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第6話 勇者は危険物の日に捨ててください

 勇者リーオスの発見から捕獲。そして天空王の急接近。

 この数時間で、状況は目まぐるしく変わった。


 今も民の避難が急ピッチで行われているが、天空王到着までには良くて8割といったところか。

 セイン・バークレイとの交渉は予想通り失敗に終わったが、これでは結局間に合わなかったろう。




「あのガキ……儂の可愛いアリアを『物』扱いしおってからにっ……!」



 思い出すだけで怒りがこみ上げてくる。スクリーンを殴り付けなかった自分を褒めてやりたいくらいだ。

 話を打ち切ってやった時のアホヅラで、多少は溜飲も下がったが……。



「父上」


「アルトか」


「皆の避難の準備が整いました」



 長男のアルトは、公務について早5年。

 先日皇太子に任命し、儂の公務も幾つか任せている。


 今は城の者達の避難準備の指揮をとらせていたが、なかなか満足のいく手際だった。



「よろしい……これなら、いつ儂が退位しても問題はなさそうだな」


「父上……やはり、我々と共に避難しては下さらないのですか……?」



 アルトの表情に悲痛なものが混ざる。その顔、家族以外には見せるでないぞ?



「儂は皇王だ。全員の避難が間に合わぬ以上、彼らを置いて逃げるわけにはいかぬ」



 いざという時、我が身かわいさに民を見捨てる王に、本当の意味で付いてくる民はいない。

 儂には最後の1人が無事に出発するまで、彼らを見守る義務がある。


 因みに、皇妃もこれ付き合うそうだ。

 できればアルト達と共に避難して欲しかったが……そうゆう女性だ。

 儂が折れるしかない。



「ですが……父上にもしものことがあれば、アリアは自分を強く責めるでしょう」


「言うな……それに儂とて、娘可愛さに国を見捨てたわけではない。あの子も頭では理解しよう」



 セインの要求を拒否したのは、何もアリアのためだけではないのだ。



 ランドハウゼンの姫には、幼き頃から課せられる1つの公務がある。

 それは、市井に出向き民と触れ合うこと。

 そうすることで、姫は正しき心を育み、民は姫を愛する。


 民に愛された正しき姫は、やがて婿を取り、その婿が次代の皇王となる。


 自身は皇家と民の架け橋として公務に関わり、夫を支え、時に諫めながら、ランドハウゼンをよき未来へと導く。


 それが、ランドハウゼンが国として成った頃から続く伝統である。



 歴史を振り返れば、全ての皇王、皇妃が善良だったわけではないのは見てとれる。

 だが、それでもギリギリのラインで、皇家が善政を捨てたことはなかったのは、この伝統のおかげだと儂は思いたい。





 ……そう、何を隠そう儂は入婿だ。正統な皇家の血統は妻の方。

 アルトも『皇太子』に任命はしたが、実際に此奴が戴冠するのは、全ての娘が婿を取らなかった時だけ。


 なんなら皇王は政治のトップではあるが、最高権力だって皇妃の手の中だ。


 ランドハウゼンは、女系国家なのである。

 側室も、皇王ではなく皇妃の権利。


 姫を差し出すということは、即ち国を差し出すということ。

 そして民が愛した『ランドハウゼンの娘』を託すということになる。


 国の危機を逃れるためとはいえ、セインのような輩に与えるなど、あってはならないのだ。


 その様なことをすれば、例え首都が無事であろうと、人々の心の中のランドハウゼン皇国は失われてしまう。

 セインがアリアから拒絶された時点で、奴の望みが叶うことはなかったのだ。



「それに、そんなことは本当に『もしも』の話よ。儂は『彼ら』が勝つと見込んでおる」


「統合軍……グリフィス特務隊ですか」



 あの『グランディアの魔人』を隊長とした特殊部隊で、他に『撲殺兎』と、彼らと遜色なき闇人の魔術師、臨時だが『錬金術師』も所属する、勇者パーティも真っ青の超人集団だ。



