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第15話 小さく、弱い、『勇気』ある者達

「こっちだ鳥野郎おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉっっっっっ!!!!!!!」





 やっちまった……!


 やっちまった、やっちまった、やっちまった!!



 あそこで大人しく寝てればよかったのに、何で俺は走ってるんだっ……!





「お前の手下共をぶっ殺した、勇者リーオスはここにいるぞおおおおぉぉぉぉっっっ!!!!!」





 でも、黙ってられなかった。


 俺のせいで大勢死んで、でも俺は何もできなくて、何とかできる奴らがいて。

 このまま蹲ってたら、生きてても、死んでしまうような気がしたんだ。




「この俺を見逃してみろっっ!!! またあの山に戻って、残った手下共を皆殺しにしてやるううううぅぅぅぅぅぅっっっっ!!!!!!」




 顔面は涙と鼻水でグシャグシャだ。


 ちくしょう、怖い。

 死にたくない、死にたくない、死にたくない!



 アイツらが何か罠を張ってるのは、見ててわかったんだ。

 多分、8箇所。



 そこに上手く嵌めて、後はひたすら逃げれば……。




『GRUUUAAAAAAAAA!!!!!!!!』


「ひいっ!?」




 天空王がこっちを向いた。


 その目は、さっきまでの静かな戦意に満ちたものではない。

 怒りで真っ赤に染まった、復讐者の目。



 もうダメだ、殺される!

 やっぱり、こんなことやめとけばよかったんだ!



 歯がガチガチ鳴って、体の震えもさっきから止まらない。

 いつの間にか、股の辺りが、生温い何かでグッショリと濡れている。



 逃げたい逃げたい逃げたい逃げろ逃げろ逃げろ逃げろっっ!!!



 ちくしょう、なんで足が止まらないんだっ!!




「あ、あぅ、あぐあぃ、ぃぅ」



 口から出ようとした言葉が、挑発なのか命乞いなのかもわからない。


 気付けば、強烈な怒気を纏った天空王が、眼前で爪を高く掲げていた。





 ――あ、死んだ。




「てぇぇぇぇぇぇぇぇいっっっっ!!!!!!」


「ごぶるっふぁっっ!!?」



 脇腹に走る衝撃、強烈な浮遊感。

 あと、何か物凄く柔らかい感触。



 振り下ろされた爪が、ゆっくりと視界の横に流れていく。

 真横から聞こえる爆音も、背中から大地に叩きつけられる衝撃も、まるで他人事のようだ。




「あたた……今日2回目よ……っ」




 腹の上辺りから、戦闘中にしては若干緊張感に欠ける声が聞こえた。

 ぼやけた頭で、声のする方に目を向けると――




「グレン君も貴方も……男の子って無茶しないと死ぬのっ!!?」






 ――女神が、いた。




 ◆◆




 浮かび上がった魔法陣から、無数の鎖が現れる。

 それらは蛇のようにうねりながら、天空王の全身に巻きついた。




 リーオスの野郎、やりやがったな……!



 自らを囮に天空王を誘い込んだリーオスは、上も下もグショグショの酷い有様だ。

 とち狂って聖剣ブン回していた男が、随分と『本物の』勇者らしい格好になったじゃないか。




 こいつがやらかしたことは消えはしない。

 名声に駆られ、仲間を犠牲にし、一国を危機に陥れ、多くの兵の命が失われた。


 この先リーオスが歩むのは、いつ終わるとも知れない償いの人生だ。

 一生コイツを許さない人もいるだろう。




 ……だが、今だけは賞賛しよう。

 途切れる筈だった『勝ち』を繋いだ、この男をな。




「よくやった……お前の覚悟は俺が繋ぐ。『蒼剣(そうけん)の勇者』」



 天空王の眼下に飛び込み、剣を構える。

 奴は枷を引き千切らんともがいていたが、俺に視線を向けると全身から力を抜いた。



 再び交わる視線。







『何故抗った、小さき者』





 頭の中に響く、中性的な声。

 俺は何故か驚きもせず、これが天空王の声だと受け入れた。




『お前達はあまりに小さい。我を前にすれば、その魂は死を受け入れることしか許さぬ筈』



 ――魂……か。そうだな、お前の言う通りだ。人間は小さく、どうしようもなく弱い。


 ――その身一つでお前の様なやつと向き合えば、立つことすらできないだろう。




『だが、お前達は抗った』




 ――俺達は欲張りで、諦めが悪いんだ。だから……積み上げるんだよ。




『積み上げる……』




 ――技を、道具を、人を、文明を積み上げ、届かない筈の『大きなもの』に挑むんだ。


 ――積み上げた全てを信じて、魂の『負け』を笑い飛ばす『抗う意志』。



 ――洒落た言い方をすると……。




 チラリと、マリエルに抱えられたリーオスを見る。





 ――『勇気』ってヤツよ……!



『………』





 俺の答えに、奴がどんな感情を抱いたかはわからない。

 天空王グリフエラーナは、ただ静かに目を閉じた。




 掲げた刃に、山吹色の光が集まる。



 これが第3プラン。

 ライルの光粒子(こうりゅうし)を、俺の雨土(あまつち)に纏わせての『擬似聖剣』だ。



 光は軌跡を描き、天空王の心臓目掛けて一直線に走り出す。



 そういや、抗う理由はまだあったな。


 大事な、一番大事なヤツが。






 ――俺が帰らないと、泣き止まない家族ガキがいるんだ。






 雨土が心臓を貫き、天空王が1度だけ体を震わせる。



 そして、決して大地に伏すことなく、光となって消えていった。

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