表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
50/149

第4話 蒼剣の勇者捕獲作戦

 ランドハウゼン皇国。

 人口は400万人程で、軍事、技術、経済全て優秀な、三大国に次ぐ強国だ。


 大陸南西部に位置し、北東はノイングラート帝国、南西はウィスタリカ協商国と隣接。

 そして中心にはその2国を繋ぐ、国を股にかけた縦断列車が走っており、両国の交易の要となると共に自国の経済も潤している。


 両国とはもちろん同盟関係だ。

 国力や縦断列車の重要性から、ランドハウゼン皇王は帝国内で皇帝に継ぐ影響力を持つ、なんて噂もある。


 実際今回の戦いでも、帝国は皇国の危機に対して、1日足らずで7,000もの兵を派遣した。

 更に皇国民の一時受け入れや、復興支援も約束しているという。



 ブラックバードはそんなランドハウゼン皇国の皇都を通り過ぎ、目的地が近付くにつれ高度を落としていった。

 窓の外の景色の流れが、徐々に速くなっていく。


 眼下を一瞬で通り過ぎたのは、40~50人程の兵隊と、その中心でアホ面を晒す青い剣を持った男。


 ブリーフィングから40分、我々グリフィス特務隊は、リーオスの捕獲現場に到着した。



 思ったより倒れている兵士が多い。包囲網が崩されるのも時間の問題か。



「旋回して低空飛行だ! このまま飛び降りる!」


「ちょっ!? グレン様マジですかっ!?」



 いや、だって近くに着地できそうな場所ないし。

 焦ったリーオスが暴れる前に片付けたい。



「相変わらず無茶するわねぇ……仕方ない、私も付き合うわ」



 マリエルと共に緊急脱出用の出口に向かう。

 文句を言ってはいるが、目が笑ってるぞ。



「私は流石にご一緒できませんが、お手伝い致します。ライル、牽制を頼めますか?」


「任せろ。足止めと陽動でいいんだろう?」



 アルテラが祝槍を手に、ライルが左手にガントレットを付け、俺達の後に付いてくる。



「ロール角15°で左から接近しろ。障壁用の霊子力は前方に集中。展開のタイミングはロゼッタに任せる」


「「「アイ・サー!」」」



 ライルの指示に、船のスタッフ達が威勢よく応える。

 リリエラとクラリスも、慌ててシートベルトを締めた。



 船体を傾け急降下するブラックバードに、リーオスが何事かを喚きながら数本の水槍を打ち出す。



「障壁準備……2、1、展開!」



 これに対しブラックバードは、前方に集中した霊子力を動力に、ジャストのタイミングで多層障壁を展開。

 水の槍も強烈な貫通力を見せたが、半分ほど突破されたところで防ぎ切った。


 勇者は聖鎧から、過去の勇者の技能の一部を継承する。

 だがそれは、剣術と基礎的な魔術技能、そして光属性魔術のみ。


 この強力な水の魔術は、9割がたリーオス自身の力で行使されたものだ。

 才能と聖鎧の技能に奢らず、研鑽を重ねた者だけが備える、一種の『鋭さ』を秘めた術撃。

 こんなことを仕出かさなければ、セインなどいずれ抜き返せただろうに。




 だが、お前は道を誤った。


 ただ自身の立場のために仲間を犠牲にし、『力無き民』を巻き込んだ。

 手心は一切なし。全力で切り伏せる。



 リーオスは第2波を撃とうと魔力を高めるが、既にライルの錬金術の構成が出来上がっている。



「水槍が8本か……では、倍を返してやろう!」



 その声と共に、ライルのガントレットが展開。

 一瞬でいくつもの術式が虚空に映し出され、直後に16本の氷の槍が現れた。



 錬金術は、1発撃つだけで膨大な知識と集中力を必要とする『ノービスの魔術』。

 本来戦闘には向かないそれを、ライルは何事もなく使いこなす。


 更に、ガントレットによる補助術式で拡張し、魔術を超える武器にまで昇華させたのだ。




『錬金術は魔導から生まれた技術。ならば、術の構成と術式が融合できるのは当然だ』



 と、ライルは言っていた。



 ……言っておくが、机上の空論もいいとこだ。

 紙に書いた歯抜けの図面に、脳内で描いた修正案を寸分違わずに重ねる様なもの、と言えばわかるだろうか?

