第2話 いざ決戦の地へ
どうも、レーゼちゃんだよ。おひさ。
……覚えてる?
ヤムリスクでおっきな邪神が出た時に、クラリンおんぶしてた女の子だよ。
……思い出した?
あの邪神、触手いっぱいでキモかったよね。
今は辺境のビッグザーガ王国に来てます。
国はスモールだけど、名前はビッグ。
夢があっていいよね。
ホントはグレン達と行きたかったんだけど、軍の人に見付かっちゃった。
私は別のお仕事があるんだって。
無念。
で、今は心の傷を癒すため、食べ歩き中……仕事? これからだよ。
ご飯が先。
もぐもぐ……たこ焼き美味しい。
ビッグザーガは『食い倒れの国』って言われてるんだって。
まさに人類の至宝。
統合軍は、もっと気合を入れて守るべきだと思う。
あ、お好み焼き……いただきます。
ちなみに今日の私の観光スタイルは……じゃじゃん。
真っ白ワンピースお嬢様スタイル。
似合う? ドヤァ。
あ、てっちり……これは、逃げるわけにはいくまい、いざっ。
「ルインレーゼ様っ!!」
……てっちり食べながらでいい?
◆◆
ダメでした。
軍の屯所に連行された私は、てっちりと離れ離れ。
絶対、また会いに行くからね。
で、なんか偉い人が言うには、天空王が暴れ出したんだって。
だから、私にやっつけに行ってほしいみたい。
「パス」
「え?」
「パス」
お腹減って機嫌悪いからじゃないよ?
ここからランドハウゼンに行っても、間に合わないし。
瓦礫になった国の真ん中で『レーゼちゃん参上。きりっ』
……大事故だよね。私、スベるのやだよ。
あと、天空王ばっかり気にしてるけど、ビッグザーガもピンチなんだよ?
もう避難も間に合わないって距離に、なんと邪神1万体。
私が頑張らないと、ビッグザーガはそこら中『見せられないよ!』な、パニックホラーの廃墟になっちゃう。
ダメ、絶対。
てっちり食べてないし。あと、ちりとり鍋も。
「だからパス。私はここを守る」
大丈夫、向こうはグレン達が行ったから。
グレンはちょっと危なっかしいけど、ちゃんと強い。
今はマリエルもアルテラもいるし、ライルも仲間になったみたいだし。
何より、クラリンがいる。
みんなで楽しそう。私はぼっち旅なのに。
ずるい。
……苦戦しろー、すっごい苦労しろー……。
はっ! いけない、本音が。
とにかくそんなわけで、私はランドハウゼンには行きません。
みんな、頑張れー。
……でもやっぱり苦戦しろー。
◆◆
「ほぁっ!!?」
「どうしたの、グレン君?」
「今、誰かに呪いをかけられたような……」
一見無機質で、だがその中に刃物の様な明確な意志が篭った職人技の様な呪詛を感じた。
まったく、決戦前になんて縁起の悪い。
「ライル、この船落ちないだろうな?」
「縁起でもないことを言うなっ!?」
冗談だ。俺も整備不良で落ちるとは思ってない。
何せこの船は、『世界』最速の飛空挺、ブラックバードだ。
人類の生息域が魔獣に分断された現代で、『世界』の名を冠するものはほぼ存在しない。
そんな中このブラックバードは、何とライルを乗せてこの星を一周している。
その際に、明らかにイーヴリス大陸を超える魔導文明の飛空艇をブッチ切ったと言う逸話から、『世界最速』の名で呼ばれているのだ。
耐久テストはバッチリ。
大陸内の短距離飛行で落ちることなど、万に一つもないだろう。
フラグとか言うな。
「ふえーっ! ジャンプしても後ろに吹っ飛んでかない! なんでですかっ!?」
「走りながらジャンプすると、前に飛ぶだろ? お前は今、飛空挺と同じ速さで前に進んでるから、ジャンプすると勝手に前に進むんだ」
「うぉぉぉっっ!! なんか凄いですっっ!!」
「ほっ、ほっ、わたしっ、いまっ、せかいっ、さいそくっ」
こちらの不安を他所に、ちびっ子2人は非常に楽しそうだ。
もう飛び上がってから30分は経ってるんだが、まったく鎮まる気配がない。
クラリスはともかく、リリエラは俺の3つ下くらいだろうに……。
「それにしても、乗ってると本当に速さがわからないわね。あとどのくらいで着くの?」
「風がいい方角に吹いているから、このまま行けば、あと5時間半ってところだな」
「「早っっ!!?」」
エンデュミオン―ランドハウゼン間は馬で3日、普通の飛空挺や縦断列車でも確か17時間だったはずだ。
それをたった6時間で……ブラックバード、想像以上のバケモノだな。
「因みに、理論上の最高速度ならあと2時間で着くぞ。主機を暴走させて急加速するから、グレンとマリエル以外、タダでは済まんがな。クラリスとリリエラはトマトだ」
「やらないで下さいっ! 絶っっっっ対にやらないで下さいっ!!」
「リリリ、それ、フリ」
そうだな、思わずポチッとやりたくなるな。
「あの、私繊細な女の子なんだけど……?」
ははは、ご冗談をマリエルさん。
「愛のない痛みは辞退いたします」
「お前は黙ってなさいっ!」
アルテラは今日も平常運転だ。
そろそろ本気で、痛みのないお仕置きを考えるべきだろうか。
しかし、これから魔王と一戦やらかすってのにこの緩い空気……みんな気負いがなくて何よりだ。
「さて、まだ時間もあるし、戦闘要員は寝るぞ。徹夜のテンションで天空王戦とか、御免だからな」
「ロゼッタ、何かあったら起こしてくれ」
「かしこまりました」
ライルが客室に消えると、走り回っていたリリエラとクラリスも戻ってきた。
「ふあぁ~~……私も何か眠くなってきました……」
「貴女は遊び疲れただけでしょうに……仕方ない。おいで、添い寝してあげる」
「……うん、おねぇちゃん……」
アルテラも、リリエラを抱き抱えて客室に向かう。
リリエラに対してだけは、以前のまともなアルテラなのだ。
普段もそれでいいんだぜっ!
「マリエルも早めに寝とけよ」
「添い寝、してほしい?」
「おぅふっ!? え、遠慮しておくっ……!」
「ふふっ」
あのマシュマロボディを抱き枕にして寝る妄想が、俺の、主に下半身を蝕む。
いかん、ムスコが……!
何とか暴発する前にトイレに駆け込み、ことなきを得る。
あの女、いつか目に物見せてやるっ!
誓いを胸にブリッジに戻ると、メイドさん2人と一緒にクラリスが待っていた。
「俺らも寝るぞ。クラリスもだいぶ走り回ってたし」
「ん」
ロゼッタさんに空いてる客室に連れられ、いつものように2人でベッドに転がる。
すぐに寝息を立て始めたクラリスをチラリと見て、俺も目を瞑った。
「………………………」
「…………………………………」
「………………………………………………」
「グレン、ねてない」
「……俺は『夢』のことがあるからな……お前は寝ていいぞ。疲れてるだろ?」
クラリスの『どっせい』のお陰でマシになったとは言え、やっぱりあの夢の後は、それなりに体調を崩すのだ。
大人に聞いたら、二日酔いの症状と似てるらしい。
マジかよ。俺、一生酒なんて飲まねえ。
ともあれ大きな戦いの直前は、念のため熟睡しないようにしている。
この間見たばかりだから、大丈夫だとは思うが……。
「ん……わかった」
そう言ってクラリスは……何故か肘打ちの素振りを始めた。
「しっ! しっ! しっ!」
「クラリスさん、何をしてるのかな?」
「ねていい。うなされたら、ノータイムで起こす。しっ! しっ!」
「肘でっ!?」
男前な表情で告げるクラリスに気が緩んだのか、一気に眠気に襲われる。
ダメだ、これ、寝るな……。
「ふぁ……じゃあ……手繋いでてくれ……それで……大丈夫な……気がする……」
「ん」
キリッとした表情を緩め、クラリスがその小さな手を重ね、キュッと握ってくる。
この手にも……ずいぶん……なれて………。
「おやすみ」
その声に従い、俺は襲いくる眠気に意識を委ねた。




