自称勇者爆誕
「おぉ! 剣が抜けた! 君が勇者だ!」
「おっ、俺が!? アリサ! 見たかよ!」
私の幼馴染が勇者の剣を石から抜いた。
魔王を倒す為かつて神がこの世に落して石に刺さったまんまになった、勇者の剣。
その剣を抜いたものは、旅に出て魔王を倒さなければいけない。
そんな言い伝えのせいで彼はこれから勇者となり命懸けの冒険に出なければいけない。
「うん、頑張ってねカイ」
大変だなぁと思い彼に微笑みかけて労いの言葉を伝えた。
「やっぱりカイが抜くと思ったよ! 街で1番強いもんな!」
「おう! お前らありがとな!」
街の同世代が彼を嬉しそうに讃えてる。
本当に凄いとは思う。
まぁでも、それを羨ましいとは思わない。
だって、命をかけてまで魔王と戦いたくないし。
怖いよ普通。
それに、魔王軍と人間なんて何百年も前からいがみ合ってるんでしょ?
それならその百年前の人達が倒してよ。
なんで百年間も剣ささってんだよ、抜けよ。
うちらに押し付けんな。
だけと、旅に出るのは私じゃないしどうでもいいか。
「なぁ、アリサ。俺と一緒に旅に出ようよ」
「はぁ? なんで私が」
突然勇者君が私に馬鹿なことを言ってきたので思わず本音が出てしまった。
「相変わらず連れないな」
「だって私が行ったって役立たずなだけだよ」
本当は面倒臭いだけだけど。
「そんな事ねぇよ! 魔法も使えるし戦えるだろ!」
「嫌だよ、だって私戦うの怖いもん。それに私の夢はのどかな大地で牧場経営することだし」
「おいおい! アリサ! カイがお前を誘うってこたぁ、アレだろ! 察せよ!」
五月蝿いなぁ外野がブーブー文句言いやがって。
「悪いけど、アリサちゃんは勇者の仲間とか嫁とか興味無いのだよ、あと変な事考えるなよ外野、私は一生独身貴族だ」
「「ティーンネイジャーが何言ってんだよ!」」
あーうるさい、うるさい。
勝手に言ってろばーか。
「じゃあ、カイ! 王様にあいさつしてすぐ出発だ! 馬車に乗れ!」
「おう! それじゃあな皆! 俺頑張ってくるよ!」
街のおじさんが馬車の扉を開けカイはそれに乗り込んだ。
「アリサ! 魔王倒したらお前の夢手伝わせろよな!」
「・・・あー、魔王倒した金で出資してくれれば助かる」
「おう! だからちゃんと一人で待ってろよ! じゃあな!」
そう言って彼は旅立った。
「おい! アリサ! カイに対して冷たいぞ!」
「そうだよ! 分かってるんでしょ!?」
皆がいい加減にしろと私にとやかく言ってくる。
だって本当に興味無いし。
私を幸せにしてくれるのは、金と穏やかなティータイムだ。
男じゃない。
まぁ、仲のいい友達が一人居なくなるのは寂しいけど。
ここにいるとずっと責められそうだったから、走って家まで逃げた。
「おい! アリサ! 勇者の剣抜けなかったのか!」
家に帰った瞬間親父が血相変えて私を出迎えた。
「おう、悪いな親父」
へらっと笑ってそう言ったら親父は予想以上に悔しがった。
「しかもよりによってあの虫けらが! いつも、アリサに色目を使ってたあの虫が!」
「おっ、落ち着いてよお父様、別にいいじゃない私が勇者にならなくたって、お父様に親孝行してあげられるわよ?」
親父が興奮したからキャラを変えてお淑やかになって彼を落ち着かせようとした。
「落ち着けるか! 我が子が1番最強で可愛くて勇者にピッタリだと思ったのに!」
「親バカだなぁ親父」
「親父って言うな! お父様って呼べ! それかパパだ!」
・・・残念な親父だ。
「いいか、アリサ。俺はな可愛くて、強くて才能溢れる娘に一番になって欲しいんだよ」
「そんな才能ないよ、パパん。それよりさーあ、可愛い娘にさ大きな土地とかプレゼントしてくれなーい? パパと一緒に牧場経営したいなーなんて」
にこっと笑って言ったら複雑そうな顔して親父は私を見る。
「子供の頃から、魔法に勉強に剣や武道! アリサには色んなことを教えてきた!」
「・・・まぁ、全部適当にやったから中途半端に身についてるけどにゃ」
だから、あのアホに全部追い抜かされたし。
「・・・とにかく! お前には勇者になるべき人間なんだ! 父さんの夢を継いで勇者になるのはお前しかいない!」
おいおい、そういう夢の押しつけはやめてくれよ。
今の世の中毒親って叩かれるぞ?
「だからな、お前も旅に出ろ」
「はっ?」
「ほら、可愛い冒険服もあるぞ」
「確かに動きやすくて可愛いが着ないし、行かねえよ!!」
「頼む!! もう街の皆にも言ったり新聞社にも言ってるんだ!」
「勝手なことすんな!私は行かないからな! というか母さんはにはなんて話したんだよ! 許したのか!?」
「北のデュモワール帝国で待ってるってさ!」
親指をグッと立てる親父を見て殴ろかと思った。
というか母さんまで、私の事勇者になるって思ってんのかよ!
「おーい! アリサ! 勇者を越える勇者になるって本当か!?」
「アリサちゃーん! 旅に出るって本当!? 」
「アリサ! 頑張れよ!」
「アリサ! ほら! うちで一番の剣だよ!」
・・・どうすんだよこれ。
私旅に出なきゃ行けないと行けない雰囲気じゃないか!
街の皆が急に家に駆け寄ってきた。
おいおい、カイが旅立って1時間くらいだぞ!?
「あっえっとその・・・」
「はい! うちのアリサは勇者を超える勇者になります!あんな剣なくたってアリサは魔王を倒します! 倒すまでこの街に帰ってこないとも言っています!!」
「てめっ! 勝手に決めんなクソ親父!」
「「「「きゃー! 凄い! やっぱりアリサも旅に出るんだ!」」」」
仲のいい女の子達がキラキラと目を輝かせる。
「げっ、あー、あのな、私は・・・」
「皆の衆! アリサを讃えるぞ! 自ら魔王退治の為立ち上がったアリサ・エルヴァンディアを!」
こうして私は、無理やり勇者にされ旅に出る事になってしまったのであった。