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第2話 ヤムリスク名物奴隷オークション

「これはっ、これはどうゆうことだっ!?」


「本日のオークション予定です」



 地下牢に響く少女の声。

 それを受け止める男は涼しい顔だ。



「ふざけるなっ!! これでは私は……誰に買われるかわからんではないかっ! 貴様……謀ったなっ!!」


「めっそうもございません。そもそもオークションは最初から、誰に買われるかなどわからないものです」


「そ、それは……っ! だが! この予定表は、余りにも作為的ではないかっ!」



 尚も食い下がる少女。

 だが、男は笑みを貼り付けたまま冷酷に告げた。



「はい、貴女がコルトマン氏に害意を持っていることを知ってしまったので。お客様に、危険な商品を売るわけにはいきません。少し手を入れさせていただきました」



 少女の表情が屈辱の色を帯びる。

 男の抑揚のない口調で冷静になった頭が、この男から見た、自分とコルトマンの価値を理解したのだ。



「っ! で、では、まさかっ、あの依頼もっ!?」


「依頼の申請は済ませましたよ? お金も、金貨7枚ほど人を介すのに使いましたが、残りは全額報酬に当てています。

 ……ですが、商人宅への侵入を促す様な反社会的な依頼を、どう扱うかはギルド次第です」



 それは暗に、斡旋はされないことを示していた。


 自身を売っても、その金で助けを呼んでも、コルトマンの懐に届かない。

 少女は声もなく崩れ落ち、やがて絶望の涙を流した。




 ◆◆




 ヤムリスク西側の巨大闇市。

 その迷路の様な路地を、右へ左へと曲り進む。

 支部長の案内がなければ、あっさりと迷子になっているだろう。


 俺達が向かっているのは、闇市でも目玉中の目玉である奴隷オークションの会場だ。



 奴隷――人身売買というとなんだか悪いイメージを抱きがちだが、犯罪者の処理や借金の形など、奴隷という商材無しで社会を回すのは難しい。

 このイーヴリス大陸においても、多くの国家が奴隷売買を公式に認めている。


 これは、世界経済の導き手であるギルドも同様だ。

 もっとも認可を得るには、かなり厳しい審査に挑むことにはなるが。


 さて、本日向かうオークション会場の支配人だが、コイツはその難関を突破したギルド公認の奴隷商だ。

 公認奴隷商が奴隷売買を行う場合、必ず品目リストをギルドに提出することになっている。

 ギルドの方でも、誘拐などの違法な手段で調達した奴隷がいないか、可能な限り調べるためだ。


 提出されたリストによると、今日は目玉商品も含めて、闇人(やみびと)の出典が多い。

 コルトマンは相当な好色家……そして、無類の闇人趣味だ。

 この商人の扱う奴隷は評判が良く、コルトマンがこの機を逃すことはありえない。


 だが、コルトマンは最近派手にやって、方々から目をつけられている。

 安全のため、例の護衛を連れている可能性はかなり高いとのことだ。


 そんな訳で、このオークション会場に潜入することになったわけだが……。



「あの、そちらの『レディ』も、ご一緒に……?」


「おぅ」


「うむ、ごくろう」



 門番の男の目が、俺に肩車された幼女に固定される。


 そう、なんとクラリス同伴である。

 これには流石に驚いたろう。

 俺もびっくりだよ。


 だがこれこそが、我がグリフィス特務隊のもう一つの目的。

 我が上司、ギリアム准将閣下が、『クラリスに奴隷売買を見せろ』と指令を送ってきたのだ。



 あのおっさん、ストレスで狂ったか?



 一瞬本気でそう思ったが、残念ながらそんな繊細なお人ではない。

 これは正気だ。正気で言っている。

 しかもテンションからして、邪神っぽい揺れの調査は建前で、本命はこっちだ。


 もう理解の範疇を超えているが、閣下が言うからには何某かの意味があるんだろう。



 俺は、クラリスに全部話した。


 全部話して、選ばせた。



『閣下から、お前に奴隷売買を見せろと言われた。人間が、人間を物のように売り買いする場所だ。

 大きなショックを受けるかもしれない……嫌だと言えば、俺は連れて行かない。どうする?』


『グレンは……みせたい?』


『見せたくねえな。だから、一言『嫌だ』と言え。後は俺の方でなんとかする』


『じゃあいく』


『おいコラ』



 余裕じゃねーかこのガキ。



『グレンは、命令より私を心配してくれた。だから、怖くても大丈夫』


『……そうか、手は離すなよ』


『ん』



 そんな感動的な一幕がありつつ、クラリスも我々と共に、会場入りすることになったのだ。

 地下へと続く階段を降りると、様相は一気に変わった。


 目の前の豪華なロビーや扉は、まるでどこかのコンサートホールのようだ。

 ドアマンが恭しく開けた扉の先には、舞台がよく見える階段状の客席。

 椅子はめちゃくちゃ座り心地が良さそうだ。


 俺達は席に着こうと扉をくぐり――





 ――ゾグンッ!





 ………一瞬で『わかった』。

 客席中央右側、最前列から六、七列目くらい。



「さて、コルトマンは……」


「中央右の、前から7列目よ」



 マリエルも気付いたな。声が固い。



「あぁ、いましたね。あの隣にいるのが恐らく……」



 分かるよ。会場に入ってすぐに分かった。

 抑えてはいるが、隠しきれない強者の威。そして、その『姿』。



「グレン君……っ」


「あぁ、そりゃA級じゃ話にならねぇ」



 黒マントと、真っ赤なつば広の中折れ帽子。

 チラリと見えた真っ黒な肌は、希少人種『黒鬼(くろおに)族』の証だ。


 この距離でこちらの視線に気付いたのか、一瞬ぶつかった相貌は鮮やかな赤。






 ――赤目(あかめ)のモーゼス。




 最高難度の未解決案件の一つが、そこに鎮座していた。

 今回から、ストーリー中に説明を入れられなかったこぼれ話を、後書きで少しずつ入れていきます。

 厨二病患者の分厚い設定資料集を小出しにしていく感じだと思ってください。


◆この世界について

 地球です。

 我々西暦の人類が滅んでから7~8万年くらい経ち、新たな我々と姿が似ている別の人類により、剣と魔法の異世界チックな世界ができあがりました。

 地殻変動とかで、もう当時の大陸は影も形も無くなっています。

 技術も殆ど残っていませんが、文化の名残だけは、結構各地で見つかっていたりします。


◆生態系

 魔獣が頂点。次に邪神、その次が人類です。

 人類が邪神を問題視しているのは、邪神が執拗に人類を襲うためです。

 また、個々には魔獣より邪神の方が強いので、邪神に住処を追われる魔獣の姿をよく見るからです。

 が、全体数としては、魔獣は邪神の3倍ほどいるため、支配領域は魔獣の方が広いです。

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