お約束は案外違う形で裏切ってくる
「うわああ! ゾンビだ!」
「うわああってあんた勇者でしょうに」
冷静にツッコミを入れて、光線を放つ。
つか登ってたら何回も遭遇したじゃんビビりめ。
あれから私達は次々とフロアを攻略して行った。
私も結構戦えて少し満足。
なかなかやるじゃん私。
カイは当然として、バンも結構強かった。
「多分登ってきた人達だな、人間をアンデット系のモンスターにする魔族っていったらリッチーか・・・気をつけないと俺らもゾンビだぜ」
「大丈夫だ! 俺たち三人が力合わせれば負けるわけがない!」
「ちょっとフラグ立ってない?」
なーんかすっごく不安になってきたんですけど。
「あとバン、倒したゾンビから何盗ってんの?」
「あっ、つい癖で」
・・・奴隷商人ってか盗賊でしょあんた。
死体から物盗むって罰当たりめ。
「にしてもこの階ゾンビ多いな」
「じゃあそろそろ最上階だな」
「なんでだ?」
「ゾンビってのはリッチーが死体に魔法をかけて作んのよ、んでさリッチーってのは人間みたいに感情とかがあるわけ、1番上から下に降りてまた登るんだぜ? したら疲れないとこまでしか降りねぇだろ」
「確かに」
だったらタワー型にするなよ・・・
つかダンジョン作って意味あんのか魔族。
そういや、なんで魔族は人間を捕まえようとしてんだ?
まぁ、いいかそういうとこも勇者君が解明してくれるんだろうし。
「んー? あれ? この階、階段ないぞ」
「じゃあここが最上階ってことじゃない。魔族探すわよ」
「あぁ、どっかの部屋にいるはずだ、ゾンビに気を取られて見落としたんだろ」
「ねぇ! なんで二人共そんな冷静なの!? 最上階だよ!? 最上階! ここまで来たんだからさ、喜んだりしないの!?」
淡々と探索を始める私達に納得がいかない様子のカイ。
「ラスボス倒してないでしょーに」
「喜ぶのはここから出たらにしようや」
「クールだなぁ、しかも・・・なーんか二人とも息ピッタリ」
不機嫌そうな勇者の事は無視して私達は部屋を探す。
「あっ、これじゃない?」
「多分これだな、ほかの扉より不気味だ」
「・・・ほえー確かになー」
「おい、いつまで不貞腐れてんのよ。私と何年の付き合いよ、あんたが思ってるような関係にはならないっての」
まぁ、あんたが期待するような関係にもならないが。
「・・・旅に出たらまずはキャバレーにでも連れ出すかな」
「そうしてくれると助かる」
そんなバカ話をしながら扉を開け中に入る。
中に入ると、何処まで続いているのか分からない廊下が続いていた。
「・・・やっぱり、アリサは旅は俺についてこないんだね」
「当たり前よ、面倒事はごめんだわ」
「いいじゃねえか俺がいるんだし」
「バンとアリサがいいの! ・・・それにアリサは」
・・・もじもじしながら言うなっての。
「顔を赤くするなキモイぞ」
「うん、カイ諦めろ」
「酷いや!」
「でも、アリサの才能を腐らせるのは勿体ないよな」
「いいよ別に中途半端なものだし。それに私はカイと違ってお人好しじゃないし、あんたと違って憧れもないからさ」
剣が認めたのはカイだし、そもそも私の夢はのどかな田舎でハーブティーを飲んでお昼寝する事だし。
こんな危険なことはしたくないのよ。
「・・・だから、最初で最後の仕事くらい頑張ってやり遂げるわ」
廊下を渡りきったら、真っ暗な部屋。
その部屋の真ん中にある椅子に座っている黒いローブを被った綺麗な男の人。
「おや、珍しい生きた人間が私の部屋に入ってくるなんて」
「リッチー・・・本当にいたんだ」
「いかにも、アンデットの王リッチーでございます。人間の方々」
暗黒のオーラに怯みながらも戦闘態勢をとる私達。
「おや、そう警戒なさらないでくださいませ。どうです? お茶でもお腹減ってませんか?」
テーブルと椅子を用意しお茶を沸かすリッチー。
「「「はぁ・・・?」」」
拍子抜けした私達は戦闘態勢を崩し間抜け面を見せる。
「あっ、そうそう。私の名前はデモンハルトと申します以後お見知り置きを」
「「「はぁ・・・」」」
ニコリと笑顔を見せ名刺を渡してくるデモンハルト。
なんなんだこいつは、魔族のくせに私達に友好的だぞ?
「おいおい、どうするこれ」
「倒さなくていいのか!?」
「いやどうみたって罠でしょ!」
「・・・おや? 皆様どうされました? まさか紅茶は嫌いですか!? コーヒーにします? それとも緑茶!?」
そういう問題じゃないんですけど。
「・・・あの、デモンハルトさん? 何が目的なんですか?」
おそるおそる、カイがデモンハルトと名のるリッチーに話しかけた。
「うん? 私はただ貴方達とお茶がしたいだけですよ? ここまで登り詰めた方はいませんもの。少しお話したら塔から帰ってくれて構いませんよ」
笑顔を見せながら彼はケーキを切り分ける。
「なんか、悪い人じゃなさそうだぞ」
「何言ってんのカイ! あんたは本当にお人好しなんだから!」
「そうだぞ! 怪しさ満点だろ!」
「あーそうそう、お茶会せずに帰りたければ帰って結構ですよ・・・ただし私を殺さないと扉は開きませんが」
「「「・・・」」」
「私も血生臭いのは好みませんが、皆さんが望むなら・・・ですが私も死ぬのはごめんですので本気を出させて頂きますが」
「「うん、お茶会しよう」」
怪しいけど、その怖いオーラでとりあえず従っておいた方がいい気がした。