魔王の息子
「へぇー! カイさん、バンさん、アリサさんというのですか!」
「「「はい」」」
ティーカップを持ち上げ引き攣った笑顔を見せて返事した。
誰が想像するかこんなこと、なんでダンジョン攻略しようとしたらラスボスの部屋でお茶飲んでんだ!
「いやーよく登ってきましたね! 普通の人達なら上層階で息絶えるのに! 貴方達はお強いのですねぇ! コングラッチュレーション! 素晴らしい! よくぞ私の眷属を倒しました!」
「あぁ、はい、そーですね。たまたまですよ、はははねぇ」
「あっ、あぁそうだな」
「たっ、たまたまだす!」
・・・だすってなんだ、仮にも勇者だろお前。
「そんな畏まらないでくださいよ! 本当に凄い・・・もしかして勇者だったりします?」
「はははーじつ・・・むごっ!?」
「おほほほ、そんなわけないじゃないですか」
正体をばらしかけたカイの口にクッキーを突っ込んで上手く誤魔化した。
あっぶねー! 魔族に勇者とかバレたらお前命の危険に晒されるぞ!? 気づけよ!
目配せでそう伝えると、涙目で首をこくこくと動かした。
「いやぁー勇者以外にも強い方がいるんですねぇ。そもそも勇者なんて存在するんでしょうか、まぁ、そんな事どうでもいいのです私は私のダンジョンを攻略してくれる勇敢な人間を待っていたのですから」
「ごくん・・・デモンハルトさんはなんでそんな事してたんですか? その、ダンジョンって人間を閉じ込めて・・・」
「あぁ、閉じ込めて眷属を作る為とか魔力の糧する為とか色んな理由がありますけど、私はそんなことで作ったんじゃありません」
ティーカップを置いて机に手を置くデモンハルト。
「私は、魔王様の息子を探していたのです」
「はい?」
「えぇ、人間と魔族のハーフ。いがみ合っている種族の愛の結晶です」
「嘘でしょ、そんなことってあるの!?」
「えぇ、あるんですよ、アリサさん。16年前でしたっけ、魔王様がなにかの気まぐれで人間の女と一緒にいた時にできちゃったらしいです」
「できちゃったって・・・」
「まぁできたもんは仕方ありません、ですがその子供、魔王様の真のお妃様に捨てられてしまったのですよ。まぁ嫉妬です醜い感情で捨ててしまったのですよ」
・・・なにそれ、人のことを物みたいに扱って
自分勝手なやつ!
「それでも魔王様は、その子のことをずっと思っていました! あぁ、愛しきわが子! 何処にいるのだ! こんな気持ちでは人間を滅ぼせない! と、魔王様はお悩みになっているのですよ」
胡散臭い芝居をしながら語るデモンハルトを死んだ表情で見つめる。
「魔王様も結構なお年、そろそろ世代交代と思っているそうで、その隠し子にもチャンスを与えたいと考えているのです。だぁから私めにこの任務を与えダンジョンを作ったという訳ですよ!」
・・・ドヤ顔で言ったぞこのリッチー、少し腹立つな。
「へー、でもさ別にダンジョンじゃなくても良くね? 関係ない人巻き込みやがってさぁ」
うんざりしながらため息を吐いて、喧嘩腰でデモンハルトに物申したバン。
よく言ったバン!
私はあんたを称えるよ!
「あぁ、生憎私にそういう感情は持ち合わせてませんので。ただ私は王子を見つけれればよかったのです、魔王様のように強く、カリスマ性があり、野心家の若者は冒険したがる性質があるのでおびき寄せるにはダンジョンが最適だと思ったのですよ、ついでにのこのこ入ってきた人間で眷属も作れますしね」
「・・・ふざけてんのあんた!! それで見つからなかったらどうすんのよ!!!」
「見つからない・・・? 現にここに現れてるじゃないですか」
デモンハルトはキョトンと首をかしげ、『もしもの話などどうでもいいでしょう』と言いたそうにする。
「まぁ念の為、魔族の血が通ったものが居ないと破れない結界は部屋に張っておきましたけど」
「ざけんな! そういう問題じゃねーんだよ!」
「ふざけておりません。魔族とはそういうものなのです、ですが貴方がそのように怒る必要はないのでは? 私には貴方が心優しき聖女には見えないのですが」
「ははは! 聖女じゃなくたってキレるときゃキレんだよ! 今から退治したっていいぜああん!?」
「よしなさい、貴方が適う相手ではありません」
唇をかみ締め、このいけ好かないリッチーを睨みつける。
「でも、ここまで来れたことは褒めてあげます、アリサさん。貴方は強い方だ、あとバンさんもね」
彼は拍手しながら私達に微笑みかけた。
「王子を連れてきてくれてありがとう、いや、付き添ってくれてありがとうと言うべきかな」
「「・・・!!」」
この二人のどちらかだと思ったけど、まさかカイが!
