の腕と5本の触手が、俺を押し潰そうと八方から迫る。



 残念、ちょっと遅かったな。




「そおおおぉぉいっ!!」



 飛び込んでくるマリエルと交代で、俺は柄から手を離す。

 突き刺さったままの剣を、マリエルが飛び蹴りでもう一押し。



「ヴォおゥォォッ!!?」



 今度こその核を貫き、これで残り5つ。


 俺は即座に剣を引き抜き、まだ空中にいるマリエルを抱え後ろに飛ぶ。



 一瞬遅れて、腕と触手が殺到して― ―来ないっ!?



「「ライルっ!!」」


「ちぃっ!」



 予想していた反撃はなかった。魍魎は、出鱈目に腕と触手を振り回す。

 そして不味いことに、触手の8割がライルに向けて飛んでいった。



 流石にあの数はヤバい。迎撃できるのは精々2、3本だろう。


 俺やマリエルなら一発二発食らってもまだ動けるが、ライルはそこまで頑丈じゃ無い。

 仮に命があったとしても、戦線離脱は避けられない。


 迎撃しきれなかった触手が、暴風の様にライルに迫り――









 ――ブゥン。







 空気の、震える音がした。



 無数の赤い閃光が、ライルに迫る触手を取り囲む。

 数えることすら面倒になる、光の檻。

 それに触れた触手は、例外なく綺麗な断面を晒していった。




 そしてライルの前には、音もなく佇む小柄な人影……。





 血の色のボディスーツと、柄の両端から真っ赤な魔力光を放つ両刃剣。


 この化け物を前にして、恐怖も緊張も、戦意すらも感じさせない静寂な佇まい。



 その身に纏うは、月明かりでも鮮明に映る――





 ――深紅のフード付きマント。

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