第13話 銀の魔人
不思議な感覚だ。
熱いようで冷たい……『魔人』の時に少し似ているが、あんな歪さはない。
心はこれ以上ない程に燃えたぎっているのに、頭は僅かな揺らぎもない水面のよう。
目の前に手をかざせば、燃えたぎる闘志を現すかのような銀の炎が揺らいでいる。
――生命波動。
心技体を鍛え抜いた者が至るという、生体魔法の境地。
暗黒魔術は、これが不完全な形で顕現したものだという。
にしても、この色……。
そういや『俺は俺になってやる』とか、息巻いてた頃もあったっけな。
ちくしょう、嬉しいじゃねーか。
先生……あんたと同じ銀色だっ……!
天空王は静かに俺を見つめている。
恐らくこの戦いが始まってから初めて、本当の意味で視線が交差した。
決して『同等』ではないが、『対等』に向き合える敵同士として。
奴が途中からずっと俺を狙ってたのは、これを予見していたからか?
「随分元気そうね……グレン君」
「おかげさまで」
「どの口が言うのかしら……痛っ」
マリエルさん、ふくれっ面である。
散々回復かけたのに動けなかった俺が、あっさり立ち上がってりゃ、そうもなるか。
自分はまだ、さっきの直撃のダメージを治療中だ。
「実際、半分はお前のお陰だよ、マリエル。残りは奴と一緒……1回こっきりの超速回復だ」
天空王は魔王化した時に、ダメージの大部分が修復された。
進化の余剰エネルギーとかなのか……とにかく俺の回復も、似たようなものだろう。
今、この瞬間、俺は人族から別の人種に進化した。
筋肉も、骨格も、血管も臓器も……生命波動を扱うに足る体に変化したんだ。
この感じは覚えがある。他でもない、レイ先生だ。
ずっと普通のノービスとは違うと思ってたけど、こうゆうことだったんだな。
「少しの間、奴を抑えてくる。その間に全員の回復頼む」
「人使いが荒いわね……ボロボロの女の子を労る気持ちはないのかしら?」
「はははっ……今回は怒らないんだな? 『また無茶なことを』って」
「無茶じゃないんでしょ? しょうがないっ! 貴方が生きてる間に、済ませてあげる♪」
いつもの軽口を残し、マリエルは後ろに下がった。
あぁ、今ならそう無茶なことでもない。
1人で突っ込むわけでもないしな……だろ?
「主人1人を戦わせる従者が、どこにいます。当然、お供させていただきます」
「元々俺が持ち込んだ案件だ。最後まで付き合ってやる!」
アルテラ、ライル……2人とも全身傷だらけだが、声に宿る力は失われていない。
先頭に俺、術者2人が少し後ろに控え、回復に専念するマリエルが最奥に下がる。
こちらの布陣が整うと、天空王も仕切り直しとばかりに、全身に力を込めた。
「グレン、お前のそれは生命波動だ! 魔力操作だけでは完成しない。方法は……」
「問題ねえ」
血流による力の循環と浸透、筋繊維の収縮による収束と発動、だろ?
ガキの頃から、予行練習だけは呆れる程やってるよ。
『大地に寄り添い、海に委ね、空と語らう。呼吸は世界と自分を繋ぐ全ての起点だ! 疲れた時こそ息を乱すな!』
毎日毎日、吸って吐いて吸って吐いて、構えて、剣振って、また吸って吐いて。
ちょっとでも乱れると、一からやり直しで……楽しかった。凄く、楽しかったんだ。
『いいぞ! 動いても姿勢が崩れなくなってきたな。次は空中でそれをやってみせろ!』
『マジでっ!?』
レイ先生……俺弱いから、きっと何度も振り返るよ。
でも最後はちゃんと前向くから、もうちょっとだけ、心配かけさせてくれ。
『全身を巡る力を感じ取れ! 血潮を伝い、指先まで満たし、そして……』
いつか必ず、その背中を追い越してみせるから……!
『心のままに解き放て!』
はいっ! 先生っ!!
――始伝・錬勁……!!
銀の炎は一瞬大きく燃え上がり、やがて収束、凝縮して全身を覆う光になった。
力が、闘志が、命が、全身にみなぎっていく。
呼応するように、四肢の筋肉を隆起させる天空王。
俺も両脚に力を込める。
大地を蹴るのは同時。
爆音を置き去りに、互いの距離が一瞬でゼロになる。
交差は無音。
すれ違い、背中合わせに停止した俺と天空王。
その間に、上空からクルクルと回りながら、何かが落下した。
大地に突き刺さったのは、白銀に輝く天空王の鉤爪。
再び交わる視線。
天空王の目には、怒りも驚愕もない。ただ戦意だけが滾っていた。
こちらも負けじと目に力を込める。
第3ラウンド……開幕だ。




