楽園と生き地獄
「・・・おぉ! これが楽園の塔か!」
空まで高く聳え立つ美しい塔。
「なぁんで私まで・・・」
この塔に命の危険を犯してまで登るとか何考えてんだよ。
隣のやる気に満ちたバカが、『俺が皆を救ってきます』なんて言ってしまったせいで、あそこに居た全員に塔の攻略をお願いされてしまった。
「でも、アリサが俺を追いかけて旅に出てくれたなんてなぁ・・・ほんと! 素直じゃないやつ!」
・・・こんな時にデレデレしながら私にそう言ってくるとはさすが勇者肝が据わってる。
あの話からどうしてそんな解釈になった。
「ははは! 本当嬉しいわー! あんたと一緒に天国への階段を登れるって!」
この嫌味をどう捉えたかはこいつのアホそうなにやけ面から分かる。
本当最悪、なんで私がダンジョン攻略なんか!
死にたくないよ! 私は無謀な馬鹿じゃないの! それなのにこいつが無理やり引っ張ってくから!
「というかなんでこの街にいんのよ、王様のとこ行ったんじゃないの?」
「行こうとしたんだけど、途中でタワーダンジョンから息子が戻らないって言う人がいてさ、助けてあげたいって思ったからこの街に来たんだ 」
「流石正義感の塊・・・」
「おお! もっと褒めてもいいんだぞ!」
・・・褒めてねぇよ、褒めるべき行動だけど。
やっぱ父さん、私はあの剣抜けなかったよ。
あれを抜くのはバカの付くほどのお人好しだけだ。
「ちょちょちょ!! 親方! なんで俺まで登んなきゃ行けないんすか!」
「当たり前だ! 奴隷達が戻ってこないんだぞ! もしかしたら宝を持って逃げたのかもしれん! 様子を見てこい!」
うっわー変なタイミング。
なんで、昨日の西の国の人達が来てるんだ。
「よし! 行くぞアリサ! 皆を連れて帰るんだ!」
「行ってこい! バン!」
「「いやああああ!!」」
カイに引っ張られながら、強制的に塔の中に入る私と、禿げたデブに背中を無理やり押され中に入れられた西の国の男の子。
あぁ、彼も私と同じで可哀想に。
目が合った時心の中で互いにご愁傷様と思ったに違いない。
「すっげー! めっちゃ綺麗! なんだこれ! 教会か!? それとも城か!?」
ダンジョンの内装を見て興奮するカイ。
確かにまぁ、綺麗だけどさ。
無理やり連れてくことなくない?
「そこの君もそう思わないか!?」
「えっ、あっ、俺?」
赤髪の少年は急に話しかけられたから少し戸惑って自分を指さす。
「君しかいないだろ、そういや名前は? 俺はカイ・ポリシャス! 勇者だ!」
「俺は、バン。バン・ロッソ」
「バンか! よろしくな! ところで揉めてたけど大丈夫か?」
「おいおい! 無神経な質問するんじゃないよ! どうみたって大丈夫じゃないでしょ! この人も私と同じなんだから!」
キラキラした笑顔で彼を見つめて心配するから思わず口を挟んでしまった。
「えぇ!? もっ、もしかして一緒にダンジョン行くの嫌なのか・・・?」
「当たり前だ! 無理やり死のダンジョンに行かされるなんて嫌に決まってるじゃん! こんな場所に行きたがるのはアホかバカか正義感の強い勇者だけよ!」
ショックを受けるカイ。
「でっ、でも一緒に旅に出るため・・・」
「それもちげぇよ、私は親父にあんたを超える勇者になれって無理やり街を追い出されたの、だからギルドで職探して金を稼ごうと思ったの!」
私の発言で更にショックを受けるカイ。
「なぁ、そんなに嫌なら帰れば・・・? 俺みたいに帰ったら面倒臭いことにならなさそうだし、カイとは俺が一緒に行くよ」
石みたいに固まってるカイの隣から、嬉しい提案をしてくれた赤髪君。
「だよなー! ありがと! えーっとバン君! もう会うことも無いけど私はアリサ・エルヴァンディア! 君のことは忘れないぜ! つーわけで帰るわカイ! 達者でなー!」
「ちょっ!? アリサ! まっ待てよ!」
「待たないよー! 私は帰って新しい街に・・・」
外に出ようと扉を掴んだが全然開かない。
「あっ、開かない!! 何よこれ! ってぎゃああああ!!!」
扉を引っ張り続けていたら急に扉が光って私を部屋の中に押し返した。
「・・・まっ、まさかこれって閉じ込められた!?」
まさか! 最初の方は帰ってた人達もいるって聞いたのに!
