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第14話 モテる男は女がイメチェンしたら自然に褒めるものらしい

 随所がボロボロになった街を、避難所に向けて歩く。


 これでも街中に巨大種が現れたにしては、かなーーーりマシな方だ。

 傭兵達の頑張りもあるが、ギルドを含め、街全体で大量の攪拌弾を貯蔵していたことが大きかった。


 出現地になった繁華街は完全に壊滅したが、他の地区の被害は修繕可能な範囲だ。

 死亡者も、街全体の1割程度。




 ……『1割程度』か。



 悲しいことだが、命を数で数えるのにも随分慣れちまった。


 死んでった奴らには悪いが、見知らぬ命に一々向き合ってなんていられない。

 向き合ってくれる誰かがいることを、祈るだけだ。



 俺には俺の、向き合わないといけない命がある。




「ご主人様っ! お帰りなさいませ……っ」


「お、お帰りなさいませ!」



 避難所に着くと、アルテラとリリエラが駆け寄ってきた。

 アルテラはもう、すっかり従者の振る舞いが板についている。


 買ったの今日だよ?


 呪印外して、リリエラと一緒に家に帰らせるつもりだったんだが……予定を変更することになりそうだ。



「2人とも無事だったな。アルテラも働きは傭兵達から聞いたぞ? よく頑張った」


「っ! 勿体無いお言葉です……!」



 感極まりつつも優雅に一礼。

 お前、ホントそれどこで習った?



「って、そうだクラリス! 避難所で見なかったか? マリエルが知り合いに預けたらしいんだが、見付からなくてな」



 ここに来るまでの道のりで、クラリスとは会わなかった。

 マリエルが信用する程の相手だし、滅多なことにはなってないとは思うが……。



「いえ、あの子のことは私も気になったので、注意して見てはいたのですが……申し訳ありません」


「いや、お前はよくやったよ。あいつ、どこをほっつき歩いて――」



「どっせい」



「ごっふぇっ!?」



 聞き覚えのある一言と共に、脇腹に何かが突き刺さった。

 顔を上げると、腰に手を当てて仁王立ちする白髪の幼女が1人。



「おかえり」


「……おう……ただいま……っ」



 クラリスさんである。

 何故かコイツの攻撃は、俺にクリーンヒットする。



「ったく、お前今までどこにいた? つか、お前と一緒にいたって奴は?」


「私」


「おぅわっ!?」



 背後からの声に慌てて振り返る。

 そこには、フリッフリのドレスを着た美少女が立っていた。


 長い金髪を肩で二つ結びにした、精巧な人形の様に整った顔立ちの、現実感の薄い少女。



「おまっ、レーゼじゃねーかっ!?」


「ん、レーゼちゃんだよ。グレンおひさ」



 その声に抑揚はないが、注意深く聞くと何処か楽しげだ。


 この、ちょっとずれた少女はレーゼ。

 俺と同じく統合軍所属で、さらに少年兵かつ一人大隊(ワンマンアーミー)でもある。

 設定丸かぶり。



「この街に来てたのか……ってかなんだ、その見慣れない服は?」


「40点」



 何がっ!?



「グレンのモテ男度」


「低っ!」



「褒めてくれなかったから、大幅減点。でも『似合わない』じゃなかったから、ちょっとおまけ」


「そいつは……ありがと……?」


「因みに服は観光用。いつものやつ、目立つし」



 確かにこいつの装備は、見るからに『周囲一帯血の雨降らせます』って感じの、ヤル気溢れる見た目をしている。

 人ごみに突っ込んだら、この顔と背丈でもみんな道を開けてくれるだろう。


 納得していると、マリエルが前に出る。



「ありがとね、レーゼ」


「ん、マリエルもお疲れ。クラリンと遊ぶの楽しかったよ」


「2人に面識あったとはな。確かに、レーゼといりゃ安全だ」



「「ドヤァ」」



 得意げなレーゼ。

 その隣で、何故か得意げなクラリス。


 髪の色こそ違うが、どちらも人形みたいな無表情系色白美少女。

 そして無表情のくせに感情豊か。

 更にこのドヤ顔……姉妹か?

 生き別れの姉妹なのか?



「それで、お前ら結局何処にいたんだ? 避難所にはいなかったろ」


「応援してた」


「なんて?」



「物陰に隠れて、こっそり応援してた」



 何やってんのこの子達っ!?



「建物の隙間とか、触手の影とかから、がんばれー、って」


「ん、がんばれ」




 ――『がんばれ』




 アレかっ!? 俺が食われそうになったときのやつ!

 アレ肉声なのっ!?



「恐れ入ったか」


「ドヤァ」



 そんな風にわちゃわちゃしていると、モーゼスが輪を外れて歩き出した。



「何だ、行くのか? 飯くらい奢ってやるぞ?」


「そこまで付き合う義理はない。そもそも、店など開いてなかろう。それに、新しい雇い主とやらとも、さっさと話をつけねばならん」



 随分なせっかちさんだ。

 いや……闇人姉妹には結構な無体をしたから、気まずいんだな?


 絶対そうだ。



「何だその顔は……」


「いいや、何も。んじゃあ、今日の分の協力者報酬は、俺から上に掛け合っといてやるよ」


「大将首だ。精々期待させてもらおう」


「いや期待すんな。殆ど恩赦に消えるんだよ。お前、派手にやり過ぎだ」


「ふっ……ではな」



 そう言ってモーゼスは、まだ慌ただしい街の中に戻っていった。




「そういや、アイツの『本業』ってなんなんだ?」


「孤児院経営よ」


「ぶっ!」



 マジか、あいつ、あのナリで院長先生とかやってんの?



「それと、鬼人(きじん)の子供のいる孤児院に、匿名で援助もしてたわ。確か――」



 あー……おー……。



「『赤鬼(あかおに)のオジサン』……」


「あら、知ってたの?」



 はははっ、マジか。


 確かに、ウチの孤児院にも鬼人いたもんな。

 俺、アイツの金で飯食ってたのか。



「礼くらい、言っておくべきだったかな……」



 まぁ、これからアイツもギルド勤めだ。

 また会うこともあるだろう。


 何せギルドと我ら統合軍は、どっぷりべったりズブズブの癒着関係だからな!



「じゃ、俺達も行くか。誰も飯食ってねーだろうし。レーゼも来るだろ?」


「行く」



 即答である。


 表面上一切わからないが、レーゼは寂しがりやだ。

 こうゆう時にハブると、絶対泣く。

 そして年単位で根に持つ。



「でも、この有様……ほんとにお店開いてるかしら?」


「ギルドパワーでどうにかなんない?」


「……ギルドパワーって何よ」



「あのオークションのバイヤーなら、そうゆう情報も持っているかもしれません」


「ちょっとチップ握らせれば、リストでくれそうだな。よし、行ってみるか」


「鼻にコインを詰めてやりましょう。金を受け取ったからには、働く男です」



 お前、オークションでガラティナぶつけられた件、根に持ってるな?


 面白そうだ、やるか。




 ――やった




 アルテラは俺から受け取った金貨を、楽しそうにバイヤーの鼻にねじ込んだ。


 バイヤーは流石の笑顔だったが、ちょっとプルプルしていた。

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