表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/149

第5話 医療術師ファリナ・コールベル少尉の孤独な戦い

 皆さん、こんにちは。

 ここからは私、ファリナ・コールベルがお送りします。


 おっさんの独り言よりは楽しいと思うんで、聞いていって下さい。



 昨夜はもう最悪でした。

 夜中にトイレに起きたら、剣持って徘徊してるダンケルク中尉と遭遇したんです。

 森の館を彷徨く怪人のようでした。




 ちょっと、漏れました。



 そんな私は今、昨夜とは違った意味で、乙女の尊厳の危機を迎えています。

 まぁ、経緯を聞いていってくださ……うぶっ……聞いていって下さいよ。


 気を紛らわしたいんです。



 ダンケルク中尉の見回りの結果、我が隊は誰一人欠けることなく戦場に到着。

 目の前から迫る邪神の群れは、それはもう壮観でした。


 小型300体かと思ったら、大型が30~40体混ざってるんです。

 みんな『あー、これは死んだなー』って思った筈です。




 グレン中尉以外は。



 中尉は肩をコキコキ鳴らして、『私は自分の仕事をします。生き残りが出ても恨まないで下さいよ』とか言って飛び出しました。


 中尉頑張れ! 超頑張れ! 私が死ぬ前に全部倒してっ!



 でもまぁ、そう上手くはいきませんね。

 中尉が突っ込んだところはバンバン邪神が死んでくんですけど、他はバンバンウチの兵士が死んでいきます。


 仕方ありません。ウジムシですらないミジンコ共ですから。

 彼ら、多分私より喧嘩弱いです。


 前に私の胸を見て『ウケルww』とか言った奴は、本気でぶっ飛ばしてやろうかと思いました。



 ああ、話がそれましたね。


 どんどん悲鳴が減って、邪神も近くなってきたあたりで……帰ってきたんです、グレン中尉。



 やっばいですよ。

 全身邪神の返り血で、ドロドロ紫男状態。


 そしたら、そのドロドロさんとダンケルク中尉が一言交わすわけです。



『いいですね?』


『頼む』



 何を?



 って思ったら、ドロドロ魔人が襲いかかってくるじゃないですか。



『ひいいいいいいいっっ!!?』



 悲鳴も出ますよ。

 怖いし、ばっちぃですもん。


 でもドロドロ改めグレン中尉は、そんなのお構いなし。

 私の体にベチャベチャと邪神の返り血付けながら、縄で縛り上げてきたんです。



『こ、こんな時にっ! 何をするつもりですかっ!?』



 戦場で、邪神の返り血をねっちょりつけた緊縛プレイ。


 ウルトラマニアックです。


 過酷な戦場での生活は、少年の性癖をここまで歪めてしまうものなのでしょうか。

 哀しいことですが、今は先ず私の貞操を守らねばなりません。



『だめです中尉! いくら私が美少女とはいえ、こんな状況で無理やり――』


『死にたくなきゃ口閉じろ。縮こまれ。吐くな。後、俺は胸と尻が大きい女が好みだ』



 クソガキがっ!!


 どうやら私に欲情したわけでも、マニアックなプレイに及ぼうとしたわけでもなかったようです。

 中尉は私を背負い、そのまま邪神の群れの真っ只中に飛び込みました。



『おんぎゃああああああああああああああああっっっ!!!!』





 今ここです。



 中尉は私を背負ったまま、邪神を殺して回りました。

 目を爛々と輝かせて、口元もなんかニヤッとさせながら。

 怖いです。昨夜の怪人ダンケルクとどっこいです。


 まぁ、自分の顔面も紫色に染まった辺りで、私も慣れてきました。

 ですがそうすると、次の問題が襲ってきたのです。



 中尉の動きはもう完全に人間離れしていて、右へ左へ、上へ下への大暴れです。

 するとですね、私の内臓も、右へ左へ、上へ下へとシェイクされるわけです。


 そのせいで、今私は、胸の奥から込み上げる熱いパッション的な何かを、乙女チックエクスプロージョンさせそうになっているわけです。




 簡潔に言うと、ゲロ吐きそう。


 でも、吐きません、吐けません。



『死にたくなきゃ口閉じろ。縮こまれ。吐くな』



 吐いたら殺されます。

 たかが嘔吐一回に、私の命がかかっているんです。


 絶対に吐くわけにはいきませ――



「んもむぅっっ!!?」



 いきなりバックステップしないで!



 動きに前後の急加速も加わり、難易度がルナティックに上がりました。


 でも、吐きません、勝つまでは。

 あ、ごめんなさい、やっぱり無理。



「うむぅぅっ! おむぉぉぉっ!!」


「おい吐くなよっ!? 絶っっ対に吐くなよっ!?」



 ノリノリで邪神を倒していた中尉が、正気に戻りました。

 顔面は真っ青。戦慄の表情です。


 全身邪神の返り血と臓物だらけのくせに、私の吐瀉物は嫌だとでも言うのでしょうか。

 失礼です。


 私は確かにチンチクリンですが、顔つきは可愛いとよく言われます。

 むしろご褒美の筈です。


 あ、ヤバい、きた。


 どうやらお別れの様です。

 お父さん、お母さん、先立つ不幸をお許しください。


 みなさん、ここまでお付き合いいただきありが――あ。







「オヴェェエェェボロロラロロラロオロロロロロボロボボボボロロボロロロロッッッ!!!!!」


「おわああああああああああああぁぁああぁぁあぁぁっっっ!!?!? ゲロがっっ!!? ゲロがあああああぁぁぁぁああぁっっ!!!」



 グレン中尉の、今日イチの悲鳴が戦場に響きました。




 失礼です。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