 普通なら、間違っても実現できるものじゃない。


 そんな変態技術で生み出された氷の槍は、様々な軌道でリーオスに襲いかかる。


 リーオスは即座に魔術の規模を下げ、3本の水槍を生み出して迎撃。

 残りを蒼剣で弾いていく。


 見事な対応だが、それでも奴は足を止めてしまった。



 俺達を運ぶのは、世界最速のブラックバード。

 リーオスが全ての氷槍を打ち落とした時には、既にアルテラの射程内に入っていた。


 氷槍に紛れて投擲した祝槍は、奴の足元に突き刺さり、静かに発光する。



「飛びなさい」



 リーオスが慌てて視線を下に移すが、時すでに遅し。

 足元から突き出た土柱に、奴は天高く打ち上げられた。



 通常、魔術の遠隔発動は2~3mが限度だが、アルテラの『樹晶石(じゅしょうせき)祝槍(しゅくそう)』はそれを大幅に延長させる。

 祝槍の切っ先の宝石、天を貫く大樹『リーンアーク』の枝の結晶が、その秘密。


 アルテラの魔力が樹々に、大地に、星に伝わり、その魔力とアルテラ自身がリンクし、長距離遠隔発動を可能にするのだ。



 打ち上がったリーオスに、俺とマリエルが飛びかかる。



「どこを潰してあげようかしらっ!?」


「真っ赤な花火になれや!!」



 ブラックバードの速度で打ち出された俺達は、超高速で空を駆け、奴に全力の一撃を叩き込んだ。



「がはぁっっ!!!」



 腹と胸への強打にリーオスは白目を剥くが、俺とマリエルは止まらない。

 トドメとばかりに、奴を地面に向けて弾き飛ばす。



「ぼっ! ばっ! ぷべらっ!?」



 大地に叩きつけられ、手足をあらぬ方向に曲げながら転がるリーオス。

 いかに勇者と言えど、我らグリフィス特務隊withライルの手にかかればこんなもんよ。


 ズタボロのリーオスの手前1mのところに、俺とマリエルは轟音と共に着地した。



「任務完了……マリエル、こいつ死んでないよな?」


「辛うじて、ね」



 現着僅か15秒。

 『蒼剣の勇者』リーオス、速やかに鎮圧完了。



 さっさとふん縛って、平原にポイしたいところなんだが……。



「怪我人、直していきましょうか。重傷の人もいるみたいだし」


「だな、話つけるか……統合軍グリフィス特務隊隊長、グレン・グリフィス・アルザード中尉だ! ここの責任者はっ!?」



「は、はいっ! 私です!」



 部隊の端まで届くように大声を張り上げると、1人の女性騎士が慌てた様子で飛び出してきた。



「ランドハウゼン皇国ロイヤルガード、第二皇女付き、メロネ・ピステリアです! ご協力、感謝致します!」



 第二皇女。件のセインから身売り要求をされた、アリア姫の親衛隊か。


 メロネに話を通し、マリエルは負傷者の治療を始め、無事な兵士達がリーオスを拘束する。

 やがてブラックバードが戻ってくると、周囲は感嘆に包まれた。



「これが……ブラッバード……!」


「唯一、大陸の外を飛んだと言う……!」



 主に男性の兵士から大人気である。

 気持ちはわかるぞ兵士諸君。だが、乗ったら漏れなく平原行きだからな。


 ブラッバードが上空で停止すると、俺達が飛び降りた非常口からタラップが降りてくる。

 治療を終えたマリエルが乗り込み、次に拘束の済んだリーオスを受け取った俺が足をかける。




「グレン殿!」



 巻き取りの合図をする直前、必死の表情のメロネから声をかけられた。



「私は……皇国の騎士である前に、アリア殿下の幸せを、何よりも願っております。勇者セインの恥知らずな要求は、私にとっては決して許すことのできないものでした。

 その魔の手から姫様を守ることができたのは、エインダールすら超えると言われる、中尉の雷名あってのこと。

 ですが姫様は、交渉の決裂に御心を酷く痛めております。『自分一人のために、民に犠牲を強いることになるのではないか』と……」



 王族皇族は色々いる。

 民に寄り添うタイプ、私服を肥やすタイプ、善良だが無能な者、悪辣だが国は豊かにする者。

 アリア姫は……少なくとも、仕える者達は幸せにできる人間なんだろう。



「通信越しで見た姫様のお顔は、罪悪感と葛藤に満ちておられました……。どうか、お願い致しますっ! 天空王を打ち倒し、国民と、姫様の御心をお救い下さいっ!!」




 ……強く、そして重い視線だ。


 自分の力が足りないことを理解し、最も大切な少女の幸せを他人に託すしかない、強い痛みを抱えた視線。


 『魔人』と呼ばれ出した頃から、幾度となく向けられた、切実な願いを込めた視線。



 そして……。




「任せてもらおう。元々そのつもりでここに来たんだ。貴女の姫様にも『心配するな』と伝えてくれ」


「……っ! 感謝……致しますっ……!」



 メロネは震える声でそう言うと、深々と頭を下げた。





 ――そして俺は、この『願い』のために身を賭している間、強い安心感を感じるのだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