待たれよ
お待たせしました
「主様、落ち着いてください」
「俺は落ち着いてッ!」
落下中の主様の顔を両手で掴み、視線を固定した。少しやつれて顔の中で眼だけが野性動物のようにギラついている。
「落ち着いてください」
「……分かった」
目を合わせながら穏やかに、しかし声に張りを持たせて訴えかける。相手は興奮して勝てるような甘い相手ではない。
策を弄し、自分の有利な地形を選び、巣を張って、全力で暗殺しにかかなければ勝つことは出来ない。
「はぁ……はぁ……」
「傷付いている?」
「何故魔獣ごときが呪具を扱えるッ!!」
岩が吹き飛びターレンスが現れた。エリムサルエで切りつけたのに無傷……肩から微かに血の匂いを感じる。
僅かに肩を傷付けただけか……それでも呪具は通じる。攻撃が通らないなどという絶対的有利は崩れた。くくくくくく!!
「……」
「……!!」
主様をの方を見ると目が合った。静かに頷き跳躍、巣を張って糸を駆け回りつつ、ターレンスの腹にエリムサルエをぶち込む。
私を切ろうとしたターレンスの背中に主様が黒くした剣で刺突を放ち、流れるように左脇腹を薙ぎ払った。
しかし、その攻撃は奴に通らなかった。なるほど、呪具でなければ攻撃が通じない。これでは実質一対一になる……。
「ぬぅぅんっ!!」
「父親によく似ている……極めるのはやはり武具でなくてはな」
「っ!!」
主様の剣を脇に挟んで止めたターレンスの頭をエリムサルエで薙ぎ払った。よし、当たった……!!
倒れていない……?何か硬いものに当たったかのような感触……武器?私の攻撃を防げるのは並の武器では出来ない。
「カルウェナン……元は同胞だ。お前達では使いこなせるはずもない」
「先取……」
消えた……?どこにも奴の姿が確認できない。どこに隠れた?なんにせよ主様を放置するわけにはいかない。
主様には攻撃する手段がない。その上今の得物はただの首狩り刀、遺物の中でも最も火力の高いカルウェナンを防げるわけがない。
「かふっ!!」
「ぐぅ……ゴホッ、ゴホッ!!」
何が起きたの?脚が上手く動かない。これは脳震盪……?蹴りを入れられた?一体どうやって?主様の回復に行かないと。
血を吐いているという事は内臓をやられた可能性が高い。早く回復しないと手遅れになる……!!
「死ね」
「シィィィィイ!!」
「お前もこれで……こぉっ!!」
右手で糸を出し主様を確保、左手でエリムサルエを伸ばして吹き飛ばす……上手く行って良かった。
吹き飛ばしている間に逃げなくては……私一人で勝てる相手ではない。遺物一つでは止めは刺せない。
「……逃げますよ!!」
「まだ、あいつはまだぁ……!!」
「攻撃も通らないのにどうするんです!!今は逃げて、遺物を探さない事にはどうにもなりません!!」
「くっ……」
糸を左右の壁に張りながら全力で走る。とにかく時間を稼いで零番街出口へと向かわなくては……!!
そう、残りの街ならば遺物が保管されている可能性はある。そのためにもまず、逃げなければ……。
「逃げ切れるとでも思っているのか!!何人死のうと構わない、出口を塞げ。女神ヴィクトリア様にその身を捧げろ!!」
「チッ……もう復帰しましたか」
しかし、出口を突破すればここから出られるのは不幸中の幸い。私の全速力を持ってすれば奴から逃げる程度……造作もないっ!!
「主様、歯を食いしばってください。全力で走ります!」
「……分かった」
「行きますっ!!」
時間がゆっくりと流れているのを感じる。見えた……!!あの門を潜れば地上に出られる。
雑魚共が壁を作っているがこの速度とエリムサルエを持ってすれば塵芥に過ぎない。
「曙光」
夜の闇を晴らす曙光のように……何よりも早く、力強く、敵を打ち破る。後ろを振り返るとターレンスの姿が見えた。
来たっ!!およそ300メートル先っ!!昇降装置に入った。地上のボタンを押してドアを閉めるボタンを連打した。
「主様っ!無事ですか?」
「あぁ……なんとかなった、のか?」
「えぇ……えぇ……逃げ切りました」
力が抜ける……ここまでやれば安全だ。地上までまだ少し時間がある。体力を回復しておこう。
主様の体にも目立った外傷はない。今すぐ処置を施さなくても大丈夫そうだ。これからどうしよう……。
「逃がすか、はぁ……はぁ……女神様から逃げられると思っているのか……!!」
「な、に……?」
「所詮貴様は私達から力を与えられただけの人形ッ!!そんな力で私にっ、己の身命を掛けた我々に勝てると思っているのかァッ!!」
こいつは今、なんと言ったっ!!こいつは今何を言ったっ!!殺すっ!!こいつだけは殺すっ!!
この人が、何をしても無意識に達成感が罪悪感に変わるこの人が、そんな事は一番分かっている!!
「いつまでも前の女を気にするような!私の愛するこの人がっ!!そんな事を分かっていないはずが無いだろうがっ!!この人がッ、そんな力を使いたがる訳が無いだろうがっ!!だから私がやるんだっ!!何をしても納得出来ないこの人の代わりに、全部!全部やるんだっ!!知ったような口を利くなっ!!」
「くくく、弱者の馴れ合い……いつまでもそうやって傷を舐めあっていろ!!」
「ッスゥ〜〜〜〜」
主様が立ち上がり奴の真上に立った。な、何を……主様は立っている事すら出来ないはず、こうして意識を保っているのもやっとn
「立ちふさがる物は全て砕け散れ、砕けろ、無くなれっ!!穿神・砕骸衝!!」
主様がエリムサルエを伸ばして3度床を叩きつけた。一撃目で床が崩れ、ニ撃目でターレンスがくずされ、三撃目が顔を打った。
今まで見ることすら無かった鮮血と骨の欠片が辺りに飛び散り、奴が下へ下へと落ちていく。
「ごぉおぉおぉぉおぉぉおお!!」
「はぁ……はぁ……はぁ……」
主様がエリムサルエを天井に刺してかろうじてぶら下がっている。早く引き上げないければ……!!
「エリムサルエは……はぁ……はぁ……こうやって、使うんだぞ……」
「主様?主様!!」
床の上でピクリとも動こうとしない。脈はある。呼吸も正常。臓器にも影響は見当たらない。疲れて寝てしまっただけか。
「ん、ぁ……私も少し──眠──く──」
次は一週間後だと思います




