第3話 グレン隊☆長
真っ暗な空間を、幾筋もの光の帯が照らす。
不思議な場所だ。
来たことはない筈なのに、ずっと前から知ってるような。
魂に刻まれているような、そんな感覚だ。
『っ!?』
そんな空間の一角に、闇が、あった。
とてつもなく巨大な闇。
大きさすら測れないほどに巨大なそれは、何本もの光の帯に囚われ、動きを封じられていた。
いや……よく見ると帯と帯の隙間から、自身も黒い光の帯を外に伸ばしている。
その動きはウネウネと気味悪く、まるで邪神の触手のようだ。
黒い帯の行先を見ると、その先端にはまた、別の光の塊があった。
人の形をしている。
黒と白、他にも何色もの光が混ざり合った、歪なヒトガタ。
だが、俺は何故か、その光に安らぎを感じていた。
俺の視線に気付いたのか、ヒトガタが僅かに蠢く。
動く度に手足が伸び、指が生え、より人間に近い形になっていく。
そして完全に人の姿になると、ヒトガタは目が眩む様な、強い光を放った。
最後に見えた姿……あれは――
――クラ……リス……?
◆◆
「では、ブリーフィングを始める」
……うむ、思っていたより気持ちいい。
なんかこう『隊☆長』って感じがする。
ランドハウゼン到着まであと僅か。
現地での行動を確認するため、我らグリフィス特務隊は、ブリッジでのブリーフィングを行うことになった。
ブリーフィングは、作戦前の部隊にとっては恒例行事だ。
だが我々グリフィス特務隊にとっては、何と初ブリーフィングである。
何せ人数が少ない上に、基本的に自由行動。
部隊内では常に会話があり、情報共有も十分。
実働要員のマリエルとアルテラは優秀と、ブリーフィングが必要な状況が訪れなかったのだ。
俺も隊長を任されて、これで4ヶ月になる。
1度は言ってみたかったこの台詞。
口にするのは、やはり感慨深いものがある。
「凡そ45分後に、我々はランドハウゼン皇国に到着する。今回の標的は『天空王』グリフエラーナ。各人、緊張感を持って今後の動きを把握してほしい」
体調も万全だ。
妙な夢は見たが、クラリスのお陰か寝覚は非常に良かった。
因みに、手は手汗に負けて30分で離したらしい。
ホントにクラリスのお陰か?
「ではライル。詳しい説明を頼む」
……だって仕方ないじゃない。
この船のスタッフ、みんなライルの部下だから、連絡コイツに集まるんだもん。
精一杯キリッとした顔を保つ俺に、ライルは苦笑いを浮かべながら前に出た。
おのれ。
「1時間ほど前、ランドハウゼン皇国の観測隊が、アウストラ山脈上空に天空王が飛び立つのを確認した」
「天空王は、そのままランドハウゼン皇国に向けて移動を開始。飛行速度から計算して、凡そ3時間後には皇都に到着するだろう」
「皇国軍と駐屯していた帝国軍、及び傭兵部隊は、オリアナ平原に展開しこれを迎え撃つ構えだ」
オリアナ平原は、皇都の目と鼻の先にある大平原だ。
本来なら部隊展開はもっと先で行うべきなのだが、空を行く天空王のルートは自由自在。
彼らを素通りして、皇都を襲う可能性もある。
あまり皇都から離れるわけにはいかないのだ。
「また、皇国は『光の勇者』セイン・バークレイにも協力を要請したが……決裂したようだ。どうも、見返りに第二皇女を『ハーレム』に差し出せと言ってきたらしい」
ランドハウゼンの第二皇女……アリア姫か。
闇精霊と猫獣人のハーフで、俺やライルとも同い年。
まだ学生だが、かなり優秀だって話だ。
そして見たことはないが、メチャクチャ可愛いらしい。
確かに、奴が欲しがりそうな娘だ。
「詳細はわからんが、とにかく皇王はその話を蹴った。まぁ、リーオスのパーティが負けてるからな。パーティ単位では格下のセイン達は、精々予備戦力扱いだ。
奴にスタンドプレーに走られると、逆にやりづらくなる。こちらとしても特に問題はない」
フハハッ、セインざまぁ。
そういやセインも、アリア姫と同じ帝国の学園生だったはずだ。
こんな要求をしてくるってことは……奴め、直接行ってフラれたな?
ざまぁっっ!!!
「何にせよ、これで俺とお前たち、グリフィス特務隊が、今回の主力になることが決まった………が、本隊に合流する前に1つやることがある。
先程、『蒼剣の勇者』リーオスが見つかった」
元凶の名前にざわっとなる艦内。
皆、視線でライルに次の言葉を促す。
「見つかったのは、案の定ランドハウゼンの近郊だ。奴め、のこのこと街道を歩いてきたらしい。
既にボロボロで衰弱も激しいが、腐っても勇者だ。発見した小隊だけでは、抑え込むので精一杯のようだ。
天空王の標的はリーオスでほぼ間違いない。我々は先ず、彼らの応援に向かいリーオスを捕獲する。奴をふん縛って、平原のど真ん中に放り出してやる」
ギラリ、とライルの目が光る。
マリエルは指をポキポキと鳴らし、アルテラは槍の先端を冷たい視線で眺め出した。
みんな、やる気満々で何よりだ。
ちょっと殺る気も迸ってる気がするんだけど、生け捕りだからな?
まったく、仕方のない奴らだ。
ほら、リリエラから『ひっ』て小さな悲鳴聞こえたし。
「グレン様……快楽殺人者みたいな顔してます」
俺だった。




