第4話 蒼剣の勇者捕獲作戦
ランドハウゼン皇国。
人口は400万人程で、軍事、技術、経済全て優秀な、三大国に次ぐ強国だ。
大陸南西部に位置し、北東はノイングラート帝国、南西はウィスタリカ協商国と隣接。
そして中心にはその2国を繋ぐ、国を股にかけた縦断列車が走っており、両国の交易の要となると共に自国の経済も潤している。
両国とはもちろん同盟関係だ。
国力や縦断列車の重要性から、ランドハウゼン皇王は帝国内で皇帝に継ぐ影響力を持つ、なんて噂もある。
実際今回の戦いでも、帝国は皇国の危機に対して、1日足らずで7,000もの兵を派遣した。
更に皇国民の一時受け入れや、復興支援も約束しているという。
ブラックバードはそんなランドハウゼン皇国の皇都を通り過ぎ、目的地が近付くにつれ高度を落としていった。
窓の外の景色の流れが、徐々に速くなっていく。
眼下を一瞬で通り過ぎたのは、40~50人程の兵隊と、その中心でアホ面を晒す青い剣を持った男。
ブリーフィングから40分、我々グリフィス特務隊は、リーオスの捕獲現場に到着した。
思ったより倒れている兵士が多い。包囲網が崩されるのも時間の問題か。
「旋回して低空飛行だ! このまま飛び降りる!」
「ちょっ!? グレン様マジですかっ!?」
いや、だって近くに着地できそうな場所ないし。
焦ったリーオスが暴れる前に片付けたい。
「相変わらず無茶するわねぇ……仕方ない、私も付き合うわ」
マリエルと共に緊急脱出用の出口に向かう。
文句を言ってはいるが、目が笑ってるぞ。
「私は流石にご一緒できませんが、お手伝い致します。ライル、牽制を頼めますか?」
「任せろ。足止めと陽動でいいんだろう?」
アルテラが祝槍を手に、ライルが左手にガントレットを付け、俺達の後に付いてくる。
「ロール角15°で左から接近しろ。障壁用の霊子力は前方に集中。展開のタイミングはロゼッタに任せる」
「「「アイ・サー!」」」
ライルの指示に、船のスタッフ達が威勢よく応える。
リリエラとクラリスも、慌ててシートベルトを締めた。
船体を傾け急降下するブラックバードに、リーオスが何事かを喚きながら数本の水槍を打ち出す。
「障壁準備……2、1、展開!」
これに対しブラックバードは、前方に集中した霊子力を動力に、ジャストのタイミングで多層障壁を展開。
水の槍も強烈な貫通力を見せたが、半分ほど突破されたところで防ぎ切った。
勇者は聖鎧から、過去の勇者の技能の一部を継承する。
だがそれは、剣術と基礎的な魔術技能、そして光属性魔術のみ。
この強力な水の魔術は、9割がたリーオス自身の力で行使されたものだ。
才能と聖鎧の技能に奢らず、研鑽を重ねた者だけが備える、一種の『鋭さ』を秘めた術撃。
こんなことを仕出かさなければ、セインなどいずれ抜き返せただろうに。
だが、お前は道を誤った。
ただ自身の立場のために仲間を犠牲にし、『力無き民』を巻き込んだ。
手心は一切なし。全力で切り伏せる。
リーオスは第2波を撃とうと魔力を高めるが、既にライルの錬金術の構成が出来上がっている。
「水槍が8本か……では、倍を返してやろう!」
その声と共に、ライルのガントレットが展開。
一瞬でいくつもの術式が虚空に映し出され、直後に16本の氷の槍が現れた。
錬金術は、1発撃つだけで膨大な知識と集中力を必要とする『ノービスの魔術』。
本来戦闘には向かないそれを、ライルは何事もなく使いこなす。
更に、ガントレットによる補助術式で拡張し、魔術を超える武器にまで昇華させたのだ。
『錬金術は魔導から生まれた技術。ならば、術の構成と術式が融合できるのは当然だ』
と、ライルは言っていた。
……言っておくが、机上の空論もいいとこだ。
紙に書いた歯抜けの図面に、脳内で描いた修正案を寸分違わずに重ねる様なもの、と言えばわかるだろうか?
