勇者を超える勇者
「・・・なぁ、アリサ」
「何」
「お前、今何を思ってる」
「何も思ってねーよ」
塔から降りる時私達の会話は無かった。
あーあ、こんな事なら・・・いや、こんな事になるなんて誰も思わないよな。
こんなに私がダメージ喰らうとは思ってなかったんだよ。
だって、いつも馬鹿やって変に好意を向けてくるアホな幼馴染だぜ?
そんな奴が居なくなっただけで、こんな気持ちがモヤモヤするなんて・・・
「・・・俺はさあいつと数時間の付き合いだけどさ、兄弟みたいに気があって良い奴で、これから旅に出るって話してワクワクしてて・・・」
「・・・そう」
「なぁ、アリサ」
「何よ」
「俺と旅に出よう」
「・・・なんで?」
「一緒にあいつを取り戻そう」
「別にどうだっていいわよ、あいつが魔王になれば人間と魔族のいがみ合いも終わるかもしれないんでしょ? それに私は何も関係ないし」
「お前! 幼馴染のくせになんとも思わないのかよ!」
「うん、全然なんとも。だって今回だって迷惑蒙ったのは私だし」
そう、関係ない。
何も関係ない。
あいつが魔王の息子だろうが、もうこっちに帰ってこないだろうが関係ない。
私は・・・
「あいつが勇者になって魔王を倒すために旅に出たせいで私まで旅をする羽目になったと思ったら、ダンジョン攻略させられたんだぜ!? あいつはいつもそうだ! 人を巻き込んで自分だけいい思いして! 今回だって自分は魔王の息子だって言われて、王子って呼ばれちゃってさ! あいつが勇者じゃなくなったから、人間は魔王を倒す方法を失ったんだぜ!? ほんと自分勝手だよな! ・・・だから私らに責任なんてないんだよ、あいつが向こうに行ったのはあいつの意志。お前も私も止められなかった責任なんてないんだよ」
「・・・アリサ、お前」
「別に軽蔑してくれて構わないよ、どうせ今日限りの付き合いだ。それじゃあね私忙しいから」
ひらりと手をふって私はバンに背を向ける。
あーあ、これからどうしよう。
こんなモヤモヤする気持ち引き摺って生きてくなんて気分悪い・・・
下を向いて歩く私。
悲しい時は上を向けなんていうけど、今はそんな気分じゃない。
カツンカツンと小石を蹴って来た道を戻る。
「はぁ、なーにやってんだろ私・・・ってこれは!」
ため息をついて次の蹴る石を探していたら、別のものが目に入った。
「勇者の剣・・・?」
そういや、さっき投げ出されてたやつだっけ。
とりあえず拾っておこう、もしかしたらいい値段で売れるかもしれないし・・・いやちょっと待て、あいつが勇者じゃなくなったってことはこの剣どうなんだ? また勇者を求めてどっかの土地にささるのか?
いやそもそも、勇者ってまた現れるのか?
というか私が拾っていいのこれ!?
「おーい! アリサ! やっぱお前も放って置けねえ! 一緒にあいつを取り戻しってええ!? それ勇者の剣じゃねーか!」
「おっ! ちょうどいい所にこれあげるよバン! 勇者に憧れてたんでしょ! カイの後継になりなよ!」
「おいおい! 何言ってんだよアリサ!」
「いいっていいって! 落ちてたやつ拾っただけだし! ほら遠慮するなって!」
「馬鹿じゃねえの!? おまっ! 心配して追いかけたのが間違ってた! さっきちょっぴり悲しそうな顔してたから心配したのに!」
「ははは! 心配しなくとも結構! 私は心無いクズ人間だからさ!」
笑いながらバンに剣を渡した。
多分私が持っててもいい事ないし、あいつがこっちの世界に唯一残したものだし、あいつのこと本気で思ってるやつに持たした方がいいと思った。
「それさ、あいつの父さんと母さんに持ってってやってよ。あんたが持っててもいいけど一回はこっちの親に持ってってやって」
「・・・アリサ、お前が行けばいいだろ」
「私は街に帰れないの、うちの親父のせいでね。勇者を超える勇者にならなきゃ街に入れて貰えないからさ」
ヘラヘラ笑ってそう言ったら剣を突き返された。
「いや、ならこいつはお前が持ってるべきだ」
「なんで」
「勇者を超える勇者にならなきゃ帰れねーんだろ? ならその剣で勇者になって魔王倒せよ。そしてそいつから息子奪ってまた街に帰ろうぜ」
「・・・そんな口説き文句で動くわけ無いでしょ」
「動くぞお前は」
ははっ、そんなふうに言われるとはなぁ。
こいつ私の事全然わかってねえ。
私は面倒臭いことが嫌いで、そんなに優しくなくて、力も中途半端。
・・・そんな私がちょっと仲の良かった友達を怖い大人からひっぺがすなんてこと出切っこないもん。
自分の命をかけてまですることじゃない。
辛そうな顔している親友を助けるなんて、私が命をかけてすることじゃ・・・
「・・・まぁだけど、故郷には帰りたいし、勝手に私を巻き込んで迷惑かけたアホに文句言ってギタギタにはしてやりたいな!」
私の言葉を聞いてクスッと笑うバン。
「素直じゃねーな! お前!」
「ははは! 本当は心底嫌だよ! けど・・・」
「なんだよ」
「あいつが王子になるのはもっと嫌だ、ムカつくから平民に引きずり下ろしてやる」
・・・思わず本心を隠して私らしい嘘を言ってしまった。
だって、親友を助けたいなんて私らしくないもん。
「じゃあ勇者様、人間を裏切った元勇者にお灸を据えにいきますか」
「あぁ、行くか」
勇者になれず街を追い出されて、幼馴染が勇者から魔王の息子になった日。
それは私が勇者を超える勇者になって仲間と旅に出た日にもなった。