「弱っていたところに4人がかりとはいえ、リーオス相手に無傷で秒殺だったらしいぞ」


「2名程、飛行中のブラックバードから飛び降りたとか……人間なのですか?」


「知らぬ」



 少なくとも、『常人』でないことは確かだ。


 特に隊長の『魔人』……グレン・グリフィス・アルザードは、あの『赤目(あかめ)のモーゼス』と互角に渡り合う、正真正銘の怪物だという。

 ならば総力としては、最強と言われた『鋼鉄の勇者』のパーティすら軽く凌ぐと見ていいだろう。


 天空王が話に聞いた程度の脅威なら、勝算は寧ろ高いと言える。



「まだ年端も行かぬ少年少女達に、背負わせるような物でもないのだがな……だが、藁をも掴みたくなる状況では、期待せざるを得まい」



 大人としては情けない限りだが……若者達よ、この国の命運、其方らに託させてもらうぞ。




 ◆◆




「速度を上げた天空王だが、どうやらこのブラックバードに向かっているらしい」



 ライルの言葉に、ブリッジは緊張に包まれた。

 同時に、全員の視線がある一点に集まる。


 そこには、全身を拘束具に固定された1人の青年。

 『蒼剣(そうけん)の勇者』リーオスの姿があった。



「こいつか」


「恐らくな。急な速度上昇は、ブラックバードの速さに刺激されたせいだろう」



 当のリーオスは未だ気絶中だ。

 みんな『呑気に寝てんじゃねーよ』とか思ってるに違いない。



「どどどどどどどどーするんですかっっっ!!?!?」


「すてよう」



 パニックを起こすリリエラに、大胆な解決策を提示するクラリス。



「名案だ。このままガルデニア聖教国まで飛んで、教会の中庭に投棄しよう」


「そのまま世界大戦待った無しね」



 『勇者ごと教会に返却作戦』はダメらしい。

 いい案だと思ったのに。



「じゃあ仕方ない、予定通りオリアナ平原で迎え撃つ。皇都でクラリス達を降ろしてる時間はない。先に戦場に向かうぞ。進路をオリアナ平原へ!」


「「「アイ・サー!」」」



「状況は切迫しているが、リーオスで天空王の進路をコントロールできることもわかった。少なくとも、全部スルーしていきなり皇都が襲われることはない。平原の部隊に合流して、天空王を迎え撃つ!」



 マリエル、アルテラ、ライル……戦闘メンバーは気合十分の視線だ。先程のリーオスの捕獲で体も温まった。

 目指すオリアナ平原は目と鼻の先。迎撃部隊との合流も間も無くだ。



「ご主人様……」



 前方の景色眺めていると、アルテラが珍しく神妙な面持ちで話しかけてきた。



「どうした、体調でも悪いのか? 座薬やるか?」


「はぅんっ! み、魅力的なお誘いなのですが…んっ! 体調はっ、万全ですっ」



 モジモジと尻を振りながら答える。確かに元気そうである。

 アルテラは、気分を落ち着ける様に1度深呼吸をして、今度は強い視線で俺を見据えた。




「私はあの日、貴方に救われました。心も、体も、大切な妹も……今ここに私達があるのは、全て貴方のおかげです」



「……………」



「貴方の心中に渦巻く思いが何であろうと、あの日どんな思いで『自分を頼れ』と言って下さったのだとしても、それは変わりません。

 もしご自身の在り方に思うところがあるのならば、私を見てください。貴方が救った女は、是が非でも幸福に生きて、あの日の貴方の行いを賛美し続けます」



 そう言って、アルテラは笑った。彼女が時たま見せる、優しい表情で。



「……リリエラから何か聞いたか?」


「さて? 私は敬愛する主人に、私の思いを伝えただけです」



 何が『敬愛する主人』だ。手のかかる弟を見るような目をしやがって。



「こいつ……まぁいい、ありがとな」


「はい!」



 にしても、コイツといいライルといい……自覚はあったが、やはり俺は随分と危なっかしく見えるようだ。

 こりゃ、そのうちマリエルからも、2度目のお小言がありそうだな。




 アルテラと話している間にも見る見る内に景色は流れ、とうとう目的地が見えて来た。



 広大な平原に展開する、凡そ1万6,000の迎撃部隊。

 内9,000は、統合軍外縁部隊とも互角と言われるランドハウゼンの精鋭。

 7,000の帝国兵も、魔導先進国の名に恥じない強力な武装に身を包んでいる。



 ランドハウゼンの戦時最大動員数は4万程だった筈だが、国境警備やリーオス捜索にも兵を割いたろうし、何より対魔王戦で中途半端な力量の兵を揃えても、いたずらに死体が増えるだけだ。

 この数は、よく揃えた方だろう。



 そして迎撃部隊の更に先、北の空に浮かぶ大きな影――




「『天空王』……!!」



 正に間一髪。


 我々と相対する様に、『天空王』グリフエラーナがオリアナ平原に姿を現した。

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