「何であかないのよ! ちくしょー!」
「おっ、落ち着けよ、一緒にダンジョン攻略して出ようぜ!アリサ!」
「ふざけんな! てことはこの塔全部登りきらなきゃ行けないじゃない!」
「そして魔族も倒さないとな」
まじかよ!?
しかもバン君超絶落ち着いてるし!
「あーあ、そりゃ帰ってこないわ。有魔タイプは厄介すぎんだろまーでも勇者がいるなら生きて帰れるかなー」
「ブツブツなんか言ってるけどバン、ダンジョンについて詳しいのか?」
「ん? あー、職業柄な、色々調べるんだよ」
・・・そりゃ、奴隷をダンジョンに放り込んで宝物を収集してるから詳しいよな。
「このタイプは最初に宝で人を釣って、どんどんダンジョン内に潜り込ませて人を閉じ込めて置くんだ。んで出るには最深部にいる魔族を倒さないといけないのさ」
「うっわ、最悪」
「なーんだすぐ出れるじゃん」
「「はっ?」」
勇者様と意見が食い顔を見合わせる。
「こりゃ頼もしい! 勇者に選ばれるやつは違ぇや! そこの根暗な嬢ちゃんは安全な1階で待ってな!」
カイと肩を組んで機嫌よくそんなことを言うバン。
「あぁ!? 誰が根暗よ!」
「お前だよ、金髪の嬢ちゃん。グチグチネチネチさっきから文句しか言ってねえ弱虫ちゃん」
出会ったばっかのやつになんでこんなこと言われなきゃいけないのよ!
ムカつく! 腹立つ! いっぺん死ね!
・・・いけないいけない落ち着いて笑顔を作ろう。
「あんたみたいな非人道的なことやってる奴に人格否定されたところで、悔しくもムカつきやしねぇわよ、奴隷商人。よかったわね~人の命弄んだくせに自分は勇者と一緒だから助かりそうで」
ニコニコ笑いながら、ついつい煽ってしまった。
あっ、やっべー、見ず知らずの人に喧嘩ふっかけた。
でもしかたない、やられたらやりかえすのがアリサ流よ!
おばあちゃんも言っていたわ!・・・多分。
「・・・奴隷商人?」
「ほーてめぇ、よく俺の事分かったな」
「昨日とさっきの話で分からない方がおかしいわ」
「あー! お前昨日親方にぶつかった金髪! こんなクソ野郎だったとは! あそこで難癖付けておけばよかった!」
「てめぇ! 本性出してきたな!」
「あぁ!? やんのか金髪!」
「やってやるよ赤髪!」
「あのーちょっとお2人? 塔登らない? こんな所で体力消耗してもこまるしー」
「「・・・それもそうだな」」
「ほっ・・・」
カイは私達が争うのをやめたのを見ると胸を撫で下ろした。
「じゃあ、登ろう」
「ええ、さっさとここから出ましょ」
「「赤髪(金髪)クソ野郎と早くおさらばしたいしな」」
見えない火花をバチバチ散らして気に食わないヤツらとダンジョン攻略。
・・・あーあ、どうしてこうなった私。