でもなんで!?
カイのお父さんもお母さんも人間よ!
それに生まれた時だって、うちのばあちゃんが取り上げたって・・・
「・・・あっ、あえっ!? 俺!? でっでも俺勇者なんだけど」
すっごく混乱してるカイ。
って、そりゃそうか本人が一番驚くよな。
「そうよ! 魔王を倒す存在が息子なはずないじゃない!」
「いいえ、そんなことはありません。かの宇宙大戦争では親子で殺し合いが行われたそうですよ? そういう運命のイタズラもあるのでしょう」
突然告げられた衝撃の事実に開いた口が塞がらない私達。
「ですが流石カイ様! 勇者に選ばれるとは! 勇者の素質を持つ魔王の息子! 時期魔王として申し分ありません! もしかすると魔族と人間の対立を終わらせる架け橋になるかも! さぁ、私と一緒に魔界に参りましょう!」
「えっ、でも!」
ちらりとこっちを見るカイ。
「おい、リッチー! そんなこといきなり言われてもカイが困るだろうが! それにこいつは俺と旅に出るんだ!」
「なんの旅に? 魔王を倒すのですか? 実の父親を? 勇者に選ばれた心の優しいカイ様がお父様を殺そうなどと考えるはずがございません。それとも貴方は実の親を殺す様な人間なのですか?」
「そっ、それは・・・!」
まって、まって、待って!
何それ! なんて言えばいいの!? 何を言ってあげればいいの!?
駄目だ、頭真っ白だ。
何も考えられない!
だって、さっきまでここから出たら何をしようかって話をしてたのよ!?
・・・別に私はカイのことなんとも思ってないし、旅に出たいとか思ってないけど、それでもいきなり可哀想だよ!
「貴方達にカイ様を引き止めておく理由がありません、あとカイ様が勇者を続ける理由も」
「・・・」
何も口を出せなかった。
こいつが言ってることは一方的な事なのに、何も反論出来なかった。
「さぁ、カイ様行きましょうか、あっその剣は捨てていきましょうか」
「えっ、あっ・・・ちょっと俺・・・親父たちにこのこと言わなきゃ・・・それに急に言われても・・・」
「・・・では、こう言えばさっさと決心しますか?」
中々YESと言わないカイに悪い顔を見せるデモンハルト。
「貴方がこないと人間界を滅ぼします」
「「「・・・!!」」」
「デモンハルト!」
「許さねぇ!」
「私はお二人が敵う相手じゃないですよ? ですが、お望みとあらば!」
戦闘態勢をとる私達。
「やめてくれ! 分かったよ! 俺行くから! だから・・・誰にも手を出さないでくれ」
「はい王子! それでは行きましょうか!」
カイの言葉を聞いて嬉しそうに準備を始めるデモンハルト。
「ちょっと! あんたはそれでいいわけ!?」
「いいんだよ・・・でもごめんな、バンと一緒に旅ができなくて」
「謝るなよ! 一緒に行くんだろ! あんなやつ倒せるって!」
「それは無理だ、ここで逃げても俺がいるせいで魔族が人間に危害を加えたら困るだろ?」
「だからって・・・!」
「まぁ、これも勇者の役目だよ。俺は人々の幸せのために旅をするって決めたんだ。自分のせいで人間が滅ぼされたら嫌だもん」
「「・・・それは」」
「ありがと、最後に勇者らしいこと出来て嬉しかった」
寂しそうに笑って別れを言う彼を引き止めることは出来なかった。
「では王子!行きましょう! ゲートの用意は出来ました! あっ、その勇者の剣は捨てておきますね!」
背中に背負ってる剣を塔の外に放り投げてデモンハルトは機嫌よくカイの肩を抱いてゲートの中に入る。
「そちらの皆さん、鍵の方は開けておいたのでお帰りはご自由に、それではごきげんよう」
「じゃあ、元気でね二人とも、こっちの母さん達によろしく言っといて」
カイは振り返って私達に手を振る。
「待って! 行くなよ!」
「・・・分かった、バイバイ向こうでも元気でやれよ」
引き止めに行こうとするバンの腕を掴み、作った笑顔でカイに別れを告げる。
「アリサ! お前!」
「黙って笑え、あいつが一番堪えてんだよ」
ゲートが閉まるのを見て私達は塔を降りた。