第3話 仲間になる学者キャラって一人でダンジョン潜ったりしがち
『エンデュミオン大図書館』
先史文明時代の資料が良好な状態で残されている巨大図書館で、ギルドの遺跡探索隊によって発見された。
その噂が広まり、知識を求めた学者達が大挙して押し寄せ、やがて図書館を囲むように街が出来上がる。
「それが、学術都市エンデュミオンね」
「「「ほ~」」」
エンデュミオンに向かう馬車の中、マリエルの説明に女子3人が感心した声を上げる。
クラリスとリリエラ、それにアルテラも、若干世情に疎い。
エンデュミオンへの道中、マリエルと2人で説明することにしたのだ。
割と好評だ。
「それでっ、その大図書館ってどれですか!? そんなに大きいなら、もう見えてますよね!?」
リリエラが目を輝かせながら聞いてくる。
好奇心旺盛な彼女は、大型建造物に目がないらしい。
コルトマンの屋敷も、外観だけは見入ってしまったとか。
「残念、まだ見えないぞ。エンデュミオン大図書館は、地上部分はちょっと大きめの図書館程度なんだ」
「地上部分……ということは……!」
そう……エンデュミオン大図書館の大半は、地下に埋まっている。
地下部分の探索はまだ完了しておらず、未解除のトラップやまだ見ぬ文献が眠っているのだとか。
「ダンジョン扱いされてるのはそのせいよ。そしてその最深部には、神代の遺産が保管されてると言われているわ」
『言われている』……つまり、最深部への扉を開けた者は、未だかつていないということだ。
「大図書館自体、先史文明時代に神代の遺跡を囲むように作られたって話だ」
「神代の遺跡の周りに、先史文明の図書館を。その更に周りに現代の都市……まるで年輪のようですね」
エンデュミオンを作った歴史に想いを馳せているのか、アルテラはどこか感慨深げだ。
やがて馬車は、検問を通過し街中に入り、最初の目的地であるギルド支部前で止まった。
旅の傭兵が新たな街に着いた場合、先ずは宿を探し一休み。
それからギルドへ顔を出すのがセオリーなのだが、俺達の場合はちょっと事情が違う。
我々グリフィス特務隊は、統合軍参謀本部とギルド総代の連名で活動している。
言ってみれば、隊全体がちょっとしたVIP扱いで、ギルドからも色々融通を利かせてもらえるのだ。
……例えば、部外秘の良宿リストの開示とか。
と言うわけで、俺達は新しい街に行くと、先ずギルドに顔を出すことにしている。
今回はついでに仕事の話もしてしまおう。
さあ、またまた応接室で支部長とご対面だ。
ここの支部長は一見かなりのヨボヨボだが、毛先の長い眉に隠れた相貌には、精悍な光が宿っている。
典型的なタヌキだな。本人は狐の獣人だが。
「では早速ですが、依頼の話をさせてもらってよろしいかな?」
「ええ、もちろん」
元気なおじいちゃんは話が長い傾向がある。
本題から入ってくれるなら大歓迎だ。
「大図書館に入ってほしい、という話は、もうご存知かと思いますが……具体的には、最深部に向かってほしいのですじゃ」
「最深部?」
「大図書館の最深部って……」
「誰も扉を開けたことのないという、神代の遺跡……」
俺もマリエルも困惑顔だ。
アルテラも、馬車の中で受けた説明を思い出しているのだろう。
「左様。最深部に続く扉は、今まで誰にも開けることができんかった」
ん? 過去形?
てことは……。
「開けた者がおるのですじゃ……つい1週間前。皆様にはその者……ライルを連れ戻してきていただきたい」
「「ライルっ!?」」
俺とマリエルの声が、綺麗にハモった。
――この時代には、魔法史に残る1人の天才がいる。
3年前、若干11歳で重力制御理論を組み上げた『最高の魔道学者』。
その翌年には、飛空挺という形で実用化させた『規格外の魔導技師』。
その技術を秘匿することなく、自ら若手でありながら、技師育成のための教本化に努めた『至高の教育者』。
驚異的な知識量と魔力制御による多彩かつ高速な錬金術で、大国の宮廷魔術師長すら軽く凌駕する『万能の魔法使い』。
若くして数々の異名を残したこの『持たざる者』の男は、尊敬、羨望、畏怖、嫉妬……様々な感情を込め、やがて一つの名で呼ばれるようになる。
それが――
『錬金術師』ライル・アウリード。
◆◆
大図書館最深部を出て、少し歩いたところにある『天体書庫』。
球体の内側に作ったような部屋で、ぐるりと周囲を囲む壁は、びっしりと本が並ぶ本棚になっている。
中心では太陽を模した大きな球体が回っており、その周りには衛星のような形で、まるで宙に浮いているかのような読書スペースが設けられている。
ライル・アウリードは、この部屋の雰囲気をとても気に入っていた。
置かれている本は、気分転換でしか手にしないような天体関連が殆どだが、それでもわざわざ別室から大量の本を持ち込んで、ここで読み耽るくらいだ。
今もライルの目の前には、味気ない最深部から持ち出した大量の資料が積まれている。
――帰ったら、自宅に同じ部屋を作ろう。
一瞬そんなことを考え、ライルは再び、手にした資料に意識を落としていった。