普通なら、間違っても実現できるものじゃない。
そんな変態技術で生み出された氷の槍は、様々な軌道でリーオスに襲いかかる。
リーオスは即座に魔術の規模を下げ、3本の水槍を生み出して迎撃。
残りを蒼剣で弾いていく。
見事な対応だが、それでも奴は足を止めてしまった。
俺達を運ぶのは、世界最速のブラックバード。
リーオスが全ての氷槍を打ち落とした時には、既にアルテラの射程内に入っていた。
氷槍に紛れて投擲した祝槍は、奴の足元に突き刺さり、静かに発光する。
「飛びなさい」
リーオスが慌てて視線を下に移すが、時すでに遅し。
足元から突き出た土柱に、奴は天高く打ち上げられた。
通常、魔術の遠隔発動は2~3mが限度だが、アルテラの『樹晶石の祝槍』はそれを大幅に延長させる。
祝槍の切っ先の宝石、天を貫く大樹『リーンアーク』の枝の結晶が、その秘密。
アルテラの魔力が樹々に、大地に、星に伝わり、その魔力とアルテラ自身がリンクし、長距離遠隔発動を可能にするのだ。
打ち上がったリーオスに、俺とマリエルが飛びかかる。
「どこを潰してあげようかしらっ!?」
「真っ赤な花火になれや!!」
ブラックバードの速度で打ち出された俺達は、超高速で空を駆け、奴に全力の一撃を叩き込んだ。
「がはぁっっ!!!」
腹と胸への強打にリーオスは白目を剥くが、俺とマリエルは止まらない。
トドメとばかりに、奴を地面に向けて弾き飛ばす。
「ぼっ! ばっ! ぷべらっ!?」
大地に叩きつけられ、手足をあらぬ方向に曲げながら転がるリーオス。
いかに勇者と言えど、我らグリフィス特務隊withライルの手にかかればこんなもんよ。
ズタボロのリーオスの手前1mのところに、俺とマリエルは轟音と共に着地した。
「任務完了……マリエル、こいつ死んでないよな?」
「辛うじて、ね」
現着僅か15秒。
『蒼剣の勇者』リーオス、速やかに鎮圧完了。
さっさとふん縛って、平原にポイしたいところなんだが……。
「怪我人、直していきましょうか。重傷の人もいるみたいだし」
「だな、話つけるか……統合軍グリフィス特務隊隊長、グレン・グリフィス・アルザード中尉だ! ここの責任者はっ!?」
「は、はいっ! 私です!」
部隊の端まで届くように大声を張り上げると、1人の女性騎士が慌てた様子で飛び出してきた。
「ランドハウゼン皇国ロイヤルガード、第二皇女付き、メロネ・ピステリアです! ご協力、感謝致します!」
第二皇女。件のセインから身売り要求をされた、アリア姫の親衛隊か。
メロネに話を通し、マリエルは負傷者の治療を始め、無事な兵士達がリーオスを拘束する。
やがてブラックバードが戻ってくると、周囲は感嘆に包まれた。
「これが……ブラッバード……!」
「唯一、大陸の外を飛んだと言う……!」
主に男性の兵士から大人気である。
気持ちはわかるぞ兵士諸君。だが、乗ったら漏れなく平原行きだからな。
ブラッバードが上空で停止すると、俺達が飛び降りた非常口からタラップが降りてくる。
治療を終えたマリエルが乗り込み、次に拘束の済んだリーオスを受け取った俺が足をかける。
「グレン殿!」
巻き取りの合図をする直前、必死の表情のメロネから声をかけられた。
「私は……皇国の騎士である前に、アリア殿下の幸せを、何よりも願っております。勇者セインの恥知らずな要求は、私にとっては決して許すことのできないものでした。
その魔の手から姫様を守ることができたのは、エインダールすら超えると言われる、中尉の雷名あってのこと。
ですが姫様は、交渉の決裂に御心を酷く痛めております。『自分一人のために、民に犠牲を強いることになるのではないか』と……」
王族皇族は色々いる。
民に寄り添うタイプ、私服を肥やすタイプ、善良だが無能な者、悪辣だが国は豊かにする者。
アリア姫は……少なくとも、仕える者達は幸せにできる人間なんだろう。
「通信越しで見た姫様のお顔は、罪悪感と葛藤に満ちておられました……。どうか、お願い致しますっ! 天空王を打ち倒し、国民と、姫様の御心をお救い下さいっ!!」
……強く、そして重い視線だ。
自分の力が足りないことを理解し、最も大切な少女の幸せを他人に託すしかない、強い痛みを抱えた視線。
『魔人』と呼ばれ出した頃から、幾度となく向けられた、切実な願いを込めた視線。
そして……。
「任せてもらおう。元々そのつもりでここに来たんだ。貴女の姫様にも『心配するな』と伝えてくれ」
「……っ! 感謝……致しますっ……!」
メロネは震える声でそう言うと、深々と頭を下げた。
――そして俺は、この『願い』のために身を賭している間、強い安心感を感じるのだ。




