第1話 蒼剣の勇者と空の魔王
アウストラ山脈。
多くの国を南北に隔てる、大陸有数の大山脈だ。
そのアウストラ山脈の一角で、2つの強大な力が衝突していた。
『蒼剣の勇者』リーオス、及びそのパーティ総勢7名。
現在活動している4つの勇者パーティの1つだ。
リーオス個人は同年代の『光の勇者』セインに一歩譲るが、パーティメンバーの能力や連携を含めた総力戦では、こちらが上だと言われている。
対するはこの山脈の主『天空王』グリフエラーナ。
上半身が鷲で下半身が獅子。
その名のとおりグリフォンを彷彿とさせる魔獣で、現存する『魔王』の1体である。
魔王――魔獣の突然変異体で、巨大な体躯、強大な力、高い知能と魔獣の群れを従える能力を持った、正に魔獣達の『王』。
遥か昔より、人類の前に姿を現しては、聖導教会が保有する神聖武具に選ばれた『勇者』と、戦いを繰り広げている。
12年前に出現した『天空王』はしばらく沈静状態にあったのだが、その2年後に突如活動を開始。
発生地だったミクサーノ王国を壊滅させた後、現在のアウストラ山脈に降り立ち、現在まで静観の構えを見せていた。
魔王や魔獣は、進んで人里を襲うことがない。
縄張りを荒らされたり、眷属に危害が加えられたりすればその限りではないが、下手に手を出さなければ被害は発生地の小範囲に限定できる。
一時期天空王が暴れていたのも、ミクサーノ王国が余計な戦いを挑んだことが原因だ。
邪神という天敵がいる現在、魔王は放置するのが常識となっている。
ではなぜ、勇者リーオスと天空王は戦っているのか。
それは、リーオスの焦りが生んだ愚行だった。
若手の勇者として期待されるリーオスには、1人のライバルがいた。
リーオスと同時期に勇者となった、4つ下の少年。
『光の勇者』セイン・バークレイ。
歴史上最強と言われた、初代勇者アルス・ランベルトの神聖武具に認められたセインは、瞬く間に教会の顔になった。
いくつもの国を魔獣や邪神から救い、名声を高めるセイン。
対してリーオスを頼るのは、話題にもならないような小さな街や村ばかり。
開いていく両者の差。
リーオスの劣等感は、日を追うごとに膨らんでいった。
そんなある日のこと、そのセインから冗談混じりに言われたのだ。
『例えば、魔王討伐を成し遂げでもすれば、流石の僕も負けを認めざるを得ないだろうね』
――沈静化している魔王を起こすような愚行、僕はするつもりはないけど。
リーオスは、愚行に走った。
『やる気はない』とセインは言ったが、その口から『魔王』という言葉が出たことは、リーオスにとってこの上ない衝撃だったのだ。
セインはまだ14歳。まだまだ伸び代を多く残している。
もし、もしもだ。成長したセインが魔王討伐まで成し遂げてしまったら、自身とセインの差は永久に埋まらなくなってしまう。
――今しかない。
焦りに突き動かされるまま、リーオスは居場所が判明している魔王である天空王に挑むことを決めた。
天空王の翼がはためき、刃の様に鋭い羽根が雨のように降り注ぐ。
2人の魔術師が風と土の障壁を張るが、無数の羽根はその壁をあっさりと突き崩し、リーオス達に襲いかかった。
唯一壁役に守られた神官が即座に広域回復をかけるが、負った傷に対し回復量は少なく、皆すぐには立ち上がれない。
追い討ちをかけようとする天空王に、気配を消していたスカウトが矢を射掛ける。
威力は無いが的確に目を狙った射撃を嫌い、天空王は一旦身を翻す。
そこに勇者と剣士が2人がかりで斬りかかり、神官が治癒が行き渡る時間を稼いだ。
何とか持ち直しはしたものの、全快には程遠い。
特に被弾の多い壁役と、回復途中で動かざるを得ない勇者、剣士はそろそろ限界が近い。
神官と魔術師2人も魔力が底をつく寸前で、唯一余力があるスカウトも戦力としては牽制が限度だ。
そもそも、彼はそろそろ戦線を離脱して、パーティ全員の退路の確保に全力を注がねばならない。
敗色濃厚……だが諦めきれないリーオスは、パーティ全員に全力攻撃の指示を出す。
スカウトの制止の声の振り払い、聖剣にありったけの魔力を込め、天空王に突撃するリーオス。
攻撃職のメンバーは戸惑いつつも、勇者を見捨てるわけにもいかず後に続く。
そんな彼らを、天空王は正に『王』の如く悠然と迎え撃つ。
激突する両者。
その日、アウストラ山脈から、激しい青い光が立ち上った。
――その光の中、誰にも気付かれることなく、鳥のような何かが山脈から飛び立った。




