表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
57/126

やっぱね、ピクニックは○○○の前にせなあかんのですわ

おまたせしました

 白露の指差す方向は森の方だった。出そうで嫌だな……。幽霊よりも人間の方が怖いとはよく聞くが、俺はそうは思わない。

 どれだけ凶悪な人間でも究極的には物理で対処できる。だが……霊は違う。霊の方が圧倒的に怖いと思うのは俺だけだろうか?


「あ……」


 水場に着いてから気が付いた。もしかして片腕では水をタンクに貯めても一度に運べないのでは?

 タンクの数は4つ……こんなおどろおどろしい森を4往復しなければいけないのか?何ということだ……。


「ふぅ……一往復」

「ふっふふっふ〜ふふふ~ふふっふふ〜」


 白露はテントの布を織っていた。大分集中しているようで俺に気付いていない。……気は進まないが行くか。


「……」


 静かに、しかし早足で水場に向かう。本当なら落ち着く森のせせらぎすら恐ろしい。何故こう暗いとおどろおどろしくなるのか。


「よし、2往復目」


 早々に水を汲み、何かが居そうな雰囲気に見えて来た水場から立ち去った。何かしら言葉を発さなければ恐怖に潰されそうだ。


「主様〜」

「うわぁぁぁぁぁあ!!………………なんだ、白露か。驚かさないでくれ」

「終わりましたか?」

「まだだが……」


 後ろから急に声をかけられた上に頬に手を当てられれば驚く。こんな場所は特にだ。

 あまりに時間がかかっていたから様子を見に来た、といったところだろう。嫌な場面を見られてしまった。


「なるほど……確かに手の大きさが足りませんね。よっ、と」

「ぬ……!?」

「さ、行きましょうか」


 手に持っていたはずのタンクがなくなっていた。まさか、この一瞬で全てのタンクに水を汲み戻ってきたとでも?

 白露の事はいつも美しいとしか思ってこなかった。だが、改めて俺は白露に生かされているだけなのだと感じた。


「ふ〜」

「おわぁぁあぁぁあ!!」


 耳に生暖かい空気が当たった。心臓が張り裂けそうだ……こんな台詞はもっと恋愛的な状況で言いたかった。

 白露がクスクスと笑っている。平常時ならかわいらしかっただろう。だが、今は般若の笑みに見える……。


「ふふっ、かわいいです」

「こんな雰囲気の場所でそれは洒落にならない。やめてくれ」

「嫌です」

「そんな……」


 いい笑顔だ……。例えるなら子供が蟻の巣を破壊している時に浮かべる無邪気な笑みだろう。蟻の巣に謝罪してなかったな……。

 蟻の巣を破壊?俺はいつそんな事をした?少なくとも今はそんな事をしていない。昔の記憶か……?


「れろぉ〜」

「ひぃいぃぃ!」


 何か生温かい液体が首筋にっ!なんだ、霊の仕業なのか?悪霊がいるのか?早くこんな場所からおさらばしなければ。


「主様、主様〜」


 白露の声が後ろから聞こえるが、白露のスピードならすぐにでも追いつく。早く、早く明るい所に……!!

 バランスが取れない……っ!こんな悪路でバランスを崩してしまったら足が土に引っかか……あ。


「主様〜!」

「はぁ……っしょ」

「今治しますから!もう少しの辛抱です!!」


 白露が手と膝の擦り傷を見て鬼気迫る形相で肉薄してきた。そこまでバタバタするような怪我ではないと思うのだが。

 白露が出血箇所からピンセットで丁寧に異物を取り除いていく。このピンセット……白色?それに細い繊維質がある。

 まさか、この短時間でピンセットを織って作ったと?もしそうだとすれば脳の出来が違う……。


「ふ〜」

「ありがとう、後は」

「主様、手品を見せてあげますね」

「あ、あぁ」


 白露がどこからともなく白いシルクハットとステッキを取り出して口に人差し指を当てた。あざとい……。


「この種も仕掛けもないステッキ、これで触れると不思議なことに傷がたちまち治るんですよ」

「ほう、見せてくれ」

「いいですよ」


 白露から手渡されたステッキはごく普通のステッキのようだ。大きさ、軽さ、色、振り心地、全てにおいて普通のステッキだ。

 食えない顔をしている白露にステッキを返した。なんとも嫌な顔だ……。だというのに美しさを醸し出しているのは流石白露だ。


「はい、いきますよ。いち、に、さん!」

「!?」


 膝の傷がみるみるうちに塞がっていく。これは……種も仕掛けもない回復魔法だな。本物の魔法なんだが?

 まぁ、回復属性に魔力を変質させられる人間は1%、かつ実際に魔法に出来るのはそのうち5人に1人。

 凄い事には変わりないが、手品師として凄いかと聞かれれば……返事に困る。種も仕掛けもない奇跡を起こされてもな。


「はい、出来ました」

「凄いな」

「ありがとうございます」


 ドヤ顔をしている白露が見られた事だ、褒めて正解だった。まぁ、手品師に種が分かった事を報告するなど無粋の極み。

 少し落ち着いた、こんな森からはさっさと出てテントに戻り霊に襲われない内に寝なければ……。


「主様、早く帰りたいようですね」

「何故そう思う?」

「主様……足が震えてますよ」

「!?」


 声に集中していた為に足がおろそかに……!!遠い昔の頭隠して尻隠さずという言葉を今体験する事になるとは……。

 白露の優しげな視線が痛い。優しさがここまで痛いとは初めて知った。余計にさっさとテントに戻らなければ……!!


「よっこいしょ、っと」

「俺はそんなに重くな、重くないよな?それにいきなり背負われると心臓に悪い……」

「主様結構重いですよ?それに早く戻りたいならこれが一番です。私のダッシュで大抵の障害物は薙ぎ倒せますし」

「……そうか」


 白露が8本ある脚を振り始めた。脚力のせいか振るたびに地面が抉れているのがなんとなく愛らしい。

 何故地面に脚を押さえつけている?まさか早速飛ぶのか?事前に一言あるよな?お姫様抱っこはされる側に結構な負担がk


「いっち、に、さん、しっ」

「ぁぁあぁぁあ!!」


次は日曜日です

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