第8話 少年と少女と兎さんの旅路
空を見上げれば幾つもの光……ここは星がよく見える。
エンデュミオンからランドハウゼン、その次はウィスタリカ。
どこも煌々と灯りが点いてたからな。
人は死んだら星になるって言うが、あの中には、先生達もいるんだろうか。
……ぃやだなぁ……。
あのぐっだぐだの2年間をみんなに見られてたとか、羞恥プレイにも程があるぞ……。
アリサ姉さんとか、ブチ切れか、煽り散らすかどっちかだろ。
考えたらイラッとしてきた。
「眠れないの?」
物思いに耽っていると、背後からクラリスに次いで聴き慣れた声。
「お互い様だろ、マリエル」
ふっと笑って隣に座るマリエル。
が、その目がすぐに、訝しげな形を作る。
「なんだ?」
「貴方……その格好で寝るの?」
『その格好』
現在の俺の装いは、明日の決戦で使う魔導装甲のインナーだ。
天空王の外皮を、ライル発案の革新的な技術で加工した、新素材製なんだが……。
見た目は、完全に全身タイツ。
更にその上に、天空王の羽根を加工したマントを羽織っている。
黒い全身タイツに白マント。
昼間に衝撃的な姿を見せてくれたマリエルさんでも、一言申したくもなるのは理解できる。
「意外と着心地いいんだぜ?」
肌触りもいいし、通気性も悪くない。
問題はこれを着てると、たまに体のサイズを測るマーガレットの手つきを思い出すことか。
今から着てるのは、本番で発狂しないように慣れておきたい、という理由もある。
「大丈夫? それで楽しい夢見たら、明日大変よ?」
「ほっとけ!」
クラリス助けるまで、流石に見ねえわ!
多分……きっと………。
脱いだ方がいい?
「ふふふっ」
「なんか、随分上機嫌だな」
「そ、そうかしら?」
うん、妙にツヤツヤしてるし。
そういえばコイツが来た方って、ガルデニア陣営のテントの……まさかっ!?
「明日、リーオスの足腰が立たなくなったらどうするっ!?」
「ちょっとお話してきただけよっ! ……あ」
やっぱりリーオスのところに行ってやがった。
果たしてどんな『お話』をしてきたのか。
「……何よ……?」
「やー……お前、チョロかったんだなぁ……って」
「べ、別に、まだ様子見よっ! そりゃまぁ……情熱的な人は……嫌いじゃ……ないけど……?」
よかったなリーオス。かなり脈ありだぞ。
だが、油断するなよ?
最終決戦前に想いが通じるのは、古より伝わる伝統的な死亡フラグだ。
勿論、リーオスが死ぬ方で、マリエルが泣き崩れる方な。
「グレン君は? これから先、そうゆうことを考える日もあるんじゃない?」
「恋愛か……まあな」
俺の恋愛は、12歳の時に止まったままだ。
流石にこの歳で、死んだ恋人に操を立てようとは思わない。
でも、もう少しだけハンナのことを、引きずっていたいとも思ってる。
だが……。
「クラリス連れ戻したら、そうゆうことも考えてみるか。お姉ちゃん出来たら、アイツも喜ぶだろ」
お相手の第一候補はやっぱり猫娘ちゃん――アリア姫か?
再会の場を用意してくれてるみたいだし。
皇王陛下から正式な感謝は頂いたから、彼女の方は個人的なお話だろう。
『個人的なお礼』……どことなくイケナイ響きのある言葉だ。
定番なのは、裸にリボンを巻き付けて――
こらっ、鎮まれっ、冗談だ。
ちょっと考えただけで、はしゃぐんじゃない。
「大丈夫? その服、脱ぎにくいんじゃない?」
「ほっとけ!」
男ができても、こうゆうところは変わらない。
リーオスも苦労することだろう。がんばれ。
「あぁ、そうだ。マリエル」
「ん?」
改まって声をかけると、マリエルがキョトンとしてこちらを向く。
せっかく2人きりなんだ。真面目な話もしておこう。
「グリフィス特務隊は、俺が15歳になるまでの、期限付きのクラリスの護衛部隊だ」
「……」
そして、俺は本日15歳の誕生日を迎えた。
今は色々緊急事態で先延ばしになっているが、この戦いに勝ったら予定通り解散になる。
アルテラ、リリエラは俺の従者扱いで、クラリスは俺と一緒に閣下の養子になる。
だが、マリエル、ライル、短期間だったがレーゼも……彼女らとの旅は、ここが終点だ。
だから……
「ありがとな、俺がクラリスと家族になろうって思えたのは、お前が尻を叩いてくれたおかげだ」
「グレン君……」
『温もりも安らぎもあげたなら……最後まで責任取りなさいよっっっ!!!!』
アレがなかったら、俺は任期が明けたら閣下にクラリスを預けて、たまに顔を見せるだけの関係に収まっていただろう。
それに、マリエルはいつだって俺達を見ていてくれた。
俺が気付かなかった、クラリスの寂しさを埋めてくれた。
彼女がいたことで、俺達がどれだけ救われていたか、どうしても伝えておきたい……そう思ったんだ。
「……そうね、随分と手のかかる兄妹だったわ」
「へーへー、すいませんね」
『でも……』と言葉を切るマリエル。
「その感謝はまだ受け取れないわ……取り戻すわよ、絶対に」
ぐっと突き出される拳。
「あぁ……頼りにしてるぜ、我が隊のお母さん」
俺は、それに自分の拳を押し当てた。
「……せめて、お姉さんにならない?」
~次章予告~
『なんでクッキー?』
『頭使うと、甘いのほしくなる』
『……どんまい』
『いや違うからなっ!?』
『どっせい』
『そーいそいそいそーいそい!』
『そーいそいそい……』
『おかえり……グレン』
――今度は、俺がお前を迎えに行く……!
最終章『少年に笑顔を、少女に温もりを』
これは、妹を抱きしめるため、魂を燃やし戦った兄の物語。




