第4話 グリフィス特務隊の宿取りは3部屋構成
「ライル・アウリードか……確かに、あの『錬金術師』なら有り得ない話じゃないな」
「でもライルって今、勇者セインのパーティにいるんじゃなかったかしら?」
そう言えば、教会が大々的に発表してたな。
『ライル・アウリードは勇者セインの仲間として、世界のために尽くすこととする』
何が『とする』だ。
ギルドもエンデュミオンも通さない、要望ですらない、とち狂った妄言。
しかもあのライル・アウリードを、勇者のお供の一魔術師として使うなど、
世界に尽くすどころか、めちゃくちゃ損失だ。
むしろ『それが目的では?』なんて説も流れていたな。
魔導の発展が相対的に神聖武具……延いては勇者の価値を下げると危惧した教会が、ライルの魔導学者、魔導技師としての活動を妨害しようとしている……だったか。
そんな説が出回るくらいには、脳ミソお花畑な教会の召喚だったんだが………なんとライル本人が応じてしまったのだ。
これには、大陸中大騒ぎ。
教皇なんてそれはもう得意顔で『ライル・アウリードを、神の使徒と認めよう』とか、とにかくコメントがひたすらウザかった記憶がある。
……ライルは、それについて終始ノーコメントだったが。
そんなライル・アウリードが、何故大図書館の奥に?
「なんでも、勇者パーティは解雇になったそうですじゃ」
「解雇っ!?」
「あぁ、解雇」
マリエルが驚きの声を上げるが、俺は何となくこうなる気がしていた。
ライルは、世界的には勇者を超える名声がある。
あと噂では、中々の知的イケメンらしい。
一緒にいたら、間違いなく勇者セインの人気を『食う』。
『光の勇者』セイン――セイン・バークレイ。
奴が俺の知っている人間のままなら、そんな奴を側に置いておける筈がない。
「馬鹿ねー……二枚看板でやれば、実績でも『鋼鉄の勇者』を超えられるでしょうに」
「無理だろうな。それだとライルの評判も上がっちまう。奴は高みに登りたいんじゃない。自分一人が圧倒的一番になりたいんだ」
その為なら、奴はいくらでも他人を貶め、足を引っ張る。
「よく知ってるわね。訳あり?」
「面識があるんだ。ガキの頃だけどな」
「ライルから聞いた評価も、そのようなものでしたな。まぁ、彼奴は特に気にしておらなんだが。『粗方目的は果たした』……そう申しておりました」
『目的は果たした』……か。
となると、教会の召喚に応じたことから今回の茶番劇まで、全てライルの目論見通りだった可能性もあるのか。
まさか勇者を間近で研究して、神聖武具でも量産するつもりだったか?
その辺も捕まえたら聞いてみよう。
「受けましょう。大図書館には少し興味もあるし、ライル・アウリードにも会ってみたい。そういや、ご老体はどんな用件でライルを?」
「彼奴の偵察機を借りたいのですじゃ。先日、アウストラ山脈が激しい光を発したのは、ご存知ですかな?」
その光なら俺達も見ている。
恐らくこの辺り一帯の国にいた者は、ほとんど見た筈だ。
「アレの原因を探るんですか? 確かに、あそこは迂闊に調査隊とか送れませんからね」
「その通りじゃよ、マリエル殿。下手に『天空王』を刺激すれば、この街が滅びかねん。ライルの偵察機なら、こっそり状況を探れると思いましてな。と言うわけで、皆様よろしくお願い致しますじゃ」
そう言って頭を下げる支部長に応え、俺達はギルドを後に――
「それにしても困ったものですなぁ」
……あ、世間話始まった?
普段あまり人と会うことがないのか、支部長の顔には『話し足りない』とはっきり書いてある。
ジジィ……その依頼、急ぎだったんじゃないのか。
◆◆
延々と続くと思われた支部長の世間話は、我らが小隊の『姫』、クラリスの一言で打ち切られた。
『おなかすいた』
さすがはクラリス。
大人より空気の読めるこの幼女は、我々の表情を敏感に感じ取った。
そして、自身の『子供』という特性を最大限に活かし、我々を救ったのだ。
「クラリス、何が食べたい?」
「私とグレン君で、好きな物1つずつ買ってあげる」
「私は以前欲しいと言っていた、アンカルジアの押花を作ろう」
「ドヤァ」
会話の牢獄から解き放たれた我々は、姫を大絶賛。
クラリスも得意のドヤ顔である。
繋いだ手がブンブンと振り回される。
「いいなー! クラリンばっかり!」
リリエラがむくれているが、仕方ない。
お前が俺達を見捨てて部屋を出ようとしたこと、気付いているぞ?
「リリエラはお仕置きかしらね?」
「ご主人様、座薬を買いましょう」
「許可する」
「あばばばばばばばばばばばっっっ!!?!?」
グリフィス特務隊隊訓その壱『裏切り者にはケツの制裁を』。
俺が今決めた。
涙目で許しを乞うリリエラを引きずりながら歩くと、ギルドお勧めの宿が見えてくる。
大きい宿で、外観は質素だが掃除が行き届いており、白い外壁は凝視しても汚れが目につかない。
中に入っても空気が篭っていないのは、換気に気を使っているからか。
確かにいい宿の様だ。
「いつも通り3部屋でいいな?」
「むー、私いつも1人部屋なんだけど?」
「がんばれ」
むくれるマリエルに、俺の頭によじ登ったクラリスが、無慈悲なエールを送る。
「あ! 私、今回マリエルさんと一緒がいいです!」
「あら♪ じゃあ今晩はパジャマパーティかしら」
それは本音か、マリエルに哀れみを感じたのか、コミュ力に定評のあるリリエラが相部屋を名乗り出た。
さて、そうなるとアルテラが1人になるわけだが……。
「でしたら、私もご主人様のお部屋に置いていただくのはどうでしょう? ベッドはご主人様と1つで構いません」
「3部屋な」
「あぁっ!?」
パジャマパーティの隣で、ワンナイトパーティでも始めるつもりか。
やめろ、クラリスの教育に悪い。
アルテラは事あるごとに、『性奴隷』として伽を務めようとする。
言っておくが、一線は超えていない。
……俺だって勿論、嫌なわけじゃない。
アルテラは美人だし、マリエルに及ばないとは言え、スタイルもかなりいい。
種族的に細身な闇人としては、豊満な部類に入るだろう。
そんなアルテラから夜のお誘いなど受けたら、あのお仕置きの夜を思い出し、股間は大変なことになってしまう。
何なら、今だってちょっと前屈みだ。
が、アルテラはもう奴隷ではない。
正式に俺の従者となった、言わば従業員だ。
そしてグリフィス特務隊の部下でもある。
給料だって、閣下に頼んで軍から出してもらっている。
本人の同意があろうと、性欲に任せて手を出していい相手ではないのだ。
それに恐らく、アルテラとはこの先も長い付き合いになる。
下手に関係を持ってしまい、何かこう、妙な雰囲気になったら、嫌じゃない? 気まずいじゃない?
まぁ、つまり、そうゆうことだ。
「へたれ」
「ヘタレですね」
うるさいよちびっ子共っ!?
「私はいいと思うわよ?」
黙れマリエル。
お前、味方っぽいこと言ってるけど、ただ童貞臭い奴が好きなだけだろ?
「ご主人様」
「何だ?」
振り向くと、アルテラが母性たっぷりの笑みで俺を見つめている。
「お覚悟ができましたら、いつでもお声がけ下さい」
くっ! 殺せっ!




